黄金の髪の魔王 サイクロプスの毒 2
俺は、サッと腕を挙げた。
仲間たちはすぐに理解して頷く。表情を引き締めて進路を変じる。
丘の斜面に掛かる手前の、木々が生い茂る細道に入っていった。
するとそこに、細身の美形男子、紫竜ことニーチェと、黒髪で赤いドレスを着た幼い少女、黒竜ことコッコ、そして、筋骨隆々の大男が待っていた。
筋骨隆々の大男が緑竜だろう。深緑で波打つ長い髪を持ち、薄い衣だけで、腕も足も剥き出しにして平然としている。足も裸足にサンダルだ。
「あれ?あの少女は確か・・・・・・」
イェークが驚く。
そうか。イェークはコッコを見ていたな。
この人達が創世竜だと知れたら、2人は殺されてしまうだろう。
俺は仲間たちに目配せをする。
すぐにファーンが俺の意を汲んでくれる。
「よし。ここでちょっと休憩だ。カシムは協力者達と話しをする必要がある。悪いがイェークとシスは部外者だからな」
ファーンの言葉に、2人は目を合わせて静かに頷く。
「分かりました。僕たちはここで待ちます」
「物わかりが良くて良いな。リラ、カシムと一緒に行ってやってくれ」
ファーンが指示を出すと、リラさんが少し驚いた様な、嬉しそうな顔をする。
「私で良いの?」
リラさんがファーンに尋ねながら、俺の方をチラチラ見る。
「そりゃあ良いだろ?リラは詩人なんだから」
おお。なるほど。ファーンのヤツ、粋な計らいだ。
リラさんは詩人で、自分の歌を見つけるために俺と旅をしてくれている。
創世竜から直接話を聞くのは、詩人としては何よりも得がたい経験となるだろう。
俺も大きく頷くと、リラさんは顔を真っ赤にさせて微笑む。可愛い。
そんな訳で、俺とリラさんは仲間たちに馬を預けて、人の姿をしている創世竜三柱と木々の奥に歩いて行った。
少し離れた辺りで立ち止まると、それぞれに腰を降ろそうとするが、如何せん雪の積もる森の中だ。それは寒い。
俺は簡易的なキャンプを設営し、たき火を焚く。そして、立ち枯れしている木を切って、簡易的なベンチにする。
その間、リラさんはアラーム魔法を周囲に敷設する。
どうも創世竜は、周囲の索敵は笊だ。人間と同じく目視に頼る様である。特別な力はあるのだろうが、基本的には使わないそうだ。
黒竜が俺たちの上を通った時も、俺が声を掛けなかったら気付かなかった位だからな。
リラさんが戻ってきた頃には、温かいお茶を飲めるようになっていた。
「一応確認するが、俺たちは創世竜が人間形態に変身出来ることを知っているです。あなたは緑竜で間違いないかな?」
結構威厳ある男の姿に、俺は態度を改めようかと迷って、中途半端な言葉遣いになる。
創世竜は、人の取る態度の変化など意味が無いというスタンスらしいが・・・・・・。
「うむ。我が緑竜だ、主よ」
緑竜が頷くと、コッコがいきなり叫ぶ。
「きええええええええええっっ!!!あ、あ、主?!主じゃとぉ!!!??」
俺もリラさんもだが、緑竜も目を剥いて驚く。ニーチェなんか用意した切り株の椅子からずり落ちた。
「貴様!!!新参者のくせに、ワシのお兄ちゃんに対してなれなれしくも図々しい!!!」
俺の隣にいたコッコが、可愛い八重歯をむき出しにして、緑竜に襲いかかろうとしたので、俺がヒョイと抱えて膝に乗せる。すると、コッコは「うう~~~~」と呻りながらも、ひとまずは暴れるのを止める。
「コッコは俺の最愛の妹だ。だからそんなに怒らないでいいぞ」
コッコの頭を撫でると、今度は一転、勝ち誇ったような顔で緑竜を見る。うむ、可愛い。
「いや、助かった。今の黒竜に殴られたらただでは済まんからな」
筋骨隆々な大男が、自分の膝までしかない小さな少女に怯えるとか、創世竜のこの「演出」って一体何なんだろう?
「わたくしは、何度も死にかけているのだ!カシムよ。黒竜をしっかり躾けてくれ!」
ニーチェの叫びに、コッコがジロリと睨むと、ニーチェは慌ててリラさんの後ろに隠れる。
「あのな、ニーチェ・・・・・・」
俺は呆れる。
だが、緑竜が真面目な顔で俺に教えてくれた。
「うむ。地上人たちにとっては、小さな少女に見えるのだろうし、力も弱いのだろう。だが、我等創世竜の本体は、ここよりも高い領域に存在している。現在、我々はその高い領域でも本来の力を持った本体として黒竜と対峙しているのだ。もしこの地上で黒竜に殴られれば、高い領域の本体でも、同じく黒竜の全力で殴られている事になる。そうすると、速さ、技、エネルギー、全てにおいて本来持つ力の差が地上で表現される事になる。だから、我も紫竜も、黒竜の力には敵わんのだ」
ああ。「演出」ってそう言う事か。
俺は納得した。
だから、地上で人の姿でいる時は人の姿と同じ力しか発揮出来ない。怪我もするし痛くもなる。
人の世界にある時は人の世界の理が、一見適応される。
それが「演出」。
だけど、高い領域にいる創世竜本体には、人が受ける程度のダメージなど、実際は影響がないんだな。
だからすぐに痛みも引くし、怪我も治ってしまう。実際は何も損なわれていないのだから当然か。
そう考えると、ニーチェの怯え方も納得がいく。と、同時にゾッとする。
30メートルのニーチェが、300メートルのコッコに、全力で何度もぶん殴られていて、逃げようにも速さでも敵わないから一方的にやられるんだよな・・・・・・。
「ニーチェ。ごめん。俺が悪かったよ。コッコにちゃんと話しておく」
俺はニーチェに謝った。ニーチェは涙を流して懇願の眼差しを俺に向ける。
コッコは何故か得意げな様子だ。
「うむ。それにしてもお主等は我が主に名前を付けられたのか?」
緑竜が尋ねる。
「わたくしはこちらのお嬢様に名前を授かったのだ」
とたんにニーチェが気取ってリラさんに深々と頭を下げる。
「なんじゃ?貴様、羨ましいのか?」
コッコが緑竜に噛みつくように言う。
「いや。我は緑竜で結構」
「つまらぬヤツじゃ」
コッコがお茶をフーフーしながらチビチビ飲む。




