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第13話 暗殺本番


スタッフに呼ばれ、リラとアッシュは舞台の方へ行ってしまった。残った私たちには特別席なんて用意されていたようだが、ターゲットと接触するため一般客の目線で見てみたい等適当な理由をつけ会場へ潜り込んだ。

早速行こう…と思ったが、疑問が浮かぶ。

「殺るのってやっぱあんま時差ない方がいいのかな?味方へ報告されちゃったりするかもだし…」

シオンは一瞬うーんと考えたあと、答えた。

「ま、一旦接触してみよう。一瞬でやれそうならやっちゃってもって感じで。じゃ、解散」

人を殺すっていうのに、軽いな…

ま、それも良さか。

「はーい!」

「了解です」

確認を終えた後、ターゲットの方へと向かった。

正直、美味しそうな料理の匂いに釣られそうになるが…我慢我慢…!



えーと、私のターゲットは…

居た!あいつだ。ちょっとだけ遠くから観察してみよう。変じゃないよう、短時間でそっと…そう思い、1分ほど観察してみた。

………あいつ、最低だ。

ターゲットの男はニヤニヤしながら女性にセクハラまがいの無い程度の不快なボディタッチを繰り返している。

それでも女性たちが離れていかないのは、彼の権力の大きさを表している。

人身売買とか本当?とか、良い奴で殺しにくかったら…とか思ってたけど。この性格…人身売買に、飛んでいる途中に聞いた話だと気に入った女をペットにしているとか…信憑性が増す。…同情の余地はない。躊躇なくやれそうだ。

さて、どう近づくか…そう思っていたらターゲットがこちらを向き、バチッと目が合う。

やば、気づかれた…?どんどんこちらへ向かってくる。

すると、かなり近い場所で立ち止まり話しかけてきた。しれっと逃げ道を塞ぐような立ち位置にくるのが気味悪い。

「やー、こんにちはお嬢ちゃぁん。私はネクロスって言うんだ。ちっちゃいね、何歳ー?親御さんは?お兄さんに何か用かな?」

ネットリとした口調で、目を光らせ、話しかけてくる。ペット候補にするか商品に出来るか品定めしているようだ。

きもちわる…!用あるの?って、目合っただけだろ!それに、明らかお兄さんって歳じゃないし

「こんにちは。親は知り合いに挨拶行っちゃった」

きもちわるいけど、今は子供だと思って油断してくれてる。多分これが最善手。できる限り演じてみよう…!

そう思い、無邪気で何も知らない子供を装う。

「……」

すると、一瞬真顔になりこちらをじっと見つめてきた。

やば、バレた…?

「じゃああっちでお兄さんと一緒に遊ぼっか?」

ヒヤヒヤしながら返答を待っていると、またもや先程のような不快な笑みを浮かべ、腰に手を回される。

ぶわっと一気に鳥肌が立つ。

ひく、と思わず笑みが引き攣る。こわい、気持ち悪い。もう子供続けるの無理かも…

そう思った瞬間、会場の照明が消え暗くなる。

ネクロスも私もなんだ?と周りを見渡すと、ステージのように少し上がった部分にスポットライトが当たる。

堂々と、それでも可憐な佇まいのシルエットが浮かび上がる。

騒がしかった会場がしん、と静まる。全員が息を飲む音だけ聞こえてくる。

ああ、なんだ。歌姫の登場か。

「……〜〜♪」

歌い始めた瞬間、先程の気持ち悪さでたったものとら比べ物にならないほどの鳥肌。ぶわっと強い風に吹かれたような感覚。

たったワンフレーズで芯まで響く力強い歌声。

ひよっていた自分がアホらしく思えてきた。流石セイレーン。

「ね、お兄さん。どこかで遊んでくれるんでしょ?今なら暗いし、ママにもバレないよ。早くいこう」

全員がリラに釘付けになっているうちに、さっさと終わらせよう。今が、絶好のタイミングだ。



目立たない扉を通り連れてこられたのは、大きなベッドが置いてあるピンクで眩しい部屋。ふわりと甘い匂いが鼻をくすぐる。…多分、催眠ガスかな。

「私の秘密基地へいらっしゃい。そういえば、お名前を聞いてなかったね」

そう言いながら、ガチャっと鍵をしめる。

ああ、ここに連れ込んだらもう勝ちなのか。普通は。

ふん、相手が悪かったな。天使には状態異常はきかない!

