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第二話 : 第一次秘密基地防衛戦

◆ 昼休みの噂


昼休み、サッカーをするために校庭に向かっていた時、親友の裕也ゆうやが声を潜めた。


「なあ、智生っちょ……聞いたか?」


裕也は短髪でいつも前髪が上に跳ねている。運動神経が良いが成績も良く、両親が教師ということもあり、優等生タイプだ。


「……何を?」


「秘密基地、ヤバいかも……」


智生の顔が一瞬で険しく変わる。

隣では修介しゅうすけが神妙な顔をしていた。


修介は背が小さいが快活で、ムードメーカー的な存在。しかし上級生や教師に対してはおとなしくなる小心者でもある。


「さっき聞いたんだけどさ……六年の連中が、秘密基地を狙ってるらしい。」


「……マジで?」


そういえば最近、秘密基地で遊んでる時に人の気配を感じたり、物の位置が微妙に変わっている時があった。手作りの旗が少し離れた所に落ちていたり、不自然な違和感を感じていたが、まさか六年の奴らの仕業だったのか?


ポジティブな智生は、年下の低学年の子たちなら新しい仲間として受け入れ、仲良くしてもっと楽しい時間を過ごせるかもと期待していた。

しかし裕也の「ヤバいかも」という言葉の端からは、不穏な空気が漂っていた。


「昨日の帰り道、あいつらが話してたんだよ。『あんな良い場所、ガキどもに使わせるのはもったいない』って。」


修介が不安そうに続ける。

「どうするよ、智生っちょ……」


智生は口を引き結び、ゆっくりと息を吐いた。


「……ふざけんなよ。秘密基地は俺たちの憩いの場所だ。誰にも渡さない!」




◆秘密基地と作戦会議


挿絵(By みてみん)


放課後、秘密基地に集まった智生たちは、今後の対策を話し合っていた。


秘密基地――それは、小さな川沿いの竹林の奥にある、子供たちだけの特別な場所。

元々何に使われていたのか分からないが、湿った木製の小さな小屋で、広さは四畳半ほど。

歩くたびに床がギシギシ鳴るので、いつ底が抜けてもおかしくない。

今は全く使われていないのか、所有者も不明。

秘密基地の中には、手作りの旗、みんなで持ち寄った宝物、変わった形の木、ゴミ捨て場にあったレトロなインテリアなどで飾りつけされている。

秘密基地なので、外観はみすぼらしいボロ小屋としての風情を保つため、外には何も置いていない。

扉は右に開くスライド式で、鍵はない。


「やっぱり、もっと仲間を呼んだ方がいいんじゃ……?」


裕也が不安げにつぶやく。


智生は、拳を握った。


「……いや、こういう時だけ都合良く頼るのは嫌だ。そんなに知られたくないし、ここは俺たちの秘密基地だ。」


「でも……六年って言ったら、体格も全然違うし、何人来るか分からないぞ?」


「関係ない。数じゃねえ。僕たちの方が、この場所を大事に思ってる。 だから、守るんだ。」


その言葉に、三人は顔を見合わせた。


「……うん!」

「やるだけ、やってみよう!」


秘密基地を奪おうとする奴らの目星はついている。そこで三人は、あらかじめ作戦を立てることにした。




◆ 上級生、襲来


そして、その時は来た。


ふいに小川の手前で、自転車を停める音が聞こえた。


「ザッザッ……」


重たい足音が、枯れ葉を踏み締める。何人か揃ってこちらに向かってくるようだ。

足音がする方向を見ていると、少しずつ姿が明らかになっていく。


「おい、お前ら――」


低くて威圧感のある声が響いた。茂みの向こうから現れたのは、六年生の柿原だ。後にニ人の仲間を引き連れている。


柿原はどこからどう見ても小学生には見えないくらい老け顔で、デブで背が高い。まるでプロレスラーだ。一年生の時から、背の順で並ぶ時はいつも一番後ろだった。小さい目に赤いほっぺ。噂によると柔道の県大会で準優勝したらしい。


「ここ、今日から俺たちの場所な。」


智生は柿原たちを睨みつけながら前に出た。


「ふざけんな。ここは俺たちの秘密基地だ!」


「さっきまではな。」


柿原はニヤリと笑う。


「お前ら、ここは俺んちの土地だぜ?勝手に使うのは法律違反だ。警察に捕まる前に出て行けば許してやる。」


「……」


智生は拳を握る。

柿原の言うことは嘘に決まっていた。


「ふざけんなよ……!」


柿原の周りには二人の仲間がいる。一人は短いモジャモジャ頭の鈴木、もう一人は冷たい細い目の宮田。ニヤニヤしながら木の棒で足元を叩いている。


「エロ本でも隠してんじゃねえのか?」


そう言いながら、鈴木が見下したような顔をして木の棒の先をこちらに向けると、柿原一味は微妙に笑った。


「そんなのあるわけないだろ!お前らと違って俺たちはエロくない!」


智生は大声で対抗し、同時に重心を低くして臨戦態勢に入る。それはいつでもやってやるという威嚇でもあった。


「先生に言うぞ」


修介が隣から追撃する。


「ははは!お前らこそ、勝手にこんなの作ったことがバレたら怒られるんじゃねえのか?」


宮田が不細工な笑みを浮かべながら反論してきた。


「もうめんどくせえ!強行突破だ!」


そう言うと柿原は、威勢よく駆け出した。その先には秘密基地がある。


「させるかぁ!」


智生は勇敢に柿原の前に出て、突進を止めようとした。しかし軽く吹き飛ばされてしまう。

(この重量、本当に小学生か?)と思った瞬間、その勢いのまま尻もちをついた。


「智生っちょ!」


裕也の声が竹林に響き渡る。

鈴木と宮田も、柿原の後を追走する。


「さあて、中はどんな感じかな?」


秘密基地の扉の前に辿り着いた巨体は、肩で息をしながらゆっくりと扉に手をかける。

鈴木と宮田もワクワクしている様子だ。


しかし上級生一味よりも、更にワクワクしているのは智生たちだった。



◆ 作戦発動!


