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住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?  作者: 赤月ヤモリ
第三章 渋谷ダンジョン編

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ep47 騎士と探索者

 僅かな浮遊感の後、足元に地面の感触を捉える。転移が終わったと判断すると同時に、俺は周囲を見渡すよりも早く後方へと大きく飛びのいた。


 刹那、魔法陣の場所目掛けて夥しい数の魔法が降り注ぐ。

 待ち伏せ――古典的だが効果的な策だ。


 これがテスタロッサやギュスターヴといった比較的正々堂々と戦うタイプの相手なら警戒する必要もなかったが、先ほどまでの会話で相手の卑劣さはある程度理解している。

 予想して回避するには十分だ。


 距離を開けて着地すると同時に『フレイム・サーチ』を展開。

 敵の位置だけでなくこの場所の地形も把握する。


 そこは広い空間で、戦うにはまさに絶好の階層といえた。

 先ほどまでいた三十六階層に似て、洞窟の中に生まれた広大な空間といった印象だ。


 しかし、見覚えはない。のの猫の配信で渋谷ダンジョンの階層もある程度把握しているが、それでも知らないということは、彼女が潜ることのできないレベルの階層か、或いは彼らが準備した階層なのか。


 周りにはモンスターが潜めそうな岩陰も散見されるが『フレイム・サーチ』にモンスターの反応はなく、唯一反応したのは、前方で待ち構えていた三つの人影だけ。


 サドラを筆頭とした決戦騎士たちだ。


「さて、邪魔者も居なくなったことだ。改めて自己紹介と行こう。私の名前はサドラ・ウォーカー。シーフォース王国が誇る『決戦騎士団』第二席にして副団長を務めている」


 これに続く形で、エルフの女が口を開いた。


「同じく『決戦騎士団』第三席、クァン・サヴァノ」


「ボクは第五席のヤトラ・ルー。よろしくね」


 最後に桃色の髪の少女が締める。

 知らない単語ばっかりだけど、なんとなく理解はできた。

 なので俺は小さく息を吐き、思ったことを伝えることにした。


「色々と質問はありますが、これだけですか?」


「というと?」


「いえ、罠だなんだとおっしゃっていたので。てっきりテスタロッサかルナリアのどちらかが居るのかと考えておりました」


「あれの名前を出すな。虫唾が走る」


 苛立たし気に表情を歪めるサドラ。


「なるほど。一枚岩ではないのですね」


「当然だ。そもそも我々がこうして貴様らを皆殺しにしようとしているのも、あれらから国民の身を守る為だ。あんな人外ども……特に、他者を害することに歓喜し、自らの実力を誇示することに悦楽を覚える、あの忌まわしきドラゴニュートと同じにしないでもらいたい」


 堂々とした言葉に、俺は苛ついた。

『同じにしないでもらいたい』などと言っておきながら、結局同じことをしているじゃないか。国民のためだ何だと言っているが、要は自分たちの都合で、俺たちに攻撃を仕掛けている。


 これを詭弁で取り繕おうなど、傲慢にもほどがある。


「俺からすればどちらも同じことですね」


「貴様からすればそうだろう。違いがあるのは我々の視点だ。少なくとも、アレらと違って我々には悪意がない。罪なき貴様らを虐殺することに対しても、強い忌避感を覚えている。……だが、嫌だ嫌だと思っていても、やらねばならない事というのは往々にして存在する。今回が正しくそれだ」


「言い訳ですね」


「そうだ。言い訳でもしなければ貴様を殺すことを躊躇してしまうからな。これも一つの技術なのだよ。言い訳をして、現実から目を逸らし、逃避して、自制心をかなぐり捨てて、全てを『仕方がないことだ』と簡単に片付けることで自分自身を洗脳する。そうすることで、殺意は研ぎ澄まされ……貴様を殺害することも躊躇わなくなる」


 言い切ると同時に、サドラは腰の剣を引き抜いて構える。

 右手に剣、左手には大盾。

 鋭い目つきと隙のない立ち姿は歴戦の猛者の雰囲気を醸し出している。


 ――いよいよ、殺し合いが始まる。


 俺は『魔質増強剤』の入った荷物を遠くに放り投げると、小さく息を零して氷の剣を生成しながら構える。魔質増強剤は強力だが、最悪廃人になる違法薬物。前回は問題なかったが、二度目ともなるとリスクは跳ね上がる。故に、使用は最終手段だ。


