第12話 パーティ会場へ
…何を言うんだ、シオンのやつ。
アンバーも同じ疑問が浮かんだようで、すこし身構えている。
シオン「まず、俺とテンはこの世界の人間じゃない。俺は元男の転生者、こいつは天使だ」
なるほど。言いたくないところは伏せるのか。
確かに転生者はこの世界では珍しくないしな。天使はちょっと珍しいけど…
「テン、変化といてくれ」
「はーい」
ポン、という軽快な音がなり天使の輪と羽が出てくる。
「天使…?!かわいー!ちょっと触っていい?」
「いいよー」
余程興味を引いたのか、リラはもちろん、アッシュもじっと見つめてきた。
「ひゃー、ふわふわで触り心地いい…輪っかはひんやりしてて気持ち〜…」
リラはペットを撫で回すように触ってくる。
なかなか撫でるのが上手いな…寝そう…
「ほらほら、そこまでにしとけ」
ちぇっ、もうちょい撫でてもらいたかった…
「わかったわよ。…にしても、天使なんて初めて見たわ。最初から不思議だったのよ、こんな小さな子なんで連れてるのか。」
傍から見れば私は小学生くらいの普通の少女。変に思うのも不思議ではない。
この世界だともうちょい背大きくした方がいいかな…
天使の中では大きい方なんだけど。
「へぇ。この世界にもいるんだな、天使。」
「ええ。って言ってもほとんど幻の生き物よ。見たことある人なんて数人しかいないんじゃないかしら」
…そういえば、だいぶ昔に女神が何かを探すためにこの世界に数人天使を送ったって聞いたな。すごい必死だったし、流石にもう見つかってると思うけど。あの女神人使い荒いし倫理観全くないし、捜索した天使全員放置したのか?かわいそ…
「で、アンバーだけど…」
シオンが語り出そうとした瞬間。リラが被せるように口を開き、制止する。
「いいえ、もういいわ。もうすぐパーティが始まっちゃうし、それを抜きにしてももう十分よ」
リラの言葉を聞き、時間を確認してみる。
すると、話し始めてから30分経過していた。
「そんな早く始まるの?!予定詰め込みすぎじゃ…」
「しょうがないでしょ!たまたま被っちゃって、別の日に殺る訳にも行かなかったのよ。それに私はアーティストだから。お客様側じゃないのよ」
暗殺者って大変なんだな…
シオンとかやったことないのかな?心做しか同情の目むけてるし1回くらいありそうかも
「それにね、長年暗殺者やってるからわかるのよ」
「信頼出来るやつが?」
「違うわよ。その人が、誰をどのくらい信頼しているか。この子があなた達に物凄い信頼を置いてる事は分かるわ」
そう言いながらリラはアンバーを優しく撫でる。アンバーは慌てているが、抵抗はしない。
やはり、リラたちも中々長く生きているようだ。
シオンを見ていても思うけど、経験って超重要だな。私には分からないけど、シオンに物凄い信頼を置いているのは紛れもない事実だし。
…というか、2人の対応から見てアンバーはまだ子供なんだなぁ…この場唯一の人間だし。
「すごいな。流石暗殺者」
「…ま、昔は暗殺以外でも必要だったからね。」
ずっと元気で、パッと明るかったリラの顔が一瞬曇った気がした。アッシュも出しっぱなしの耳がピクっと反応する。私もこの世界に来て、そこそこ人と関わって分かった。これはトラウマや嫌なことを思い出している時の顔だ。深く追求するのはやめよう。
「さ、行きましょ!」
そういい何事も無かったように歩み出したリラだが、ピタッと足を止めた。
「…まって、あんた達服それじゃダメよね」
そう言われ、それぞれの服を見返してみる。
ボロボロで、ダラっと楽な服…
どんなパーティかは知らないが、流石にこれでOKな所ではないのはわかる。
「…なんか持ってるか?お前ら。」
「ない!」
「ないです」
即答…
リラは頭を抱えてしまった。
「俺は一応ワンピース持ってるけど…」
そう言い、前私たちで買ったワンピースを出す。
「わ、可愛い。あんたはそれでいいわね。で、2人は…」
リラは私たちに指を向ける。
するとポンっと音が鳴り、煙が出る。聞き覚えのある音に演出…
煙が晴れると、私の服は可愛いフリフリとした服に変わっていた。アンバーはピシッと締まっている。
「よし!」
「すご…!このクオリティ…!変化得意なんだ!」
感心していると、リラは得意げに笑いウインクする。
「もちろん!変化は暗殺者の十八番よ。
さ、準備はバッチリ。行きましょう!」
外に出て、少し進んだ後。
リラがくるりと後ろを向く。
「みんな、空は飛べる?」
「ああ。」
返事をした瞬間、リラがニヤッと笑う。
「アタシ達は飛べないのよねぇ…徒歩だと間に合うか分からないし、どうしようかしら」
うわ、飛ばせろってことか…めんどくせえ!!
