表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十七巻 黄金の髪の魔王
985/1036

黄金の髪の魔王  コイバナ 5

 ダンはこの町で過ごした日々を思い返す。

 まだ12歳の頃、ダンは、魔神が率いた海賊達を撃退した。そこには多くの町の人や、心強い仲間、大切な恩人達の活躍もあったが、その戦いを指揮したのがダンだった。

 まだ子どもだったダンの言葉を、大人達が聞き入れたのは、それに先だって、ダンは子ども達だけでモンスターの一団を退治した実績があったからだ。

 それによって、ダンの作戦が受け入れられ、町を救う事に大きく貢献した。

 そして、助けに駆けつけてくれた恩人である、アスパニエサー連合国の元大族長だったランネル・マイネーに認められて、軍師となる道が開けたのである。

 ちなみに、アスパニエサー連合国は、今年の年明け、1月1日にレオニス・ティガ共和国へと、名前も体制も変わった。それによって、マイネーは大族長職から退いた。


 ダンが軍人を目指し、軍師になる事を決めたのは、この町を守る為である。この町がモンスターや魔神達によって壊されたり、町の人たちや、大切な隣人達が傷付かないで済むように、ダンは軍師を志すようになった。

 それは友人の影響もあった。

 

 ダンの親友であるエド・ロッソとレオンハルトは、今は軍人としてこの町で働いているはずだ。

 私情ではあるが、ダンは自分の腹心にこの2人を指名する事と決めている。これは親友達との約束でもある。

 残る2人は、軍師見習いの間に知り合った友人で、すでに打診している。

 だから、この休暇中にエドとレオンハルトに会って誘いを掛けるつもりである。


 誘いと言えば、それ以上に大切な用事がダンにはあった。




 ダンはまずは実家のパン屋に入る。

「ただいま、父さん、母さん」

 ドアベルが鳴って、客と一緒に父親と母親がダンを振り返り、その顔に喜色を浮かべる。

「お帰り、ダン」

「お帰り。ちょっと見ない間に大きくなって・・・・・・」

 ふっくらした母親が涙ぐむ。

「いやあ、立派になったねぇ、あのダン君が」

 客も当然顔見知りばかりだ。

「しょっちゅう衛兵に叱られていた悪ガキが、いまや立派な軍人さんか」

 ダンは体が弱く、からかわれたりいじめられてもいた。そのいじめっ子を見返すために、いろんな無茶をやっては町の人たちに迷惑を掛けていた。

 だから、町の衛兵から目を付けられていたのだ。


 ダンをいじめていた子どもが、今は親友となっているエドだった。

 父にも母にも、まだ自分が将軍になった事は言っていない。何と言ってもダンは16歳。成人したばかりで将軍職に就くなど、直接言っても信じては貰えないだろう。しかもアインザーク国とグラーダ国の二カ国で将軍職待遇となっているなどとは・・・・・・。


「ああ。あの頃は申し訳ありませんでした」

 ダンは笑顔で顔見知りの客に言うと、客も笑う。

「なんのなんの!今ではこの町の英雄だし、私らの誇りだよ」

 そう言ってくれるのが有り難かったし面はゆかった。


 それから、店先で軽く両親と話してから自分の部屋に行く。

 一年半では郷愁を感じるでも無く、見慣れた自分の部屋に、軽い鞄をポイッと投げ捨てると、すぐにダンは家を出た。



 目的地は家のすぐ向かいなのだが、まずはゾウ広場を道1本向こうの通りまで歩いて、なじみの花屋に行く。

 ここも大切な友人の家で、家族ぐるみで付き合いのあるアンナマリー・リップスの家だ。

 アンナマリーはダンより6歳年下の女の子で、兄妹のように育っている。

 年下なのに、小さい頃からしっかりしていて、ダンもよく叱られたものだ。

 今の時間は中等部の学校に通っているだろうか。

 アンナマリーに会いたい気持ちもあるが、会ったらきっとややこしい事を言ってくるだろうから、さっさと用を済ませる事にした。

「お姉さん、久しぶりです!」

 ダンは花屋に入ると元気よく声を掛ける。

 アンナマリーの母親で、ダンの母親と同級生だったそうだが、今でもとても若々しく美人だ。ただ、「おばさん」といったら滅茶苦茶怖いので、「お姉さん」と呼んでいる。

 ダンの周りの大人の女性は、そんな人が多いから困ったものだ。


「あら、ダン。久しぶりね。アンナはまだ学校よ」

 リップス夫人が微笑む。

「いや。後で会うよ。それより花を買いに来たんです」

 ダンは少し赤くなって言う。それで察したリップス夫人は、嬉しそうな笑みを浮かべる。

「あら。って事は、そう言う事ね?」

 そう言うと、細かい注文も聞かずに、手際よく可愛らしい花束を作り出す。

「代金は良いから、結果の報告はちゃんとしなさいよ」

 そう言って、赤と紫の綺麗な花で彩られたブーケを渡してくれた。

「ありがとう」

 ダンは花束を受け取ると、背筋を伸ばして店を出た。

 向かうはダンの家の真向かいにある三角地帯にある一軒の店だった。

 

 坂の町なので、建物に入るには階段を上らなければ入れない。

 その店は坂の一番下にある為、石壁に階段が付いている。階段を上り、生け垣に沿って右に曲がって、さらに左に曲がると、一軒の建物が見える。一軒と言ったが、三軒分の大きさで、三軒の建物が合体したように見える。

建物の入り口は白いポーチにある。木製の階段を上ると、大きなガラス越しに雑貨を置いてある棚が並んでいるのが見える。

 店の入り口には「パインパイン魔具店」と書いてある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