ep38 夏祭り(上)
本作の書籍第二巻が本日発売です!
のの猫、七規、幸坂さん、相馬くんの四人が表紙となっております!
ルナリア、テスタロッサのかっこいいイラストなんかもあるので、手に取っていただけると幸いです!
夏祭り――思えば最後に訪れたのはいつのことだったか。
去年と一昨年は『異変』のせいで一人ダンジョンに潜り、その前の探索者一年目の時は、探索者になりたての頃で、疲れて家で爆睡していた気がする。
それが今年はクラスの女子と二人で来ているのだから、人生なにが起こるか分からないものだ。
因みに、フラウは七規のおじい様にお預けした。
両親は夏祭りの運営の仕事があるし、俺は委員長とお出かけ。
まさか祭りに連れてくることも出来ないし、かと言って一人お留守番させるのも申し訳ない。
そんな折『東京での話し合いの結果を聞きたい』とおじい様から連絡を貰ったので、お伝えするついでに、祭り当日フラウをもてなしてくれないかとご相談し、快諾をいただいた。
先ほどおじい様からのLINEで、フラウが刺身を食べてにこにこしている動画が送られてきたので、問題はなさそうだ。
そうして俺は委員長と夏祭りを巡り始めたのだが――。
「ほう、中々やるじゃないか相馬」
「委員長こそ、結構な腕前で」
視線を向けると浴衣姿の委員長がニヤリと笑っていた。
暑いからと束ねられた髪、そこから覗くうなじと、若干汗ばんだ首元が色っぽい。胸が大きいと浴衣は似合わないと聞いたことがあるけれど、あれは嘘だったのか。よく似合っているし普通に可愛い。
そんな彼女の手元には、金魚すくいのポイが握られていた。
すぐ傍には複数の金魚が入った器も。
夏祭りを一緒に巡り始めた俺たちは、最初に金魚すくいに挑戦することにしたのだ。
結果から言うと、すくった金魚の数は僅差で俺の方が多いけど、ポイが無傷なのは委員長という引き分け。
「これでも小さい頃から金魚すくいでは負けなしだったんだがな」
なんて語る委員長に苦笑を浮かべつつ、俺たちは金魚すくいの出店を離れる。
因みに金魚はすべて返した。
飼育するのも大変だからね。
「実際今回も負けてはないだろ? 勝たせたつもりもないけど」
「言うじゃないか。なら次は――あれで勝負だ!」
意気揚々と次に向かったのは、これまた祭りの醍醐味である『射的』だった。
お金を支払い、委員長と二人並んでコルク銃を手に取る。
「相馬はどれを狙う?」
「そうだな……。じゃあ、あのぬいぐるみでも狙ってみるか」
「なら私は、お菓子を狙って数を稼ぐとしよう」
なんて話しながら、まずは一発――パンッと乾いた音と同時にコルクが飛び、ぬいぐるみに命中。だが僅かにぐらつくだけで、ぬいぐるみは落下しなかった。一方の委員長はお菓子の箱に命中させて早速一つ目ゲット。
金魚すくいの時も思ったが、彼女は手先が器用なのだろう。
なんて思いながら第二射の準備をしていると……不意に俺の横に一人の少女が並んだ。
「一回お願いします」
聴こえてきた声はとても耳覚えがあり……ちらりと視線を向けると、相も変わらずの無表情ながらも、どこかジトっとした視線を向ける七規と目が合った。
薄水色の浴衣に身を包んだ彼女は、コルク銃にコルクを装填しながら口を開く。
「楽しそうだね、せんぱい」
「え、あぁ……うん、まぁ楽しいよ」
「……へぇ、そう。ふーん。よかったね!」
明らかに不機嫌そうな態度で引き金を引く七規。
彼女の狙いは俺と同じぬいぐるみなのだが、何故だろう。ぬいぐるみを通して俺に銃口を向けられているような雰囲気を感じた。
パンッと乾いた音と共に発射されたコルクは、見事ぬいぐるみの眉間に命中。その胴体を揺らして後方に転倒、落下した。
「お見事」
「せんぱいのハートもこれぐらい簡単に撃ち抜けたらいいのに」
割と撃ち抜かれてるけどね。
関係の変化を恐れてキープ宣言してるだけで。
最低かな? 最低だね。
出店の主人からぬいぐるみを受け取った七規に、俺は話題を変えるように話しかけた。
「そういえば七規は一人なのか?」
「そうだよ。大好きな人に振られたから」
「うぐ……」
「……っていうのは嘘。私は――」
と、その瞬間、後方から軽い蹴りが飛んできた。
誰だと振り返れば、そこには提灯の明かりに照らされてキラキラと美しい金髪を揺らすシャルロッテさんの姿があった。白に赤い模様の入った綺麗な浴衣姿である。
「ずっと後ろに居たのに、気付いてなかったの?」
「すみません、シャルロッテさん。白の浴衣似合ってますね。可愛いですよ」
「ふ、ふんっ! べ、別に相馬に褒められても嬉しくないんだから!」
日本ではそれを『嬉しい』と受け取ってしまうけど、いいのだろうか?