 俺は静かに、僅かな動きも見逃さないように観察し……サドラの盾でエルフの女――クァンの姿が隠れたかと思うと同時、夥しい数の雷撃が飛んできた。


 雷属性上級魔法『ライトニングスラッシュ』。


 目にも止まらぬ速度で飛翔する雷撃を、俺は魔速型で回避する。

 が、回避先を読んでいるかのように雷撃は降り注ぎ……。


「くそっ!」


 回避しきれない攻撃を氷の剣と左腕の義手『No.1アルファ』を使って叩き落していく。幸いというか流石というか、アダマンタイトの義手には傷一つ付いていない。反応速度も想像以上で、若干大きすぎるという点を除けば、元の左腕同様自由自在に動かせた。


 直撃すれば四肢が捥げるだろう威力の雷撃も、当たらなければ意味はない。


(これなら――! ……っ!?)


 雷撃の雨を迎撃していると、目にも止まらぬ速さでサドラが突撃してきた。膨大な攻撃の雨の中を、一切躊躇することなく盾を構えて身を低くしながら突き進んでくる。


 瞬きの間に彼我の差を埋めて懐に潜り込んできたサドラは、地面を滑るような低空からの切り上げを放つ。髪先を斬られながらも紙一重で回避。直後、クァンの『ライトニングスラッシュ』が降り注ぐ。


 慌てて『アイスエイジ』で身を守り、続くサドラの切り下しを氷の剣を横に寝かせて防ぐ。すると開いていた脇腹にシールドバッシュを叩き込まれ、俺は後方へと弾き飛ばされた。


 地面を転がり、されど休む時間などない。勢いそのままに立ち上がると、即座に追撃の雷撃が降り注いでくるので、再度『アイスエイジ』で防御。否、防御するだけじゃジリ貧だ。


 俺は広範囲に『アイスエイジ』を展開。

 俺とサドラだけを中に閉じ込めるように、氷の壁で箱を作り出す。


「ほう、見事なものだ」


「これで邪魔は入ら――」


 ない、と続けようとして、魔法が聴こえた。


「『ドミネーション(・・・・・・・)』」


 それは桃色の髪の少女、ヤトラの声だ。

 聞き覚えのある魔法は俺に向けて放たれ……刹那、思考に空白が生まれる。意識が何者かに乗っ取られそうになり、身体の自由が消失。その隙を逃さないとばかりにサドラが勢いよく迫り……。


「っざけんな!」


 唇を噛み締めて気を確かに持つと、迫るサドラに魔速型で応戦した。ダンジョンの床をひび割れさせるほど強く踏み込み、勢いそのままに『No.1アルファ』を叩き込もうとして――。


「愚かな」


 見え見えの攻撃は、大盾で簡単にいなされた。

 『No.1アルファ』は氷の壁に激突して大穴を開ける。

 すると、コンマ数秒の間もなく、開いた穴から雷撃が内部に侵入。

 氷の箱という狭い空間の中で、正確に俺を狙う。

 半数は俺を直接狙い、残りの半分は回避先を潰すように降り注ぐ。

 そうして残されたほんの小さな回避先にはサドラが待ち構えており――。


(なんて連携だよ!)


 サドラの剣が振るわれる。

 こちらも氷の剣で応戦し、鍔迫り合いに発展。力で押し込もうとした刹那、サドラは剣を横に倒して距離を詰めると、身体を捻って盾で顔面を殴りつけてくる。


 鼻が潰され、ぼたぼたと赤い血が噴出するが、構っている余裕はない。僅かに距離が開いた瞬間、雷の魔法が降り注ぐ。


「……っ、クソがッ!」


 こうなれば氷の壁は逃げ道を塞ぎ、返って邪魔になる。

 俺は魔法を解除。

 氷の壁から脱出すると一度大きく距離を取ろうと跳躍する。

 そのまま一度空中で体勢を整えようとして……。


「『ドミネーション』」


「ぁが!?」


 思考に穴を開けられた。

 一秒もかからず意識を取り戻すも、その無防備な間隙を許す相手ではない。

 クァンの雷撃が三度迫り――。


「鬱陶しい!」


 俺は火属性極大魔法『インフェルノ』を発動して、周囲一帯を吹き飛ばした。

 これにより、俺は久しぶりのフルチンスタイルにフォルムチェンジ。


 ぐつぐつと煮えたぎる床が固まり、酸素が戻るのを待ってから――当然の様に爆発を回避した三人の姿を視界にとらえた。


(殺さないようにセーブしたとはいえ、髪の一本も焦がしてないとか……読まれたかぁ?)


