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第10話 いざ、次の街へ


「テン様。朝ですわよ。起きましょう?テン様」

翌日。暖かく優しい声をかけられ、目を覚ました。

「んあ……?」

「おはようございます、テン様」

目を開くとそこにはアルテアの顔があった。

時刻を確認するともう11時。寝すぎてしまったようだ。

周りを見ると、アルテアしかいない。

「…おはよ……寝すぎたぁ…」

「ふふ、昨日は大変でしたものね。」

「ホントだよ…そういえば、2人はどこ行ったの?」

リビングの方にもいる様子は無い。

ちらっとアルテアの顔を見ると、いつもの笑みの中に面白がっているようないたずらっぽい顔が隠れている気がした。

「ふふふ…そろそろ帰ってくると思いますわよ。リビングに行っていましょうか。」

「…?うん。」



リビングへ行くと、アルテアがご飯を準備してくれた。

今までの旅で食べたものの中でいちばん美味しそうだ。

「すご!!…先生って、なんかお母さんみたい。」

「あら、嬉しいですわ。よしよし。」

アルテアは私の頭を優しく撫でた。また寝そう…

そんな茶番を繰り広げていると、ガチャっとリビングの扉が開いた。2人が帰ってきたようだ。

「2人ともおかえ…え?」

2人の髪は乱れ、疲弊している。

アルテアは笑いをこらえきれない様子だ。

「……敵襲?」

もちろんそんなことないことは分かっていたが、疑いたくなるほどの状態だった。

「ちげーよ、住民の皆さんの歓迎会行ってきただけだ」

「1人だけ逃げやがって…!!」

「ふふ、随分と熱烈歓迎されたようで。」

「ほんと、怖いくらいだったよ」

嘘や冗談で言っているようには見えない。

私、寝ててよかった…

「まあ、ここにお客様なんて滅多に来ませんし…前来たのは500年ほど前だったかしら。……それに、時期的にもはしゃぐのは仕方ありませんわ。」

「時期?」

「ああ、そういえば皆さんがこの時期にこんなに嬉しい気持ちになったことないとかなんとか言っていたような…」

「それは昨日話しそびれたわたくしのダンジョン攻略の目的と関係しますの。」

その後、ご飯を食べながらアルテアは教えてくれた。

100年に1度精霊の力が3分の1以下に減る時期がある。

元通りにするには毎年あのダンジョンを攻略し、報酬の本を入手する必要があると。

「へえ…なんで100年に1度力が弱まるんだ?」

「さあ?弱まる理由も本を取らなければならない理由も本の内容もなにも知りませんわ。」

アルテアはサラッと言い放った。

「ええ…それ、気にならないの?」

「前は気になっていましたけど…わたくしがなにか行動したことで何が起こるか分かりませんし。」

考えてみれば当たり前かもしれない。

この世界はアルテアの力にかかってるんだから。

「そういえば、いつここを出るんですの?」

「うーん…今日かな。次はこの先の大都市まで行く予定」

そんな予定初耳なんだが…この先の大都市?

そう思っていると、アンバーが最初に女神が渡してきた地図を開いた。一緒に見ちゃおー

「この先の大都市といえば…セレヴィアですか」

「ああ。今回はだいぶ時間があるから、道中にある街は一つ一つ寄っていこうと思ってる」

都市の名前を聞き、地図を見てみる。

セレヴィア……ここか。結構近いな!

「ここから近いですね」

「ええ。大体の街はわたくしを崇めてくださいますけどセレヴィアは特に信仰心が強いんですの。」

こんな大都市が強く信仰してくれてるなんて…改めてすごいな。目の前にいるのがそんな凄い人なんて、そんな凄い人が目の前にいるなんて未だ実感が湧かない。

「あそこの方々は皆優しいので大丈夫でしょう。文化や芸術が発展しているので楽しいと思いますわよ。けど…問題はその先のアステロスという街ですわ」

地図を見ると、またセレヴィアと近い街だった。

ここと近いセレヴィアと近い…ということは、また先生を信仰してるんだろう!

