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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十七巻 黄金の髪の魔王
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黄金の髪の魔王  神の与えたもうた試練 1

 グラーダ三世が弱音を吐いたのは、束の間の事だった。

 生まれてからこれまで、ずっと走り続けてきたグラーダ三世はリザリエが到着する前に、一つ一つ問題をクリアして行かなければならなかった。

 何故なら、山積している問題の数々は、深淵の魔王の活動開始と比べれば、些事に過ぎなかったからである。


 問題解決の手段が分かる能力を有しているグラーダ三世は、その答えを得るために、すぐに行動を起こした。

「もう行かれるのですか?」

 長いため息の後、おもむろに立ち上がったグラーダ三世にギルバートが声を掛けた。

「俺は手段は分かるが、答えが見える訳ではないからな。手段が分かったならば行動せねばならない」

 ギルバートは何度も聞いた台詞であった。

「では、ご武運を」

 この言葉の後は、必ずこう言って送り出す。


 

 グラーダ三世の頭は、未だに混乱の極みにあったが、とにかく今は行動する事で、こんがらがった糸をほどいていく。

 執務室を出たグラーダ三世は、再び階段に向かう。

「おい、お前!ここから先は通さないぞ!!」

 相も変わらずメギラが飛び出してきて通せんぼする。

「おい。俺だ!」

 メギラはアクシス以外の人間の顔を覚える気が無いらしい。

「ああ!これはお父様!?」

 興味がないので、ついさっき通過した事も覚えていない。

「来い」

 そう言うと、グラーダ三世はメギラの腕を掴んで階下へ向かう。

「ああ、どこへ?ぼくは姫様を守る為に、あそこを離れてはいけないのに!」

 メギラが抗議の声を上げる。

「心配するな。アクシスはこれまで通り、『蜘蛛』と『影』と十二将が守る」

「へえ。『蜘蛛』とか『影』って、あの一緒にいた子の事?」

 一応侍女のビアンカの事は覚えていたようだ。

「いや、違う。あの娘は身の回りを世話する係で有り、いざというときの身代わりだ」

 グラーダ三世が答えると、メギラは腕を引かれたまま首を傾げる。

「身代わりって言うけど、あんまり似てないよね?」

 グラーダ三世の足が止まる。

「似てないだと?」

 人通りがある3階まで来ていたので、メギラが気を遣って小さな声で言う。

「うん。姫様の方がずっと綺麗だから、一発でバレちゃうじゃん」

 こんな所に自分の理解者がいた事に、グラーダ三世は一瞬喜びそうになってしまった。思わず目的を忘れて、アクシスについてメギラと小一時間ほど語りたくなってしまった。

「むむむぅ~~~」

 呻ると、再びメギラの腕を引いて階下へ進む。

「でもさ。そう言う事、あんまりぼくみたいなヤツに話さない方が良いよ。ぼく、自分が悪い奴だったって知ってるんだから」

 メギラが困った様に小さな声でグラーダ三世に言う。

「貴様は再び堕天するつもりか?」

 グラーダ三世が静かに言う。

 自由にしている様に見えるが、メギラの首には、強力な魔法道具が付けられている。呪文を知っている者が一声唱えれば、首に付けている革の装飾品が締まる。呪文がなければ解除も出来ないし、装着者が引きちぎるなどして外す事も出来ない。メギラが本気を出したなら、外す事は出来るだろうが、その前に誰かに呪文を唱えられたらお終いなのである。

 最終的には首が引きちぎれるまで革が締まる。

 そして、呪文を知っている人間が、何人いるのかをメギラは知らされていない。


「ぼくはもう魔神には戻りたくないんだ。『可愛い』自分でいたいもの。・・・・・・でも、ぼくはぼくがして来た事を覚えている。それが許せないし、魔神の自分の事は憎いと思っている。だから、ぼくは本当の『可愛い』になるまで、自分を信じないんだ」

 よくは分からないが、メギラはメギラなりに考えているのだと言う事はグラーダ三世にも伝わった。

「うむ。腕は痛くはなかったか?」

 ついメギラの腕を掴む手に、これまで力がこもっていた事に気付いてグラーダ三世が尋ねる。

 見た目は幼い美少女である。

「大丈夫だよ、お父様。ぼくはまだ強い体のままだからね」

 このままではやがて衰えていく事も十分理解しているようだ。

 「堕天」するよりも「昇天」する方が難しいとは良く言ったものだ。

 堕天しても、悪事を働けば、簡単に力を維持出来る。しかし、昇天しても魔神の頃の悪評がある為、信仰心を得るのは極めて困難である。特にメギラのような有名な魔神は、信仰心を集めるのは絶望的だ。

 ただ、メギラの場合は、自ら開発した爆発魔法が、かなり人気があり、高レベル冒険者や建築現場で働く魔法使い、国家で働く魔導師たちで使用者が多い。魔法使用時の魔力吸収で、かなりの力をキープ出来るだろう。

 ダンジョンを作っていれば、更に効率は良いのだが、メギラがかつて一度だけ作ったダンジョンは、難易度設定が鬼畜なので、誰も訪れなくなって今は存在していないらしい。

 

「ふむ。そうだったな」

 そう言うと、力を弱めてメギラの腕を引いて階段を降りていく。



 たどり着いたのは地下3階。

 天界と魔界に通じる扉が安置されている場所である。

 魔界への扉は、一時海底に沈めていたが、今は回収されて再び部屋に置いている。

 ただし、部屋には以前より厳重な封印が施されている。


「・・・・・・ああ。やっぱりぼくを魔界に連れて行くのかい?」

 メギラは淋しそうに笑った。

 今メギラが魔界に戻ったら、必ず処刑される。

 グラーダ国にとって、メギラを手元に置いておくのは、危険なだけで、何も得が無い。

「もちろん良いよ。ぼくの命で、姫様が少しでも安全を得られるなら、それで構わないさ」

 メギラは静かに言った。

「勘違いするな。貴様を連れて行くのは天界だ。そこで貴様の処遇を検討する」

「天界?・・・・・・って、いやいや。どっちみち処刑じゃないのかい?」

 メギラは天界でも恨みを買っている。かなりの神を殺して来たからである。

「今の天界は、そう単純なものでは無い」

 そう言うと、グラーダ三世は天界への扉が安置されている部屋の封印を解いて、メギラを伴って入っていった。



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