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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十七巻 黄金の髪の魔王
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黄金の髪の魔王  緑竜とトリスタン 5

 思わぬ所から援軍が来た。いや、緑竜は戦を一掃すると言っていた。その為に本当に動いてくれるのか?

 居並ぶ人たちも驚いて目を見張る。畏れのあまり顔を伏せる人々も少なくない。


「緑竜?どうする?」

 俺は背後を振り仰ぐ。

『我の主はカシムである。その名の下に、我はトリスタン全てに声を届けよう。戦を直ちに止める事。そして、2月13日に各国の代表者はピスカの街に集う事。それが叶わなければ我がその国を滅ぼす事を』

 緑竜の穏やかな声に合わない発言内容だったが、俺は実に創世竜らしいと思った。緑竜は脅しではなく、宣言通りに実行するだろう。

 居並ぶ人々は畏れ入ったようにひれ伏す。少なくともここにいる人たちは、すでに戦をする気は無いだろう。緑竜の言葉を一切合切飲み込むだろう。


『それと、地獄教徒は全て滅ぼしてやろう。各国の重鎮も地獄の魔物達に利用されているのだ。そやつ等を滅ぼさぬ限り、戦を止める事は出来まいからな』

 緑竜の言葉に、俺は恐る恐る尋ねる。

「方法は?」

 答えは俺の思った通りだった。

『黒竜がやったのと同じ方法だ。トリスタン全土に宣言した後、トリスタン全土を炎で覆う』

 そして、地獄教徒だけが炎に焼かれて死ぬ訳だ。創世竜は一晩で国を滅ぼすと言うが、一瞬で滅ぼす事が出来るんだな・・・・・・。


『これで良かろう?そして、会合には我も参加する。我の前で終戦の宣言をするのだ』


 緑竜の言葉に俺は頷くより外なかった。それが最良手だと思ったからだ。

「それでいいな?!」

 俺は地面にひれ伏すトリスタン人たちに言うと、ようやく氷竜の頭から降りる事にした。


 


 その後、緑竜は空に舞い上がり、南の地へ飛んでいき、忽然と消失した。

『あの辺りにいるのか』

 俺は緑竜が消えた辺りをしっかり確認した。多分、コッコもニーチェも一緒にいるんだろう。早く合流しないとだな。



 だが、氷竜から降りた俺たちは、すぐに王や将たちに囲まれた。

 敵意有る訳では無い。皆が俺たちを普通じゃない感じにもて囃す。

 「救世主様」などと意味不明な事まで言ってくる。

「そんなつもりはない!俺たちはただの冒険者であって、それ以上の何者でもない!!」

 俺はそう言ったが、すぐ後ろに「精霊女王」がいるんだから、全く説得力が無い。

「とにかくここを離れないといけないな」

 俺が言うと、リラさんが問答無用に空気の安全地帯を創り出す。

 周囲にいた兵士たち、王達が派手に吹き飛ばされるのが、薄い膜を通して見えた。

 さすがにエグい・・・・・・。

「行きましょう?」

 リラさんがピーチにフワリと飛び乗って言う。

「そ、そうですね。みんな。速やかに撤収だ!!」

 俺の言葉に、仲間たちも素早く馬に乗る。

 ニーチェの乗っていたアップルにもイェークとシスさんが乗る。

「ったく。何が『速やかに』だ。お前が話しを大きくしてるんだろうが」

 ファーンがブツブツ文句を言う。耳が痛いな。

「オレは『お前が事を大きくする』って忠告したよなぁ~」

 やべぇな。結構本気で怒ってるよ。これは温泉で挽回しないといけなさそうだ。

「あら。私は凄く良い経験をしたと思ってるわよ」 

 リラさんが上機嫌で言う。そして、ミルと一緒に「ねぇ~~~~」と笑い合っている。

 2人が機嫌が良いのは有り難い。

「あたしもスッキリしましたよ。まあ、戦士その物のあり方を否定された様な気もしましたが」

 エレナがケラケラ笑いながらリラさんに追従する。エレナが俺のやり様を誉めるのは、何だか気味が悪いな。


「カシムさんは本当に僕の英雄です」

 イェークがキラキラした目で俺を見ている。その真っ直ぐ系の視線に俺は弱いんだ。胸やら耳やらが痛くなる。

「イ、イェーク。俺は君より年下だったよな?敬語はやめてくれないかな?」

 これは切実に思う。

「はい。わかりました」

 いや。わかって無いヤツだ・・・・・・。

 てか、あれ?イェークは1人で馬に乗ってる。シスさんは?

 ああ。ランダの前に乗ってるよ。ランダが静かだと思ったら、ずっとシスさんに捕まってたのか。シスさんとイェークは恋人ってワケじゃなかったのか・・・・・・。


「まあいいや。それより、イェーク、シスさん。俺たちはこれからピスカに戻る。ピスカではビル達が心配しているはずだ」

 俺が言うと、2人は驚く。

「ビル達が?」

 シスさんの言葉に俺は頷く。そして、簡単に経緯を話す。



「そう・・・・・・。本当にいい人達ね」

 シスさんが目に涙を浮かべる。

 イェークも嬉しそうに頷く。

「それで、このまま出発するけど、荷物とか必要なものとかあったら取りに戻るか?」

 その前に、トリスタンを脱出する事に反対される可能性もあるよな。

「ないわ」

 シスさんがあっさり言う。

「挨拶する人とかは?」

 一応聞いてみるが、それにもシスさんはすぐに首を振った。

「いいのか、シス?」

 尋ねたのはイェークだった。

「良いの。あたしの中の『トリスタン』は、『マイアン家』は、おなかの傷と一緒に消えて無くなりました!実際にあたしは死んだんでしょ?なら、もう一切関係ないわ。その方が良いでしょ?」

 シスさんの言葉に、少し迷いながらも、イェークも頷いた。

「その通りだ。ビュトーやショットたちの無事を確認したかったが、余計なお世話だよな」

 イェークの苦笑に、シスさんが少し戸惑う。

「・・・・・・イェークは残っても良いのよ。少なくともここにはあんたを慕ってる人たちが沢山いるんだし」

 シスさんの提案に、イェークは憮然としたように言い切る。

「僕はシスと一緒に行く!」

 話しは纏まったようだ。

「じゃあ、出発しよう」

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