任務完了
「…聞き間違え?」
「違うぞ」
冷静に返される。
分かってたけどさ…疑いたくもなる。
「今ステージから降りたばっかりなのにどうやって…?」
ステージにいたのはしっかり本人だったし、ステージ上から何かした様子も無かった。いくら思い返しても、暗殺に繋がるものは一つも出てこなかった。
もしや私がいない時に既に…?なんて馬鹿なことを考えてしまったが、それならもっと前に押してるはずだよな。……何もわからん。
アンバーも考えたが分からなかったらしく、ずっと黙りこくっている。反対にシオンは何かを察しているようだ
「それじゃあ、行くか。答え合わせ」
そう言い、楽屋の方へと歩いていく。
そういえばアッシュの暗殺も見てないな。
後で聞いてみよっと
未だにバタバタと忙しそうに駆け回っているスタッフ達を邪魔しないようにしながら楽屋へ到達する。
パーティが始まる直前より忙しない気がする。終盤なのにこんな忙しいのか。
お疲れ様です、なんて心の中で言いながら楽屋へ入る。
するとリラだけがソファでくつろいでいた。
アッシュはいないようだ。
「あら、みんな。お疲れ様。暗殺、上手くいったようでよかったわ」
「リラこそおつかれ。」
なんて軽く労いの言葉を交わしつつ、本題を切り出す。
「ねえねえ、リラ。ずっとステージ上にいて、なにかする様子もなかったのにどうやって殺したの?」
そんなことか、とでも言いたげな様子で答える。
「あれはね、歌を体内に響かせたのよ。ただそれだけ。」
当たり前のように言う、が。
ただそれだけって…全然分からん!!
アンバーもぽかんとしている。
もうちょい詳細な説明が欲しい…
「ほら、音って振動でしょ?セイレーンはそれを利用するの。主に脳みそに振動を伝えて攻撃したり操ったり。今回はターゲットにだけ歌を使って振動を送り込んだ感じね」
(音が振動で伝わること、この世界でも共通なんだな。)
すご…超器用じゃん…
音を使う攻撃で、全員聞いてるものは一緒。なのに特定の人にだけ攻撃するとか…
流石すぎるな
「なるほど…でも、ターゲットまだ死んでないですよね。それは…?」
確かに、外では音が聞こえないし中で誰か死んだなら絶対騒ぎになるはず。なのに何も無いってことは殺せてないってことだよな。
「それは遅効性にしたからよ。ま、色々と都合があってね」
まだまだ分からないことが多いが、とりあえず今、これだけは言える。この場はすべてリラに任せた方がいい。いや、任せないとダメだ。
シオンは納得したような、すべて理解した顔をしているが私はほとんど何も分からない。
……はぁ。こんなんだからシオンの記録をつけるとかいう役割任されたんだろうな
少しして、アッシュが部屋に戻ってきた。
すると、リラは途端に立ち上がり退出の準備を始めた。
「もう行くの?」
「ええ。後処理は完了したもの。アッシュがお偉いさん方と話して売名もしっかりしてあるし。ここに残る理由は無いわ。」
そういい、さっさと立ち去ってしまう。
毎回凄いな。すべて先回りで効率よくやることをやってる。感心しつつ、私たちはリラに続いた。
また空を飛びながら、先程の宿へ帰ってきた。
一息ついたあと、リラが話し始める。
「さ、任務は完了。この後依頼主に報告するから、報酬は明日まで待ってちょうだい。あんた達、これからどうする予定?」
みんな真剣な顔付きだ。
あー、これ私参加無理なやつ…
「そうだな…1週間はこの街に滞在しようと思ってる。」
スラスラと事前決まっていたかのように話すが、そんなこと何一つ聞いていない。
このパーティにはシオンを止められるやつが居ないのが欠点だな
「そう…」
少し悲しそうな顔をする。寂しいのか?
プロ意識が高いと思うことは多いが…こんなにす情が写って、その上情に厚くて大丈夫か?と時々思う。
けど私も、もうちょっと一緒に行動したいなあ…
なんて考えていると、ずっと黙っていたアッシュが口を開く。
「…リラ。次の仕事は1週間後、アステロスだ。」
「そうね…」
アステロス、というとこの先の好戦的で少し危ないって街か…シオンは通過するだけにすると言っていたな
アルテアの所での話を思い出す。
残念ながらここでお別れだな…なんて思っていると
「ふーん…ちょうど俺らもアステロス通る予定なんだよな。」
それを聞いた瞬間、顔がパッと明るくなる。
「通過するだけの予定だったけど…一緒に行くか?」
それを見たシオンが察し、リラを誘う。
「しょうがないわね!あんた達心配だし一緒に行ってあげるわよ!」
ふん、と胸を張り言う。
…かわいいやつだな
「よし!そうと決まれば明日は一緒に観光ね!備えて早く寝るわよ!」
そういい、さっさと寝支度を始めてしまう。
「…あれ?そういえば、私たち店の手違いでこの部屋に来たんだよね?部屋どうするの?」
みんなはっとしたような顔をする。私含め、全員完全に忘れてた。
「…ま、いいじゃない。ここに泊まれば。ただ、本当にここに泊まってたやつは殺しちゃったから明日には脱出しないとだけどね」
「それじゃあお言葉に甘えよう。明日のことは…明日考えればいい。」
それもそうだな!
