ep42 合流
東京までは、以前東京から夜叉の森ダンジョンに向かった時と同様、約三十分ほどで到着した。今回はフラウを抱えての移動だったが、身体強化した肉体の前では彼女の体重などないにも等しい。
東京の空は三船と打って変わって曇天。
分厚い雲が夜空を覆っていた。
とりあえず探索者ギルド本部の屋上に着地した俺は、若干ふらついているフラウに労いの言葉をかけながら、狸原さんへと電話をかける。
「もしもし狸原さんですか? 今ギルド本部に到着しましたが、どちらへ向かえばいいでしょうか?」
『ではそのまま渋谷ダンジョンまでお越し頂けますか? 既に複数のCランク以上の探索者に声をかけ、集まっていただいておりますので』
俺が『亜獣の国』とやり合った時と違って、動きが早いじゃないの。
まぁ、くそ田舎の三船町と東京じゃ近場の探索者の数も大違いだから仕方ないけどね。
俺はフラウにフードを被せてから再度お姫様抱っこ。
空の旅を再開する。
その間も電話は狸原さんとつないだままだ。
「因みに、今回の異変は異世界人のものとみて間違いないんですか? ただの『異変』ということも十分に考えられると思うのですが」
『そうですね。それならそれでよかった、というだけの話です』
間違いない。
侵略は勘違いで、今回はただの『異変』でしたというオチなら、一秒でも準備時間の欲しい我々にとってこれ以上のものはない。
『しかし先ほど……夜叉の森を除く日本全国のダンジョンで、同時に『異変』が発生したとの連絡がありました』
「それってつまり……」
『はい、陽動でしょう。強者が一点に集中することを避けたとみて間違いありません。特に大阪を始めとしたAランク探索者のいるダンジョンでは特別強い反応が出ているそうで……先ほど、明石さんから応援は無理とのご回答をいただきました』
先日、探索者ギルド本部で遭遇した明石カズサ。
人格面に問題はあるが、それでも異世界人と戦ううえで、Aランクの戦力は必要不可欠だ。
『以上のことから、私は今回の『異変』が侵攻によるものだと確信しております。……ただ、一点気になるのは――』
「夜叉の森で発生していないこと、ですよね?」
俺の言葉に、しかし狸原さんは一呼吸間を置いてから、肯定を返した。
『……はい』
「違いましたか?」
『いえ、現在気にすべき点はそちらになります。夜叉の森ダンジョン――つまり、相馬さんが活動する場所でだけ『異変』が発生しなかったということは……』
「誘い出された、ってことですよね」
『はい、間違いなく。以前フラウさんから伺った内容では『強敵を避ける』と言っていましたが……彼女の嘘か聞き間違いか――』
「嘘はありませんよ。俺はフラウを信じます」
突然自分の名前が呼ばれ『なんだ?』と言いたげな目が飛んできた。
モフモフ可愛い。最近、着実にケモナーへの道を歩み出しているのを感じる。
(こんな時だというのに一瞬でエロいことに思考を持っていかれる男子高校生の性欲が憎いぜぇ……)
『相馬さん? 聞いていますか?』
「は、はい! 大丈夫です!」
ふぅ、危ない危ない。
狸原さんのおっさんボイスで何とか平静を取り戻したぜ。
『とにかく今はフラウさんの言葉を信じるほかありません。つまり、夜叉の森を襲わず相馬さんを呼び出したのは……向こうでなにかしらの方針転換があったと見ていいでしょう』
「そんなんでいいんですか?」
『報告から察するに、フラウさんの耳にした会話は公的なものではなかったのは確か。なら、変更が加えられてもおかしくありませんよ。そのつもりで策も練っていましたし』
ひょえぇ~、やっぱこの人凄いよぉ……。
『なので相馬さん。充分お気を付けくださいね。他のAランクを遠ざける中で貴方のことは呼び出したとなれば、まず間違いなく――』
「俺を、殺しにくる」
『はい』
静かに深呼吸し、夜空を見上げた。
分厚い雲が不吉な予感を煽ってくる。
(なんでこんな、殺意に塗れたモテ方するかなぁ。優しさとエチエチで満たされたモテ方なら全力でウェルカムなのに)
そうこうしている内に、渋谷ダンジョンに到着した。
§
渋谷探索者ギルド――それは日本で最も有名な探索者ギルドである。
平時ならバイト感覚の高校生探索者が小遣い稼ぎに溢れ返っているらしいが、現在は違う。物々しい雰囲気の大人たちが、ギルドを出入りしていた。
そんな様子を俺は上空から観察。
このまま入れば『No.1アルファ』のせいで目立ってしまう。それだけならいいが、フラウの存在が露呈するのは避けたい。
再度狸原さんに連絡しようとして……ふと駐車場の裏手側に宮本さんを発見した。
彼女は周囲をきょろきょろ見まわし、空に浮かぶ俺と目が合うと、ちょいちょいと手招きする。
指示に従って着地すると、彼女はすぐに駆け寄ってきた。
今日もバリキャリって感じですごく美人。
「お待ちしておりました。こちらです」
案内されて中に入ると狸原さんを始めとした数名のギルド職員の姿と、レイジと彼のパーティーの面々が居合わせていた。
ほとんどの人はフラウを見た瞬間目を見開くが、事前に話は通っていたらしく、特に突っ込まれることなく話し合いが始まった。