「こちらもわたくしを熱心に信仰してくれる街なのですが、かなり好戦的で…住民の方も気が荒く、治安がいいとは言えないのです。ほかの街ともよく争っているんですの」

ひえ…信仰してるって言う予想は当たってたけど、好戦的なのはさすがに予想外…

「うーん…それじゃあアステロスは通過するだけにするか」

「その方がよろしいかと。それと、一応こちらを渡しておきますわね」

そういうとアルテアは紙切れのようなものを1枚取りだし、魔法で作ったハンコを押した。

なんだ、これ?

「これはわたくしからの保証書のようなものですわ。ほかの街だと効果があるか分かりませんが…セレヴィアとアステロスなら全員これがなんだか分かるでしょう。」

「危険になったらこれを出せばいいってことか」

「えぇ。これを見せれば何でも言う事を聞いてくれると思いますが…悪用厳禁ですわよ」

アルテアはクスッと笑いながら言った。

ていうか保証書って…私たち以外の手に渡ったらと考えると恐ろしい。

「わかってるよ。ありがとう。」

「いいえ。それともう1つ。アンバー様、その地図お借りして宜しくて?」

「え?あ、はい。」

急な声がけに驚きつつ、すっと地図を渡した。

アンバーも随分慣れたものだ。

「わたくしは世界中様々な街に出向いていますので、大抵のことは知っています。安全な街やそう出ない街など、書いておいて差し上げますわ」

「あ、ありがとうございます!」

助かるな、本当に。頼もしすぎる。

この人が味方でよかった…

「はい、書けましたわよ」

「はやっ!」

あまりの早さにちゃんと書いたのかと疑いの念が生まれたが、そんなものは杞憂だったようだ。綺麗な字で詳細まで書かれている。

「これで出発の準備は整ったな。」

「そうですね。いつ出る予定ですか?」

確かにもう昼過ぎだし今すぐじゃないと、というか今すぐでもギリギリくらいだ。……まさか。

「今すぐ、だ」

シオンはいい笑顔で言い放った。



5分後。私たちは入ってきた場所の反対側にある出入口に来ていた。

「本当にもう行ってしまわれるのですね」

「ああ。あれだけ世話になったのに急な出発で悪いな」

アルテアは少し寂しそうな顔をする。

「いいえ。お世話になったのはむしろこちらの方ですし。今行かなくてはならない理由も分かりますから。お気になさらず」

「またね先生!また絶対絶対会おうねー!!」

「もちろん。自主練も怠らないように。次会った時にチェックしますわよ。ふふふ…」

正直やりたくない…けど、先生とかシオンとか、まあついでにアンバーとかのためにやってやる!!頑張るぞ!

「アンバー様も。行ってらっいませ。」

「はい。色々ありがとうございました」

少しおろおろしつつ、最初とは比べ物にならないほどしっかり挨拶をした。成長だな!

「ほらほら、お別れは友人同士水入らずでと気遣ってくださった皆様がそろそろ痺れを切らして向かってきそうですわよ」

それを聞いた2人はハッとし歩き始めた。

「またねー!!」

私は手を大きく振る。

アルテアも手をヒラヒラと振ってくれた。

「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」

修行いっぱい頑張って、次会った時に驚かせてやろ!

それでいっぱい褒めてもらう!!