シオンの言葉に納得し、その日は眠りについた。
そういえば、現世に来てから寝つきが良くなったなぁ…
次の日。テンションの上がったリラに朝早くから起こされ、街に出た。なんかデジャブ…
「さ、あんた達!報酬が昨日のうちに振り込まれてたから、渡しとくわね。」
この世界、振込とかあるんだ…と思っていると、リラが皮袋を取り出した。中からはジャラジャラと音がし、明らかにたくさんのお金が入っている。
渡されたシオンが、袋を開ける。
すると中にはたくさんの銀貨と、数十枚の金貨。今まで持っていたお金とは比べ物にならない、物凄い金額のお金が入っていた。
「…これを、分けるとかじゃなくて?」
思わず質問する。
「違うわよ。それ、全部あんた達の分。そりゃ、元は私に払われる予定のお金。私達は暗殺界ではかなり名の通った暗殺者なのよ。その暗殺者に、数人分の依頼…この程度のお金が動くのも不思議じゃないわ」
でも分かるわ、最初は金額に驚くわよね…
なーんて平気な顔して語っている。アッシュも冷静なポーカーフェイスを保ったままだ。まあ人の命を奪う、1歩間違えれば自分の命を落とす仕事…報酬が安いわけないんけど。リラ達も有名だし。ただ、ここまでとは…
「これなら当分…いや、一生路銀には困らないな」
一生ねえ…
(この世界、金の価値は現世で昔存在してた金貨や銀貨とだいたい同じだったはず…てことは。1000万はあるか?)
「それほどの価値があるのよ。…さ、そんなに沢山お金を手に入れた事だし。遊びに行きましょう!」
そういい、慌ただしく準備を始める。
相変わらず行動が早い…
「…にしてもいいのか?遊び回る気満々だけど…」
シオンはふ、と柔らかい笑みを浮かべる。
「ああ。今回は金も時間もある。息抜きも重要だ」
説得力すごいな。
ま、私も正直息抜きしたかったし…
私も納得し、消極的なアンバーを引っ張る。
「よし!行くよアンバー!」
結局その日はずっと外で買い物をしていた。
私服もパーティみたいな場所で着るしっかりした服も、何着かオシャレなものをを見繕ってもらった。
今度から変化じゃなくても大丈夫だ!
何もかもが初めて見る未知のもの。色々聞いてみたり体験していると、すぐに1日が終わってしまった。
そうして次の日も、また次の日も。朝早くに起きては色んな店を見て回った。買い物をしたり、出し物をみたり。
サーカスや演劇、ミュージカル、飲食店、服屋、手芸屋、それぞれのジョブ専用のお店…その他沢山。
楽しく過ごし、遂に出発前日。
「はー、この街も今日で最後かぁ…」
あっという間の1週間だった。初めての大都市での思い出に浸る。
「全然回りきれた感じしないな。」
そんな私と一緒に、アンバーも語っている。
他の3人は大都市に行ったことなんて沢山あるだろうけど…私たちは初めての経験だ。新鮮で、新しい知識がたくさん増えて…楽しかった。そんなこと、なんて思うかもしれないが私とアンバーは赤ちゃんだと思ってほしい。何もかもが目新しいんだ。
「ね、毎日朝から晩まで観光しまくってたのに…さすが大都市。」
正直、まだ滞在していたい。まだまだ見たいものが沢山ある。…けど、旅のために我慢…!これからの体験と出会いに期待しよう。
「おい、寝るぞお前らー。明日早めに出発するからな。」
声をかけられ、ベッドの方へ向かう。
ちなみに宿は、旅人用の5人部屋に泊まっている。
明日からはまた危険がある旅が始まる…!
さっさと寝て備えよう!
そう決意し、ベッドに潜り込んだ。
寝れない…!
今は深夜1時ほど。最近寝付きが良くなってきたと思ったのに、こんな日に限って寝れない。
他のみんなはぐっすり眠っている。
…前まではスっと寝れないのは当たり前だったのにな。
こういう時は無理やり寝ようとしても仕方ない。少しベランダに出て風に当たろう。
そう思いベッドから出て視線を向けると、人影があった。あれは…アッシュだ。
暗くて見えなかったが、よく見るとアッシュは寝ていない。
うーん…いつもあんまり喋らないしこの一週間もほとんど影みたいで正直話しずらいけど…行ってみよう!
この際だから色々聞いてやる!