多分いいのだろうな。
シャルロッテさんは基本ツンツンしてるけど、嫌われてる感じはしないし。
内心ほんわかしていると、七規がぬいぐるみをシャルロッテさんに手渡した。
「はい、これはシャルちゃんにあげる」
「……いいの?」
「うん。私が撃ち抜きたいのはこのぬいぐるみじゃないから」
再度ジト目を向けてくる七規にたじろいでいると、背後から肩を叩かれた。振り返ると頬をぷにっと人差し指で突かれる。小学生がよくやる悪戯だ。
そんな悪戯を仕掛けたのが委員長だというのだから驚きも一入。
「おい、私は放置か?」
「ご、ごめん委員長」
謝罪するが、彼女は特に気にした様子もなく、それどころかすでに俺から視線を外して、七規を見つめていた。
「キミは確か、相馬の探索者の後輩だったか」
「水瀬七規です。……貴女は、せんぱいのクラスメイトの人で、生徒会長さん……ですよね?」
「あぁ、そうだ。よろしく」
「……はい、よろしくお願いします」
笑みを浮かべる委員長に対して、どこか警戒心を強める七規。
「えっと……もし、相馬と周りたいなら、一緒に来るか?」
そんな委員長の言葉に、七規は一瞬目を見開いたが、フルフルと首を横に振って、シャルロッテさんの手を取る。
「いえ、今日は先輩が先に約束していたと聞きました。これ以上邪魔する真似はしませんよ。それはそれとして、せんぱいは渡しませんが。――それじゃあまたね、せんぱい」
そう言って歩き出す七規だったが、途中で彼女と手を繋いでいたシャルロッテさんが俺の下へと駆け寄ってきて――。
「お母さんが、アレの調整終わったって」
「……ほんと?」
「うん、そのせいで今は寝てるけど……祭りが終わったら家に来る?」
「シャルロッテさんが良ければ」
「わかった。……じゃ」
一瞬、委員長に鋭い視線を飛ばしてから七規の下へと戻っていくシャルロッテさん。
「相馬は本当にモテるな。幼女でもお構いなしか」
「俺がロリコンみたいな言い方止めてくれな~い?」
委員長の言葉に不満を返しつつ、俺たちは射的を再開した。
因みに、当初狙っていたぬいぐるみは七規に取られてしまったので、別のぬいぐるみに挑戦したが、結果は惨敗。
「まぁ、これでも食うといい」
と言って、大量に確保したお菓子を委員長から分けてもらいながら、俺たちは別ので店へと向かうのだった。
§
お菓子だけでは味気ないという事で、夏祭りの定番であるたこ焼き屋に並んでいると「あっ、相馬きゅん♡」という声と共に、誰かが駆け寄ってきた。
そこに居たのは黒い浴衣に身を包んだ夜叉の森探索者ギルドの地雷系人妻受付嬢、入江さんだった。
「推しとこんなとこで会えるなんて運命すぎて死ぬ……。しゅき……」
「き、奇遇ですね入江さん。なんでまた三船町の夏祭りに?」
夜叉の森探索者ギルドの人なので、向こうに住んでいると思うのだけど……。
なんて思っていると、彼女の後方からこれまた見覚えのある人が駆け寄ってきた。
我が校で最強の巨乳を誇る委員長に負けず劣らずの彼女は、俺と七規のパーティーメンバー、幸坂さんだ。
「私が、夏祭りあるって、誘った、の」
「……失礼ですけど、お二人ってそんなに仲良かったんですか?」
意外な繋がり、というほどではないが、正直二人が話しているところをあまり見た覚えがない。不思議がる俺に対し、幸坂さんはどこか辟易した様子で答えた。
「まぁ、ほどほどに……。相馬くんの、ことを、教えて、って、LINEを、交換させられ――して、ちょっとずつ、話すように、ね」
「な、なるほど」
それはご愁傷さまですと言うべきか、それともごめんなさいと言うべきか。
しかし辟易した様子を見せる幸坂さんだが、こうして祭りに誘ったということは、普通に友人関係を築いているということなのだろう。
「そうだ、よかったら相馬きゅんも一緒に行かない? あ、もちろんお金は全部私が出すよ? 一生涯相馬きゅんを養うよ♡」
好き好きオーラ全開で近付いてくる入江さん。そんな彼女を幸坂さんはジトっとした目で見つめていた。思えば『入江さんはガチ』と最初に教えてくれたのは幸坂さんだったっけ。
あの時からは想像もできない彼女たちの関係性である。
「すみません、今日は先約がありまして……」
言うと、入江さんの視線はそれまで彼女の勢いに気おされて口を閉ざしていた委員長へと向き――。
「……彼女?」
「ち、ちが――! わ、私は相馬のクラスメイトです!」
「……そっか、ならいいや」
仮に彼女でも入江さん(人妻)がどうこう言う権利は無いんだけどね。
「仮に、彼女でも、入江さんに、どうこう、言う、権利は、ないけど、ね」
「うぐぅ!」
期せずして幸坂さんと思考がシンクロしてしまった。
ショックを受けた地雷系人妻に苦笑を浮かべた彼女は、俺たちに「邪魔して、ごめん……ね」と言って人ごみに消えていった。
「相馬は本当にモテるんだな」
「黒い浴衣の人は既婚者だけどね」
「そうなのか。……え!?」
「あ、順番回ってきた! 委員長は何にする? ソース? 明太子?」
「ま、待て! き、既婚者!? 相馬、お前の交友関係は一体どうなっている!?」
慌てふためく彼女を連れて、俺はたこ焼きを注文するのだった。