柿原が勢いよく扉を開くと、1メートルほどの蛇が飛び出してきた。


「うわぁ!!」


柿原一味が大きくひるみ、逃げ出す。

その隙を見て、修介が扉を閉めて立ち塞がった。


上級生に力勝負で勝てないのは想定内だった。

そこで智生たちは、あらかじめ蛇を捕まえて、扉が開くと箱から出る仕掛けをセットしておいた。それが作戦の第一段階であり、反撃の狼煙だった。


作戦の内容はこうだ。


柿原たちが到着する前、蛇を捕まえてダンボール箱の中に閉じ込めて、秘密基地の扉の後にセットする。そのダンボール箱には小さな穴が開いていて、蛇が出入りできるのはその穴だけ。その穴がちょうど扉で塞がるようにしておけば、扉が開いた瞬間、そこから蛇が飛び出して逃げる、という仕掛けだった。


「どこ行った?蛇どこ行った?」


鈴木が大慌てで周囲を見渡すと、蛇は竹林の奥へ一目散に逃げて行った。


「ふぅー。危なかったなあ。」


柿原が額の汗を拭う。慌てふためいていた鈴木と宮田も、安心したような顔を見せる。


「危なかったって。思いっきり噛まれてたし。」


智生はそう言うと、身をよじらせて笑い出した。裕也と修介も同じようにゲラゲラと笑い出す。竹林には子供たちの笑い声が響き渡った。


「噛まれてねーし!」


柿原は少しビビった感じで怒り出した。鈴木と宮田はどっちが本当か分からず困惑している。


「噛まれた跡ある!噛まれた跡ある!」


智生がそう言うと、裕也と修介の笑い声は更に大きくなった。智生も含めて、息を吸うのもやっとなくらいだ。


その反面、柿原はみるみる青冷めて体中をくまなくチェックし始めた。鈴木と宮田も慌てふためいている。

智生たちと柿原一味のリアクションは反比例していた。

智生たちが笑えば笑うほど、柿原一味は恐怖感が増し、その滑稽な姿を見て智生たちが更に笑うというループになっていた。


「ここ、ここ!」


智生が柿原に近づき、右肘あたりを指差す。そこには赤い点が二つついていた。柿原の顔が青から泣き顔に変化した。


「毒蛇じゃないら?」

宮田が不安そうにつぶやく。


「毒蛇だったら死ぬに。」

裕也がすかさず恐ろしいことを言う。

柿原はベソをかきながら自転車に向かって必死に走り出し、凄い勢いで自転車をこいで去って行った。鈴木と宮田もその後を必死で追った。




◆ 勝利の余韻


何とか上級生たちを追い払った智生たち。


「イェーイ!」


「……やった……!」


みんなが歓喜する。


「まんまと騙されやがった!」


柿原の肘についた赤い点は、実は蛇が飛び出した時に、裕也がマジックペンでつけたものだった。実際は柿原が言った通り、噛まれてなどいない。


「しかし凄い勢いでチャリこいでたな。太ももから下、見えんかったもん。」


裕也が涙目になって言う。


「あはははは!もう、それ以上言わないで!」


修介はもう面白すぎて耐えられない様子だった。


智生はひと段落して安心したので、その場で仰向けに寝転んだ。


「いやー楽しかったなぁ……」


智生は静かに目を閉じて、友達の笑い声と風に揺れる笹の心地良い音を堪能した。

実は今回の作戦は、以前ジッピーから教えてもらったものだった。万が一、敵が攻めてきた時のために相談しておいて正解だったと、過去の自分を褒め称えつつ、ジッピーへの感謝の気持ちが智生の心を包んだ。


裕也と修介も笑いが落ち着いて、智生の隣に同じように寝転んだ。三人揃って、空に伸びる竹たちと少し赤く染まり始めた空を見上げる。


さっきまでの笑い声が嘘みたいに、竹林の中は静かになった。

夕方の風が、木々をそよがせる音だけが響く。


「あいつらまた来るかなぁ?」


修介がふとつぶやいた。


今日は追い返した。

だが、相手が本気を出せば、次はどうなるかわからない。智生は明日以降の展開がどうなるか不安だった。


「……これで安心、ってわけじゃない。」


智生が現実味のある言葉を発する。


裕也が口を開きかけたその時――


「なあ……じゃあ、どうすればいいんだよ?」


修介が、不安げな表情で言った。


「……わかんない。でも、何とかしないと。」


智生の頭に、ある考えが浮かんだ。


(ジッピーなら……何か方法を教えてくれるかもしれない。)

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