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ヒメジョオンと探し物

ヒメジョオンって、雑草って言われることが多いけど、

風にも雨にも強くて、どこにでもふわっと咲いてくれる。

誰にも注目されない場所で、それでも咲いてる花って、なんだか応援したくならない?


ぼくは、そういう花に出会うたびに、ちょっと嬉しくなるんだ。


 昼過ぎの陽射しが傾き始めたころ、工房の前に自転車の音が止まった。

 駐輪の音とともに、やや大きめのリュックを背負った女の子が、花逢の扉をそっと開ける。




「こんにちは……あの、ちょっと変なこと聞いてもいいですか」




 彼女は小学五年生、名前は彩音あやね

 手にはノートの切れ端と、押し花になったヒメジョオンの小さな一輪。

 そのノートには、数年前の「自由研究」の記録が綴られていた。




「先生に“雑草じゃないの”って言われたんだけど……

 わたし、この花が“どこにでも咲いてるから、すごい”って書いたの」




 でも、その研究は途中で終わっていて──

 押し花だけが、本のしおりになったまま、机の奥にずっと眠っていた。




 最近、家の整理をしていてそのノートを見つけた。

 そして、**“この花、まだ咲いてるのかな”**と気になった。

 それを調べるために、花逢を訪れたのだという。


  千華は、静かにその押し花を受け取り、

 工房の裏庭へと彩音を案内する。


 手入れの行き届いた花壇の端──

 目立たない隅の草むらに、風にまぎれてそっと揺れる細い茎があった。


 そこに咲いていたのは、白くて小さな花。

 まるでマーガレットをひとまわり縮めたような、繊細な花びら。

 中心は淡い黄色で、茎は細く長く、ところどころにうっすら産毛のような毛が生えている。



「ね、咲いてた」

「うん、咲いてたね」




 千華はひとつしゃがみ込み、花に霧吹きをひと吹き。

 光に透けたその花びらは、まるで“まだここにいるよ”と笑っているようだった。




「こういう花ね、“雑草じゃなくて、雑踏に咲く草”だとぼくは思ってるよ。

 忘れられがちだけど、ちゃんと残ってた。君の記録の中にもね」




 彩音はそっと、自分のノートの空白にペンを走らせた。

 そこには新しい日付が書き加えられ、研究が再び始まった。




「ありがとう、お姉さん。……あ、千華さん? なんか研究者っぽい名前だね!」




 千華はくすっと笑う。

「そうかな、植物にとっては、けっこう聞き覚えがあるかもね」


 ———




 その日、夕暮れの風が少し強くなり、ヒメジョオンの茎がゆらゆらと揺れた。

 工房の壁際で、霧を浴びたその花は、小さく何かに頷いたようだった。




 千華は観察ノートの端に、ペンでひと言だけ書き加える。




「“見つけてくれて、ありがとう”って、草も思うことあるかもしれないね」


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