「私、テン」

名乗った途端、ガバッと襲いかかってくる

ネクロス「テンちゃん、楽しいことしようね」

手をかけられそうになった瞬間、反射的に翼を出し空中に逃げる。そして、ネクロスの周りを箱のようにバリアで囲む。

「なっ……?!なんだこれは?!」

ネクロスは目が飛び出しそうなほど驚いている。口も開きっぱなしだ。

無理もない。無垢な少女だと思ってたやつが急に羽生やして攻撃仕掛けてくるんだもんな。

「お、お前…なにものだ?!なんなんだこれは!出せ!」

なーんだ。ハキハキ喋れるじゃないか。

「私を誰だと思ってる!貴様のような小娘、いたぶる手段はいくらでもある!ここを出たら覚悟しておけ!」

ネクロスは怒り狂った様子だ。

誰か…ね。ま、最後に自己紹介してやるか

「騙してごめんね。私は天使。あなたを殺すためにやってきた」

「てん…し?」

ネクロスは聞いた瞬間、ガタガタと体をふるわせる。

状況を呑み込めていないようだ。

「て、天使様…?!わた、私に…天罰ですか…?!まさか、アルテア様が、遣わされたのですか…?!私はアルテア様を大変信仰しております!私ほど熱心な信者はそうそういません!ですから、どうか、どうかお考え直ください…!」

涙と鼻水をダラダラ垂らし、魔法の壁をドンドン叩いている。さっきまではお前のような小娘、とかここを出たら…とか言って、怒り狂ってたのにな。そんな小娘に縋り付くとは。なんとも滑稽だ。

なんて思っているうちもネクロスは叫び許しを乞い続け、声はどんどん大きくなっていく。が、犯罪のため防音で作られた部屋。そこに助けの声など響くはずもなく。彼のために作った都合のいい楽園が、どんどん自分の首を絞める。

…自覚はあるんだ。罰されるべきなことをやったっていう。

それに、よく見ると服装や身につけているものが神父に近い。信仰してるのは本当のかも。嘘はついて無さそう。けど、なんか勘違いしてるな。こんな奴のために先生も、女神も動くわけないのに。私が潜入したのは、自分のためなのに。

「一瞬で殺そうと思ってたけど…やめよ。」

防御魔法の上の方に手を向ける。

すると、ポタ、ポタと水が垂れてくる。

「み、水…?」

次第に四方八方からドバっと水が溢れ出る。

先程までとは比べ物にならない勢いで水が溜まっていく

「ひぃ……金、金なら出します。私の地位も財産も何もかもお渡しいたします…どうかお慈悲を…」

私は無言を貫き、表情一つ変えず反応しないよう尽くした。ネクロスはガタガタ震え、立っているのがやっとだ

「ハァ、ハァ…どうか……!嫌だ嫌だ…!!ゴホッ、ゴボ…」

とうとう水は防御の箱の中を満たし、ネクロスは呼吸も身動きもままならないようだ。必死に脱出しようとガリガリと防御魔法を引っ掻いている手には、血が滲む。

…これじゃ、箱ってより水槽だな。

「ゴポ……」

何かを伝えようとネクロスは口を開くが、声は泡となり無慈悲にも私に届く前にパチッと弾けて消えてしまう。

その上、口を開いたせいで体の中へ更に水が侵入したようだ。より苦しそうにしている。

…はぁ。本当はこんな暗殺乗り気じゃなかったから、さっさと終わらせようと思ってたのに。溺死は苦しめることには長けているけど、結構時間がかかるなあ。

ネクロスは1、2分手を懸命に動かし、苦しみながらもどうにか脱出を試みたが…叶うことなく、ガクッとして動かなくなってしまった。

案外決着はすぐだったな。私にとっては。

動かなくはなったものの、おそらく気絶しただけだ。まだ息はあるだろう。

溺死だと時間がかかりすぎる上に、もうこいつは気絶しながら苦しむことなく死を待つだけ。わざわざ溺死させるメリットなんてない。

「はい、天罰終了。……あと足りなかった罰は、地獄で受けてくれ」

手をかざし、魔力を込める。

…すると1本のトゲが出現し、ネクロスの首を思い切り突き刺す。

暗殺、完了だ。



暗殺を終わらせたあと、私は少し休憩しようと部屋にとどまっていた。

…疲れた。暗殺中は必死になって何も思わなかったが、やっぱり人を殺すというのは色んなものを消耗する。

私が、1人の命を奪った。終わった途端、実感が湧いてくる。死体から視線を背ける。手が震える。なにもせず、ただただぼうっとしてしまう。これを仕事として続けているリラ達は凄いな。暗殺は悪のイメージが強いが実際は悪人たちを始末してくれる、世のため、自己犠牲のような仕事だ。

………あ、そうだ。完了報告しなきゃ。

私はメガネに付いているスイッチを、2回カチカチと押した。

死体はバレないところに置いておけば、専門の業者が回収してくれるらしい。それじゃ、そろそろ行こうかな。




そっとバレないように部屋を出たあと。

引き続き歌唱中のリラの声に聞き入っていると、たまたまアンバーが目に入った。…気配を消しついて行っちゃお。


ジリジリと一定の距離を保つアンバーに近づくと、バチッと目が合う。…気のせい、だよな。本当に目が合ってたとしてもまぐれだな!

