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住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?  作者: 赤月ヤモリ
第三章 渋谷ダンジョン編

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ep44 憎悪

 部屋を後にした俺は、ふと思う。


(念のため、白木たちに連絡しておくか)


 俺をおびき出すためか、現状夜叉の森ダンジョンには『異変』が発生していない。とは言え、今後もそうだとは限らない。夜叉の森ダンジョンは、白木の他にも優秀な探索者が多く在籍しているが、注意喚起しておくに越したことはないだろう。


 そんな訳で、スマホを取り出しピポパ。


「あ、もしもし白木か?」


『う、うん。そうだけど、どうしたの相馬っち? こんな夜中に』


「実は探索者として伝えておきたいことがあって……」


 現在全国で発生していることを掻い摘んで説明。


「という訳で、夜叉の森の方も注意しといて欲しいんだよ」


 すると、何やら歯切れの悪い言葉が返ってきた。


『あーっと、その……頼ってくれるのは嬉しいんだけど、ちょっとそれは不可能っていうか……何と言うか……』


「不可能?」


 疑問を返しつつ、俺は渋谷探索者ギルドに入り、集合した探索者たちの間を縫いながら最前線へと向かおうとして――、スマホを耳に当てる亜麻色の髪の少女を発見した。


『実は私……っていうか、私たち、今東京に居るんだよね」


 最後の方の言葉は、目の前の彼女から聞こえてきた。

 というか、向こうも俺に気付いた様子で、どこか気まずそうな表情で近付いてくる。


 白木の周囲には江渡さんと友利さん……じゃなくて、友利の姿もある。

 ……もう面倒だし江渡さんも呼び捨てでいいか。


 なんて思っていると、彼女たちの後方からさらに見覚えのある少女がちらり。


「こんばんにゃー、師匠」


「猫ちゃん……!」


 我が愛しき人、のの猫である。

 今日もラブリー。結婚したい。

 この愛おしさで成人しているとか考えられない可愛さだ。


 どうやら彼女も夜叉の森から東京に戻ってきていたらしい。

 本日はカメラマンである笹木さんの姿は見えない。

 詳しいランクは知らないが、もしかすればCランクではなかったのかもしれない。


「にしても、何で白木たちがここに?」


 問いかけに答えたのは、今日も今日とて大きな剣を背に担いだ白木だ。


「いやぁ、ダンジョン配信者になりたいみたいな話を前にしたでしょ? それで猫っちゃんさんに教えてもらおうと頼んだんだ。そしたら、東京まで来てくれるなら教えてくれるっていうし、私たち夏休みだしで旅行ついでに来たんだけど……そしたらこれに巻き込まれて」


「本当は、呼ばれたのは私だけだったんだけどね。戦力が必要っていう文言を白木ちゃんたちが見ちゃって、それで付いてきちゃったみたい」


「……付いてきちゃってたんですか」


 これは、どうしよう。

 正直に言うと、今すぐ帰って欲しい。

 理由はこれがただの『異変』ではないから。


 ただ、白木たちはもちろんだがのの猫の戦力もこの中ではかなり上位に位置する。これを失うのは、正直痛い。


(……でも)


 わがままを言えば、帰って欲しい。

 守りたいから。


(……いや(・・)、そうか。そうだな。守ればいいだけの話か)


 何も変わらない。

 俺が全人類(・・・)守ってやれば(・・・・・・)それでいいだけの話だ。


 俺が守る。

 全員、助ける。

 それが人間として当然の思考回路だ。


「相馬っち?」


「……あぁ、悪い。今回の『異変』だが、相手はかなり強力と見ている。基本的に俺と礼司さんたちのパーティー、あとは富岡さんが対応するけど、普段の『異変』と違うという事だけは留意しておいてほしい」


「そりゃ、まぁ……『異変』対応でこんなに人を呼ぶことなんてないから、普通のとは違うってわかるけど……大丈夫?」


「何が?」


 ふと、心配そうな目で白木が見つめていることに気付いた。

 否、彼女だけではなく、江渡や友利、のの猫もみんな心配そうに俺を見ている。


「師匠?」


「……お腹、すいてる?」


「白木ちゃんの馬鹿にあてられた?」


「なんで私が馬鹿にされたの!?」


 四人が四人、心配そうに声を掛けてくる。

 しかし、別に俺は何ともない。


 俺は人としてやるべきことをやるだけだ。


「問題ない。それじゃあそろそろ先頭に行くから、みんなも気を付けて」


 と歩き出そうとして、袖を掴まれる。

 振り返ると、友利がカロリーメイトを差し出していた。


「持って行って。お腹が空いたら、戦えない」


「友利ちゃんが食べ物を他人に!?」


「何よりも食事を優先する友利ちゃんが!?」


 なにやら驚く白木と江渡に苦笑しつつ、俺は素直に受け取ってから先頭へと向かった。



  §



 集団の最前列――ダンジョンの入り口手前には、既にレイジたちのパーティーと富岡さん、そして彼の娘である沙耶さんの姿があった。そういえば以前Bランク相当の実力だと富岡さんが言ってたっけ。