「なーシオン?別に飛ばなくったってこの前の移動速度上げる魔法とかあるし…」
「まあ、あるっちゃあるが…こんな人も建物も多い街じゃ走りずらいし、何より目立つ。飛ぶしかないな」
シオンは不自然にニコッと笑い、追い詰めるように言ってくる。
やっぱダメか…にしても、こんな笑顔猫かぶってる時以外見たことないけど…圧すごいな
「わかった、飛ぼう。俺はアッシュの方を飛ばすからお前らどっちかがリラ飛ばせるか?」
アンバーは微妙そうな顔をする。
「途中までは大丈夫ですが…魔力が怪しいです」
…てことは。
リラとシオンがくるりとこちらを向く。
「途中からはよろしくな、テン」
「ですよね……でも私魔法使えないから持つしかないし私墜落しちゃう…」
なーんて。自分でも苦しい言い訳なのは分かってる。
ワンチャン知らないことにかけるしか…
「お前、かなり古参の天使だろ?大丈夫だ」
「えへへ、知ってたか」
「ちょっと、わかんない話しないでよー。古参の天使って?」
そっか、リラは…っていうかシオン以外は天界のこと知らないんだよな。
「あー…ま、飛びながら説明するよ。時間ないんだろ?」
シオンがそう言うと、リラはハッとした表情をする。
忘れてたんだな…
「そうね!早く行きましょ!」
私たちは一般人に気づかれないよう、ギリギリ下が見えるくらいの高さで飛んでいる。
「すみません…そろそろ魔力が…」
「はや!!」
「しょうがないだろ!この高度で2人分を維持するのには魔力たくさん使うんだから。温存しとかないといけないだろ」
まあ、それはそうなのかもしれないけど…私が飛ばす距離長くない?!まだ4分の1くらいしか進んでないのに…
「そうだな。よろしく、テン」
「はいはい…」
私は進むのを一旦やめ、力を込める。
すると、バサッと言う音に舞い散る白い羽根。
先程までの小さな2枚の羽と比べ物にならない程の羽が4枚生えてきた。
「ひゃー、すっごい…」
さすがに予想外だったのか、全員唖然としている。
「ほら、アンバー。早く渡して」
「あ、うん。」
リラをひょい、と軽く渡される。
…あんなにヤダヤダ言ってたけど、正直全然余裕だ。超軽い。
「テン、お前…何番目だ?」
リラを抱え、再び進み始める。
すると、シオンが問いかけてきた
「何番目?」
リラはキョトンとした顔をする。
そういえば説明忘れてたな。天界のこと知らないのいっつも忘れちゃうな…
「天使は1人ずつ女神によって創り出されてる。それで、長く生きれば生きるほど力は上がっていく。だから、より昔に創られた天使の方が強いんだ」
ま、女神に潰されちゃうからそんな長生きしてすごい力を持ってる天使なんてそうそういないんだけどね…
「私は確か…6番目くらいだったかな」
そう言うと、シオンは乾いた笑いをする。
言葉も出てこないようだ
「1桁台か…この性格でも女神に同行を任されるのも納得だ」
…ん?貶されてる…?
「6番目ってもしかして、6番目に創られたってこと?ちょーすごいじゃん!」
「へへ、そーでしょ!」
あ、これってもしかして…アンバーにマウントとるチャンス!
「ふん、アンバー!私は凄いんだぞ!敬え!」
胸を張り自慢げに言う。
なにか反論してくるかと思ったが、何も言わずに札を握りしめている。
私の凄さに言葉も出なくなっちゃったかな!
