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6 幼馴染はヒロインである


 リリーの幼馴染は、『乙女ゲーム』のヒロインらしい。

 クリスを見ていると納得しそうになるが、果たして男に『ヒロイン』は当てはまるのだろうか。


 そう思って尋ねたリリーだったが、クリスの答えは激しい否定だった。


「ないないない! ないから! 普通にヒロインって言ったら女の子のことだよ!?」

「けれど、クリスは……」

「ぼくはっ、そのっ、だ、だからおかしい状況なんだよ! それ以前におかしいことがありまくりなんだけど! な、何から説明すれば……!」

「焦らなくていい」


 暴走しそうなクリスを、リリーは背中をさすって宥める。

 息を整えたクリスは、こほんと咳払いをして口を開いた。


「えぇっと。まず、ぼくは前世で、乙女ゲームをやっていたことがあってね。あっこれはぼくの趣味じゃなくてお姉ちゃんに無理やり付き合わされただけだからね」


 クリスの前世の姉の話は何度か聞いたことがある。それらの話から推測する限り、性格はクリスとずいぶん違うらしい。


「その乙女ゲーム……『聖霊のアマルティア』って題名なんだけど、設定があまりにも一致してるっていうか……」

「一致?」

「うん。決定的なのが、コーナス聖国っていう国名。これは、偶然の可能性は少ないかなって」


 聖花教会、聖女、魔法、文明。他に一致しているものとしてクリスが例を挙げた。


「荒唐無稽な話だけど、ここは『聖霊のアマルティア』の世界、もしくはそれに近しい世界だと思う」

「……なるほど」

「あの、リリー? もっと驚いてもいいんだよ。自分たちが今いる世界がゲームの世界かもって、ぼく結構なこと言ってるよね」

「それもそうなんだけれど」


 リリーは顎に手を当てて目を瞑る。

 クリスとの日々を思い起こせば、あれこれと不思議な話の数々が浮かんだ。


「今まで、たくさんの荒唐無稽な話を聞いてきたからな。もうそんなこともあるかとしか思わないんだ」

「あ、そっかぼくのせい……。リリーって順応性高いよね」

「そうだろうか。多分それもクリスの影響だな」


 口元だけで笑うと、クリスはそっと目を逸らした。


「えーと、それでぼくがその、ひ……ヒロインかも……っていう根拠は、見た目と名前と力の特性でね」


 露骨に話題を逸らしたクリスだったが、リリーはその内容にわずかに目を瞠った。


「ほぼ完全一致じゃないか」

「いや、だって金髪ってそんな珍しくないし……クリスって名前もよくあるし……『聖女』の力だってこんなものかなって思ってたし……」


 どうして今更、という気持ちが滲んでいたのか、クリスは少し言い訳がましく説明した。


「そ、それにちゃんと原作は女の子だったと思うし!」

「それはまあ……仕方ないな……」


 クリスが男なのに『聖女』の力を持っていることも、彼が本来女性で生まれてくるはずだったとすれば、一応筋は通っているようにも思える。


「しかしそれならば尚更、どうして今になって気づいたんだ?」

「えっ、そっ、それは……えぇ〜と………ま、まあ別に重要じゃないから! ね!」

「? 話したくないならいいんだけれど……」


 何故かあからさまにぎこちなくなったクリスに、リリーは不思議に思いながらも素直に引き下がった。


「とりあえず、クリスの考えは理解した。それで、クリスは何故取り乱していたんだ?」

「だ、だって、乙女ゲームのヒロインだよ!? 厄介事が次から次に降ってくる未来が確定してると言っても過言じゃないよ!」

「そうなのか」

「そうだよ! しかも、よりにもよって『せれあま』のヒロインなんてぇ……!」


 クリスは頭を抱えて机に突っ伏してしまう。


「『せれあま』?」

「『聖霊のアマルティア』の略称……」


 新しい言葉かと思ったが違うようだ。

 突っ伏したまま律儀に説明したクリスだが、その声には生気がない。


「どんな内容なんだ? その、『せれあま』というのは」

「えぇと。簡単に言うと……」


 のろのろと顔を上げたクリスは、言葉を探すように少しの間沈黙する。


「聖国を混乱させようとする悪い『(まじな)い師』を捕らえるために、曲者揃いの秘密の組織で頑張って働く話……かな」

「呪い師……? 呪い師に良い悪いがあるのか?」


 リリーは驚いて目を丸くした。

 『(まじな)い』という言葉は、この国に残る伝承にしばしば登場する。その多くが魔法とは違う邪悪な力として描かれており、使い手である呪い師も同様だ。

 その理由には、この国の建国神話が関係しているのだろう。


 かつてこの土地にあった国は、呪い師によって滅ぼされた。

 当時の王室で唯一生き残った王子は、呪い師から逃げる道中で美しい少女に助けられる。

 神に愛された少女は聖なる力で傷ついた王子を癒やし、互いに恋に落ちた二人は手を取り合って、国を取り戻すべく呪い師に立ち向かった。

 呪い師は手強かったが、愛の力で覚醒した少女の力により災いは退けられ、王子が弱った呪い師に止めを刺すことに成功する。

 少女は聖女として荒れ果てた土地に緑を蘇らせ、教皇と名を変えた王子は聖女と共に国を導き、コーナス聖国が誕生した。


 ……と、ざっくりとこのような内容である。

 真偽はともかくそういうわけで、この国では呪い師というと、およそ悪いイメージが付いて回るのだ。


「うん、呪い師についての一般的な常識に対して、本来の『(まじな)い』は災いを呼ぶものだけじゃないんだ」


 こくりと頷いたクリスは、大したことでもないかのように説明し始めた。


「呪いを悪だとした建国神話に背かないために秘密にされてるけど、教皇は国家の繁栄を守るために呪い師を雇っててね。終身雇用だしほぼ強制なんだけど、その代わりに呪い師の一族は国が続く限り生活の保証がされてる……んだったかな。とはいえ血は薄まってるから、呪い師として雇われるのは数人だけ、とか」

「……少し、待ってくれ、クリス」

「え? ごめん、どこかわからなかった?」


 こめかみを押さえたリリーに、クリスが慌てて補足する。


「あ、教皇も雇われた呪い師も目的は聖国の平和だけだから! まあ後ろ暗いこともしてなくはないみたいだったけど、というか聖国のためなら割と手段を選ばないみたいなかんむぐっ」


 リリーは思わずクリスの口を手で塞いでしまった。塞がざるをえなかった。


「頼むから一回待ってほしい。……クリス。それは本当に、わたしが聞いても大丈夫な話なのか?」


 リリーに口を塞がれたまま、クリスは目をぱちくりさせる。

 そして徐々に顔色を悪くしていき、そっとリリーの手をどけた。


「………ごめん。今の、国家機密、だったかも………」


リリーの前だとその辺の常識が吹っ飛んでる

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