「なにしてんの?」

わかってたけど!なんでバレてるの?!

ま、まあバレたのなら仕方ない。潔く姿を現す

「いやあ…私早く終わったし。ちょっと観察しようかなーって…」

アンバーの視線が痛い。

ひゃー、怒ってるかな…

「ふーん…ま、いいけど。」

「え?!」

聞き間違い…じゃ、無さそう。

やったー!OK出た上怒られず済んだ!

「代わりにサポートよろしく」

そう言い、さっさと歩き出してしまった。

…え?なんか、いいように使われてる…?



「僕のターゲットはあいつなんだけど…」

視線を辿ると、先程の男と同じ組織の人間とは思えないほど真逆の男がいた。

清潔感があり、かなりのしかめっ面だがしっかり真面目そうに見え逆にいい印象を与える。

それに…多分あいつ、強い。ネクロスは油断以外何もしていないようなやつだった。だがあいつは周りを警戒し、飲食物も一切口にせず、極力人と近づかないようにしている。手強そう…

「一旦接触はできたの?」

「いーや、全然。話しかけようと近づいただけで逃げられたよ」

解決策は何も見つかっていないようだ。

確かに、私のように人目につかない密室に誘い込むのは難しそう…

視点を変えて考えてみよう。天界にいた頃たくさん読んでた小説の知識が生きるときだ…!

「……あ、思いついた。解決策。」

「どんな?」

私は自慢げにニヤリと笑う。

「確かに、私とかなら人目につかずやる必要があった。だから接触して誘い込んだ。…けど、お前は貼ったら勝ちだろ?」

アンバーはハッとした顔をする。

なんだ、簡単な話じゃないか。私たちは囚われすぎてただけ。別に、違和感なくさっと殺せればなんだっていいんだ。アンバーなら、それが出来る。

「ほら、私が注意を引くからその隙にやって!今なら他の人はリラに注目してて気づかないと思うから!」

私にグイグイ押され、渋々ターゲットに近寄って行った。

注意を引いたらすぐに攻撃出来る位置に着いたことを確認し、私は飲み物を持ってターゲットに近づく。

ターゲットがぴく、と反応した瞬間。

「ひゃ!」

思い切り躓いて、転んでみせる。

どてっと倒れ込み、持っていた飲み物は私の手から離れターゲットにかかっている。

これなら無邪気に走り回る迷惑な子供が転けただけと解釈されるだろう。アンバーも後ろからそっと近寄ってきている。

「いたた…ごめんなさい」

「…気をつけなさい」

そう言い、立つため手を貸してくれる。

「ありがとうございます!」

「ああ。…一つだけ、聞いてもいいかい?」

…嫌な予感がする。唐突な、真剣な表情での質問に身構える。

「はい!」

「…誰の差し金だ?」

答える暇もなく、ターゲットはどこかに隠していたナイフを取りだし襲いかかってくる。

なんでバレたんだろう?バレるようなんでなかったはずなんだけどなあ…

避けれない。防御も間に合わない。

瞬きもせず見ていることしか出来ず、あーもうダメかな。前もこんなことあったな。やっぱ防御出す速度修行もっとしないとな。なんて、冷静に考えていると。急に目の前で刃がピタッと止まる。

「ちょっと、油断しすぎ。」

よく見るとターゲットの体にアンバーの札が貼ってある

「ああ、ごめん。ありがと」

助かった…癪だけど、一つ借りができた。

「じゃ、僕はこいつ処理してくるから。ほら、早く歩いて。外行くよ」

私の感謝と謝罪に反応することなく、さっさと歩いていってしまった。

行動を自由に操作する呪いか。確かに、考えてみればアンバーは事故死に見える呪いをまだ知らない。こうなって当然だ。ま、結果的に助かったけど。

なんて、数分棒立ちしながら妙に落ち着いて考えていたらカチカチ、とスイッチを押した音がした。

アンバーも無事、暗殺成功だ。

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