黄金の髪の魔王 再邂逅 3
文字と言えばだが、ケイはこれまでの旅程の中で冒険者証を取得していた。
冒険者証があれば、今後も何かと役に立つかも知れないからと、道中の街で冒険者資格試験を受けたのだ。
試験には筆記試験もあるが、「アズマ人」として受け、アズマ語の試験用紙を使ったので、問題なくクリア出来た。もともと頭は良い。さすがはリザリエ様の知識の源泉となった人物である。
で、結果としては合格して、ケイは晴れて冒険者となった・・・・・・でいいのかな?
ヤマザト ケイタロウ
戦士
レベル8
力 155
体力 150
俊敏性 138
器用さ 161
運 131
魔力 0
魔力適性 空欄
潜在性 空欄
「お~~!思ったよりもレベル高ぇ!」
ファーンがケイの冒険者証を見て手を叩く。
「ファーンよりずっと強いね!」
先生として生徒の成果を喜ぶミル。
「うるせい!オレのはわざとレベル3にキープしてんの!」
「でも、確かに意外です。創世竜の話しからすると、もっと壊滅的にレベルが低いかと思っていましたから」
エレナの言葉を通訳すると、ケイは「ははは」と苦笑していた。
だが、オレもエレナに同意見だった。
創世竜やケイの話しによれら、エレス人と地球人では、その体の強さに大きな違いがあった。
エレス人は地球人をベースに、かなり強化された人造人間である。
地球人が怖れていた病気のほとんどを克服して、エレス特有の病気には罹るが、それでも病気に対する抵抗力は高い。
怪我の治りも早く、骨も頑強である。骨折しても、骨折の仕方にも寄るが治癒時には以前よりも頑強になる。
それは皮膚や筋肉も同様である。
そこに人が関わらない事故による死亡数はかなり少ない。
壁や家の倒壊に巻き込まれても、結構しぶとく生きている。だが、人が関わると、無意識の闘気が影響して、簡単に傷つく。
ケイに言わせると、「エレス人はバリアを持っているんだね」との事である。見えない盾のような物の事らしいがピンとこない。
歯も、折れても一ヶ月もしないうちに新しく生え替わる。ケイの言う「虫歯」何てものは存在しない。
エレス人は戦闘経験によって体が強化されていく。
レベル1では地球人と大差ないが、レベルが上がれば比べものにならないほどの差が出る。
レベル8だと、地球人ではどの位の強さになるのか興味が出る。
『ジーンに剣を習っていたからね』
ケイの言葉に納得する。祖父は滅多に直接指導をしない。その祖父が付きっきりで稽古したのだ。冒険者としては一応戦えるレベルに達していたのもうなずける。
『それはそうと、ファーンやリラの「潜在性」の文字だけど、なんか読めないんだけど・・・・・・』
ケイの言葉に俺は答える。
『あれは古代エレス語だからな。ファーンの「SS」なんて、まずはお目にかかれない評価値なんだぜ』
俺の言葉にケイは首を傾げた。
『・・・・・・リラや他の評価はどんなのがあるんだい?』
ケイが更に尋ねてきたので、俺は答える。
『リラさんやミルは「S」だよ。これもとんでもない評価値で、普通は空欄だよ。それで下からE、D、C、B、A、S、SS、SSSだ。俺はAだな』
俺が答えると、ケイが納得したような顔をする。
『なるほど、翻訳だとそう表現されるのか。俺にとっては分かり易いや。カードゲームのレア度みたいなものだな』
『カードゲーム?面白そうだな』
俺の反応にケイがニヤリと笑う。
『面白い代わりにお金が溶けていくからな』
なんだそれ・・・・・・。ちょっと怖い。
『見て見ろ、あの山を』
俺は遥か前方に、薄ら見える黒い帯のようなものを指さす。
『アレがグラン峡谷のある山々だ。あそこを越えると、いよいよグラーダ国だ』
ケイは目をすがめて山を見つめる。
『まだ遠いね』
『いや、明日には通過すると思うよ』
俺が言うと、ケイが少し考えてから呟く。
『そっか。「タカオサン」から「トチョウビル」が見えるくらいの距離なのか』
うん。何を言っているのかさっぱりだ。
『随分待たせてしまったから・・・・・・』
ケイの呟きは、とても重く感じた。
ケイにとっては数日でも、深淵の魔王ルシオールにとっては46年だ。
ルシオールが、真実魔王なら、その位の時間は何でも無いかも知れないが、ケイの話しによると、ルシオールは純真で無垢な少女だという。
青空に感動し、食べ物に感動し、ケイが教えた事を一生懸命守ろうとする素直な少女だそうだ。
そうならば、46年はあまりにも長い。
『そうだな・・・・・・。急ごう』
俺たちは馬の足を、少し早めた。
まるで城壁のように反り立つ山を、寸分の歪みもなく一直線に削り取って出来たのが、グラン渓谷である。
元々はただの山だったのだが、そこに街道を通すためにグラーダ三世が、自らの力で山を切り裂いたのだという。
長さにして約700メートル。
馬車が五台以上並んで進んでも余裕がある広さだが、側面に100メートルほど切り立った山の切断面を見ると、何だか恐ろしくなる。
切断面は様々な色の層が鮮明に見えて、地質学者にしてみれば、これだけで大興奮だろう。
切断面は結晶化しているのか、ツヤツヤに輝いている。その為、崖崩れも起きた事がないそうだ。
そこを抜けるとグラーダ国の国境となる。
そこに関所があるが、通行税は掛からない。一応旅券を確認するが、無くても簡単な手続きで入国出来る。
俺たちは冒険者なので代表者が冒険者証を見せれば通してくれる。というか、グラーダ国は入国に関してあまり厳しくないので、冒険者風の装いをしていれば会釈だけで通してくれたりもする。
だが、どうも関所の列が長く伸びている。
珍しく審問があるのだろうか?
取り敢えず列に並んで、ファーンに情報収集をしてきて貰った。
答えはすぐにわかった。
ザネク国がグラーダ条約を破ってグラーダ国に侵攻しようとした事件があり、その罰則として、グラーダ三世が国王の首を要求し、ザネク国はそれに応じざるを得なかったそうだ。
それによって、不満分子がグラーダ国に侵入した事件が起きているそうだ。
だから、今まで自由だった国境の警備も厳しくせざるを得なくなったのだという。