 しかし目的通り距離を開けることには成功した。

 接近戦に対する警戒心も強めさせることができただろう。


 余裕が生まれた俺は、今一度三人の実力を分析。


(『決戦騎士団』……はっきり言ってヤバいな)


 まずはその連携。

 前衛のサドラ、後衛のクァン。

 そしてヤトラが『ドミネーション』で隙を作る。

 王道といえば聞こえは悪いが、要はその完成度がとてつもない。


 この連携を打ち崩すのは難しいだろう。

 かといって、個々人が弱いという訳でもなさそうだ。


(特にサドラは化物だな。テスタロッサとはまた別の剣術だが……強い)


 洗練された剣戟と、防御だけでなく攻撃にも転じる盾の使い方。

 殺すだけなら全く問題ない(・・・・・・)相手だが、倒す(・・)となると面倒にも程がある。


 弱いから群れているのではない。

 強い奴が協力しているんだ。


(やってられない……けど、やるしかない)


 奇しくも、戦闘が始まる前にサドラが口にしたことと同じことを思う。


 ――『嫌だ嫌だと思っていても、やらねばならない事というのは往々にして存在する』


 俺は胸中でため息を吐き、今一度気を引き締めようとして……刹那。



     『右』



 何か、声のようなものが聴こえた。

 それと同時に視線を感じ、俺は右側の何もない空間へと腕を伸ばす。サドラもクァンもヤトラもまだ距離を取っている中、伸ばした俺の右手は……何もない空間で何か(・・)を掴んだ。


「がっ!? な、なんで……っ!?」


 それは女だった。


 伸ばした腕の先に、一人の少女が姿を現す。

 白髪にぴょんと立ったケモ耳の女だ。

 他三人と同じく『決戦騎士団』の制服に身を包んだ彼女は、両手に短剣を握っていた。


 謎の声がなければ不意打ちで殺されていただろう。


 そんな彼女の首を、俺はしっかりと握っていた。


 余りにも人外じみた反射に自分自身驚いていると、ケモ耳少女は隙を突いて短剣を振りかぶる。狙いは彼女の首を掴む俺の右手だ。


 俺は咄嗟に首から手を離して回避すると同時に、彼女が逃げ出す前に再度右腕全体で彼女を抱きかかえるように拘束した。身長差から少女の足が宙に浮き、ぷらぷら揺れている。


 傍から見れば完全に事案。

 全裸でケモ耳美少女を抱きしめる変態だ。


 だが、仕方がない。

 だって……やらなければならないことは往々にして存在するのだから。

 裸で女の子を抱きしめるのもその一つ。


(なんか泣きたくなるね)


 ため息を零しつつ、俺は警戒しながらサドラたちへと向き直った。


「俺の記憶では三人と仰っていた気がしますが……それも嘘だったのですか。悲しいですね。騎士(・・)ではなく詐欺師(・・)だったのですか?」


 俺の挑発に、サドラは乗らない。

 それどころか酷く失望した目付きでため息を零した。


「……はぁ、人質を取って最初の言葉がそれとはな。あまりにも幼稚過ぎる」


 刹那、サドラは人質を一切気にした様子なく攻撃を再開。

 クァンの雷撃の雨が再度降り注いだ。


(マジか!? ってか……あのエルフ、いったいどれだけ魔力があるんだよ!)


 内心毒づきながら、俺は迎撃の姿勢を取った。


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― 新着の感想 ―
幼稚よりもプライドの欠片もない詐欺師の方が… まぁ、プライドじゃ生きていけないけどさ
某ソシャゲで自分たちの種族の存亡をかけた果てに一人に生き残った全国民のリソース注ぎこんで怪物打ち倒した勇者王知ってるせいかなんかチープに見えるんだよねこの手の覚悟(笑)してる騎士たち
主人公は相手のことかなり舐めてますね。まあ相手にも伝わってるとは思いますけど
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