そう心に誓い、勢いよく進み始めた。



「アルテア様!」

「皆様、ありがとうございました。おかげでしっかりお別れの挨拶ができましたわ」

「いえいえ。大事なご友人とのお別れ、水を指すわけには行きませんから」

「お気遣いありがとうございます」

「アルテア様、お客様が帰ってすぐに申し訳ないのですが…もうすぐ街へ出向かなければいけない時期でございます」

「ああ、そうでしたわね。そろそろ準備を始めないと。今回はどこに行こうかしら。」



出発してから数十分。

少し道に迷いながらも霧の濃い森を無事抜け、もう街は目前だった。

「ほんと、めっちゃ近いねー。助かる!」

「そうだな。アンも飛べるようになったし」

「だいぶ力技ですけどね…」

そう言いながらふよふよと飛ぶアンバーの腕には、御札が付いていた。本来は敵を空高く飛ばし、空中で技を解除し地面に叩きつけるというのが恐ろしい技だ。

それを応用し、自分に付けて飛んでいるのだ。

「ていうかそれ自在に動けるのか?降りる時とか…」

「上と左右は自在だけど下には行けない。本来の使い方的に下に行かせる必要ないし…」

「攻撃的すぎるだろ!!早くバフ付けれる呪い探そう」

「ま、御札剥がして落下してきたら下で俺が受け止めればいいだろ。ひとりじゃ降りれないから早く探すのは同意だが。」

シオンの発言を聞き、アンバーは驚いたような顔をしたあともにょもにょと複雑そうな顔をしていた。

(嬉しい、嬉しいけど…!!恥ずかしい…)

絶対受け止めてくれるのは嬉しいけど恥ずかしい…

とか思ってるんだろうな。

ていうか、最初の頃あんな気持ちの読めないやつだったのに表情豊かになったな…分かりやすすぎる。

「ほらお前ら、そろそろ降りるぞ」

「はーい」

「アンはちょっと待ってろよ。そうだな…だいたい30秒後に落ちてきてくれ」

そう言いながらシオンは降りていった。

はや…!私も急ごう!



降り始めてから10秒ほどで地面に着いていた。

「思ったより早くついたな。」

そういい、シオンはアンバーの落下地点へと移動していた。大丈夫なのか?こわ……何かほかに方法はなかったのか…………あれ?

「なあなあシオン。別にアンバー落ちさせなくてもシオンが浮遊魔法かけるとか抱えて降りるとかあったんじゃないか?」

まさか思いついてなかったとか?

「ああ。別に方法はいくらでもあったんだが…これが1番早くて魔力も消費しないからな。」

シオンは当たり前、とでも言いたげな表情だ。

色々怖いものはあるが、結局シオンが1番怖い気がする…

そんなことを思っていると、シオンがこっちをちらっと見た。考えてることがすべて見透かされている気分…

「あ、アンバー来たよ、シオン!」

「そうだな。」

ナイスタイミング!いい感じに目線も話も逸らせた。

ひゃー、緊張する…

アンバーが降りてきた瞬間シオンが衝撃吸収魔法を発動し、ぽすっとピッタリシオンに受け止められる。

「ありがとうございます!師匠。」

「ああ。」

…なんか二人とも、余裕そうだな。

どうやら緊張していたのは私だけだったようで、表情一つ変えないどころか声すらまったく上げなかった。

「すごいな、お前。怖くなかったの?」

そう聞くと、キョトンとした顔で返答された。

「なんで?師匠は1度言ったことを絶対成功させてくれるし。僕を落とすわけないじゃん。」

それはこの人なら、という願望や綺麗事ではなく、常識と言わんばかりの心の底から信じてやまない確信を持ったものだった。

そうだった。最近は控えめで忘れるところだった。

こいつのシオンに対する気持ちは異常なのだ。

「…そうだな。」

言いたいことは沢山あるが、面倒なことになりそうなので言葉を飲み込む。とりあえず同意しておこう。

色んなことを考えながら喋りつつ動いていると、気づかないうちにいつの間にか街へ入っていた。

「ほら、着いたぞお前ら。ここがセレヴィアだ」

「すごい…!今までの町とは比べ物にならない…」

目に入ってくるのは、大きな建物が並びしっかり舗装された道、綺麗な街並みに賑やかで楽しそうに歩く人々。少し先にある広場では何人かが演劇やライブ、ショーなど様々な出し物をしているようだ。