「確かに凄いね。だから、試せてなかった呪い試していいよね?」
そういい、ニコッとしながら近づいてくる。
あー、今日はみんなの新しい色んな表情が見れるなぁ…
「逃げ切ってやるからな!!」
私は今まで出したことないレベルの速度で飛ぶ。
だが久しぶりに解放したので思ったより遅く、アンバーを振り切るのは難しそうだ。
「キャー!ちょ、はやいはやい!!」
「あいつら……ま、いいか。どっちにしろ進む方向は一緒だ。俺らも早く行こう」
「そうだな」
「はぁ、はぁ…」
数分後。私たちは会場の前へと到着していた。
なんとかアンバーに追いつかれずにすんだ。…けど、暗殺前なのにだいぶ体力がなくなった…私体力なさすぎかも…
「ありがとね、テン。おかげでだいぶ早く着いたわ。その分スリルも満点だったけど…」
その後すぐ、アンバーやシオンたちもふわっと降りてきた。
「早すぎだろ、お前ら…」
なんて言っているが、余裕で着いてきた上に息を切らすどころか汗一つかいていない。
「さ、早速入りましょう。…あ、アンバーこれ付けてね」
そう言って渡したのは、先程アンバーが付けるのを拒否したピアス。もう抵抗する時間もないと諦めたのか、すんなり受け入れ耳に着けた。
「似合ってるよー」
ニヤニヤしながらからかう。
「うるさい!早く羽しまえ!」
あ、忘れてた。危ない危ない…
…よし、おっけー!準備万端!
「おい、行くぞー」
「はい!」
シオンに声をかけられると、すぐさま歩き出した。
ちょっときもい…
会場の関係者用入口付近へ行くと、中の様子が少し見える。みんなバタバタしていて、忙しそうだ。
そんな中、リラが通りかかったスタッフに話しかけた。
「こんにちは。今日歌わせてもらうリラよ。それと、マネージャーに友人。」
そんな自己紹介で通じるのか…?と思っていたが、少しはああ、と納得したような顔だ。
「リラ様御一行ですね!お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
本人確認など何も無く、すんなり中へと入れてくれた。
宿の時も思ったけど…この世界警備ザルじゃない…?
準備を進めているスタッフの間を通り抜け、奥の部屋へと案内された。人数分の飲食物や暇が潰せるようなものまで置かれており、かなり豪華だ。
「それでは、こちらでお待ちください」
「ありがとう。急に友人も参加させたいとか無理言ってごめんなさいね」
「いえいえ!あの歌姫、リラ様の頼みですから。」
なんだかスタッフはソワソワしていて、何か言いたげだ。
「……あの、最後に握手だけお願いしていいですか…?」
すると、立ち去り際覚悟を決めたような表情で口を開く
「もちろんよ。」
そういい、躊躇うことなくぎゅっと手を握る。
「ありがとうございます!それでは、失礼いたします。」
手を離すとアッサリ出ていったものの、喜びを抑えきれない様子だった。
なんだ、ファンだったのか。
「人気なんだな」
「ええ、そうね。歌姫なんて呼ばれたりして…こんなに人気が出るとは思ってなかったのに」
歌姫…か。なんかいいな。かっこいい!
…っていうか、スそんな人気な歌姫のマネージャー一切仕事してないけどいいの…?
「そういえば、そんな人気なのに裏でもその名前でやってるのか?変装とかしてなかったし…」
たしかに。私たちと出会った時なんも対策なかったし身バレしそう…
「裏では名前も姿も、声も明かしてないわよ。アンタたちは特別。」
徹底してるな…ま、歌の仕事してるし声なんて迂闊に出せないか。
「じゃあ、呼び名あるんですか?」
目をキラキラ輝かせ、聞いている。
暗殺者に呼び名や二つ名はつきものだよな!
「ああ、あるわよ。輪郭しか認識できない、素性不明の淡々と依頼をこなす人形……シルエット・ドール。なんて呼ばれてるわ。」
「かっこいい…」
リラはくすくす笑いながら話す。
確かにかっこいいけど…似合わないな。こんなに表情も感情も豊かな人形はいない。けど、何も分からない依頼だけはこなす人がいたらシルエットともドールとも言いたくなるか…
「ふふ…それにね、こんな噂もあるの。シルエット・ドールには大層従順なペットがついてる…って」
恐らくアッシュのことだろう。たしかにかなりリラに従順だしそう呼ばれるのもわかるが…どちらも当てはまっているようで的外れで、ちょっと面白い。
そんな雑談を交わしながら数十分過ごしたあと。
コンコン、と部屋にノックの音が響いた。
「リラ様、もうすぐ出番ですので準備お願いします。」
「わかったわ。…さ、みんな行きましょ」
遂に本番…!!暗殺方法も考えてきたし、頑張るぞ!