 俺的にはそう思わないが、富岡さんも今回の一件が普通の『異変』と違うことは理解しているはず。それなのに連れてきたということは、彼女の力を必要と判断したからだろう。


 俺は沙耶さんに声をかける。


「お久しぶりです」


「そんなに久しぶりじゃないだろ。……今日、あのフラウって人は?」


「ギルドの一室でお留守番です」


「そうか。ならいい。……それで? もし敵がそう(・・)だった場合、どうすればいいの?」


「基本は俺が受け持ちます」


 即答すると、沙耶さんだけでなく富岡さんやレイジからも視線が飛んできた。


「倒せなくても、どんな戦い方をするのかの分析は行います。相性が良ければ沙耶さんにもお手伝いいただくことがあるかもしれません」


「私じゃなくて父さんにだろ?」


「いえいえ、貴女の実力も中々の物だとお父上から伺っておりますので」


 言うと、富岡さんを横目に睨みつける沙耶さん。

 一方の富岡さんはにこにことしており……。


「まぁ、頑張るよ」


「はい、よろしくお願いします」


 そうこうしている内に、今回の遠征におけるリーダーであるレイジが出発の合図を出す。それと同時にギルド内にはやる気を漲らせるように雄叫びが響いて、いよいよ俺たちは渋谷ダンジョンへと足を踏み入れた。


 渋谷ダンジョンに潜るのは初めてだ。

 少しドキドキする。


 まぁ、のの猫の配信で何度も見ているし、渋谷ダンジョンが次の襲撃場所と判明してからは、出現するモンスターや現在判明している階層の構造など、徹底的に頭に叩き込んだ。

 仮に一人になったとしても迷子になって寂しくなることもないだろうから殺そう。


(……)


 そうだ、殺そう。

 殺さなければならない。


(……?)


 殺せ。

 殺すことが重要だ。

 今すぐあいつを殺せ。

 殺せ、殺せ殺せ殺せ。

 殺せ、殺せ殺セ。殺セ殺セ殺セ。

 絶対ニ許スナ。殺セ殺セ殺セ殺セブチ殺セ。

 四肢ヲ引キ千切レ頭蓋ヲカチ割レ腸ヲ喰イ破レ脊髄ヲ引キ摺リ出セ頭蓋ヲ粉砕シロ。殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ。殺セ殺セ殺セ殺セ。直グニ殺セ会ッタ瞬間殺セ存在ヲ許スナ生キルコトヲ許容スルナ呼吸ヲ許スナ瞬キヲ許スナ思考ヲ許スナ生存ヲ許スナ生マレテキタコトヲ許スナ。親ガイルナラ親モ殺セ子ガイルナラ子モ殺セ。友人知人関係者スベテ一族郎党皆殺シニシロ。殺セ、殺セ殺セ殺セ。今スグアノ悪魔ヲ惨殺シロ。


「……ぁ?」


「相馬くん、どうかしたか?」


 レイジに肩を揺すられて、気付く。

 全身冷や汗でびっしょりだった。


(……ぁ、え? なんだ、今の?)


 呼吸を忘れていたようで、俺は慌てて深く息を吸う。


「……本当にどうした?」


 困惑していると、今度は沙耶さんが眉をひそめながら話しかけてきた。

 ツンケンした様子は鳴りを潜め、本心から心配しているのだろう。


 それほどまでに、俺はおかしかったのか。


「……な、何でもありません。少し、緊張しただけです」


「……そうか。何かあればお姉さんに言えよ」


「お姉さん?」


「私は高三だからな。実はキミの一つお姉さんなんだよ」


「そ、それはそれは、是非頼りにさせていただきますね」


 笑みを返すと、彼女は「ふんっ」と鼻を鳴らしてそっぽ向いてしまった。

 まるでシャルロッテさんのような態度に俺は苦笑しつつ、そっと胸元を――より正確には、胸に焼き付いた『No.3サファイア』の魔石式機構に触れる。


(今のは間違いなくここ(・・)から湧いてきた激情……)


 しかし既に何も感じない。

 気のせい――として済ますことは流石にできないが、今は急いでいる。

 不穏にもほどがあるし、不安で腕が震えるけど、考えるのは後回しにするとしよう。そう、思考放棄は重要な選択だ。


 そうして俺たちは『異変』へと向かって歩みを進めるのだった。

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