すごいな。さすが、大都市の名は伊達じゃない。一目見ただけで、どんな街かすぐ分かる。

「そういえば、アンは大都市どころか他の街見るの初めてか。」

「はい…街ごとにこんなに差があるなんて知りませんでした」

アンバーは目を輝かせながら周りを見回している。

「私も現実世界の大きな街は初めてだし、なんやかんや今までの旅で1度もゆっくりしてないから今回は何も無いといいなー。」

「そうだな。とりあえず宿探すか。街の探索はそれからだ」

「はーい。」




大きな街なので宿探しも難航するかと思ったが、逆に大きな街なので宿が沢山あり案外すぐ見つかった。

前にアンバーと出会った初めの町で止まっていた宿より数段大きい。

「でか……」

あまりの差に呆然としてしまう。

「これでもこの街では小さい方だけどな」

「凄いですね…大都市。」

私が驚いている間にシオンはさっさと入っていく。

やっぱ大きな建物も見慣れてるな。驚きも感動もしていない。

「そういえばお前、姿消してなくていいのか?」

「ああ、うん。先生に変化の魔法教えてもらったからね!」

「いつの間に…」

そう、私は先生も愛用している変化魔法を修行の合間に教えてもらっていたのだ。しかも人によってどう見えるか変えられる。これでシオンとアンバーには普段の私に見えていて、他人には羽や輪っかがない私が見えている

「お前らー!いつまでそこいるんだ!もう部屋行くぞ!」

うだうだ喋っていると、いつの間にか受付を終わらせたらしくシオンが大声で声をかけてきた。

その声を聞き、慌ててシオンの方へ行く。

「部屋はどこなの?」

「番号がかすれててわかりずらいが…受付の人が304号室だと思うってさ」

「ええ…番号が鍵に書いてあってしかも文字かすれてるやつをずっと使ってて確信もないって…セキュリティ大丈夫なの…??」

シオン「魔法はあるがそこまで技術が発展してないからしょうがない。受付も新人さんっぽかったし」

「まあ大丈夫ですよ!早く行きましょう!」

2人は大丈夫だというが、なんとも納得できない…

ま、私がとやかく言っても何も起こらないし。

気にしない方がいっか!



その後、数分かけて部屋の前に到着した。

「階段キッツ…ここじゃ飛ぶの禁止だし…」

「体力無さすぎだな。」

「ふん、そうだよ。」

余裕そうなアンバーだが、1番最初に音を上げていたのはこいつだった。よく私のこと煽れるな…

だが今はそんな煽りに反応できるほど元気ではなかった

「もーむり。早く部屋入ろ…」

「分かった分かった。」

急かされたシオンがさっさと鍵を開けた瞬間。

中から血のような匂いが漂う。

…いや、血のような匂いではない。血の匂いそのものだ。

部屋をあけ、目に入ってきたのは血まみれの部屋に倒れている男。こちらを見つめる男女2人。

「………え?誰?」

それはこちらのセリフである。

ああ。今回こそ何も起こらずゆっくり過ごしたいと思っていたのに。

また、面倒なことになりそうだ。






〜天界にて〜

現世では、穏やかな時間が流れる中

天界では女神が荒ぶり大騒ぎだった。

「ありえない。ありえない、ありえない…!!」

「こんなことってある…?!?!アルテア…!!」

機嫌はいいものの、取り乱しすぎて力を制御できていないようだ。

「ああ…!こんな所にいたんだ…!ふふ、あの子に感謝しなくちゃ。アルテア…お話に行きたいけど、行ったらまた逃げちゃうかな…もっと、もっと近くでみたい…」

女神の気持ちは有頂天だった。が、その周りには天使の死体が何個か落ちている。

「うう…我慢しなくちゃ。場所さえ分かれば、こっちのものだし。…そう。私は女神だもん。」

ようやく落ち着きを取り戻したようだ。

「ねえ。落ち着いたなら早くこの死体片して」

「ああ、ごめんねー。あとでやっとく。今は忙しい!!」

そういい、また現世を見始めた。

…いいな、自由って

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