黄金の髪の魔王 緑竜とトリスタン 5
思わぬ所から援軍が来た。いや、緑竜は戦を一掃すると言っていた。その為に本当に動いてくれるのか?
居並ぶ人たちも驚いて目を見張る。畏れのあまり顔を伏せる人々も少なくない。
「緑竜?どうする?」
俺は背後を振り仰ぐ。
『我の主はカシムである。その名の下に、我はトリスタン全てに声を届けよう。戦を直ちに止める事。そして、2月13日に各国の代表者はピスカの街に集う事。それが叶わなければ我がその国を滅ぼす事を』
緑竜の穏やかな声に合わない発言内容だったが、俺は実に創世竜らしいと思った。緑竜は脅しではなく、宣言通りに実行するだろう。
居並ぶ人々は畏れ入ったようにひれ伏す。少なくともここにいる人たちは、すでに戦をする気は無いだろう。緑竜の言葉を一切合切飲み込むだろう。
『それと、地獄教徒は全て滅ぼしてやろう。各国の重鎮も地獄の魔物達に利用されているのだ。そやつ等を滅ぼさぬ限り、戦を止める事は出来まいからな』
緑竜の言葉に、俺は恐る恐る尋ねる。
「方法は?」
答えは俺の思った通りだった。
『黒竜がやったのと同じ方法だ。トリスタン全土に宣言した後、トリスタン全土を炎で覆う』
そして、地獄教徒だけが炎に焼かれて死ぬ訳だ。創世竜は一晩で国を滅ぼすと言うが、一瞬で滅ぼす事が出来るんだな・・・・・・。
『これで良かろう?そして、会合には我も参加する。我の前で終戦の宣言をするのだ』
緑竜の言葉に俺は頷くより外なかった。それが最良手だと思ったからだ。
「それでいいな?!」
俺は地面にひれ伏すトリスタン人たちに言うと、ようやく氷竜の頭から降りる事にした。
その後、緑竜は空に舞い上がり、南の地へ飛んでいき、忽然と消失した。
『あの辺りにいるのか』
俺は緑竜が消えた辺りをしっかり確認した。多分、コッコもニーチェも一緒にいるんだろう。早く合流しないとだな。
だが、氷竜から降りた俺たちは、すぐに王や将たちに囲まれた。
敵意有る訳では無い。皆が俺たちを普通じゃない感じにもて囃す。
「救世主様」などと意味不明な事まで言ってくる。
「そんなつもりはない!俺たちはただの冒険者であって、それ以上の何者でもない!!」
俺はそう言ったが、すぐ後ろに「精霊女王」がいるんだから、全く説得力が無い。
「とにかくここを離れないといけないな」
俺が言うと、リラさんが問答無用に空気の安全地帯を創り出す。
周囲にいた兵士たち、王達が派手に吹き飛ばされるのが、薄い膜を通して見えた。
さすがにエグい・・・・・・。
「行きましょう?」
リラさんがピーチにフワリと飛び乗って言う。
「そ、そうですね。みんな。速やかに撤収だ!!」
俺の言葉に、仲間たちも素早く馬に乗る。
ニーチェの乗っていたアップルにもイェークとシスさんが乗る。
「ったく。何が『速やかに』だ。お前が話しを大きくしてるんだろうが」
ファーンがブツブツ文句を言う。耳が痛いな。
「オレは『お前が事を大きくする』って忠告したよなぁ~」
やべぇな。結構本気で怒ってるよ。これは温泉で挽回しないといけなさそうだ。
「あら。私は凄く良い経験をしたと思ってるわよ」
リラさんが上機嫌で言う。そして、ミルと一緒に「ねぇ~~~~」と笑い合っている。
2人が機嫌が良いのは有り難い。
「あたしもスッキリしましたよ。まあ、戦士その物のあり方を否定された様な気もしましたが」
エレナがケラケラ笑いながらリラさんに追従する。エレナが俺のやり様を誉めるのは、何だか気味が悪いな。
「カシムさんは本当に僕の英雄です」
イェークがキラキラした目で俺を見ている。その真っ直ぐ系の視線に俺は弱いんだ。胸やら耳やらが痛くなる。
「イ、イェーク。俺は君より年下だったよな?敬語はやめてくれないかな?」
これは切実に思う。
「はい。わかりました」
いや。わかって無いヤツだ・・・・・・。
てか、あれ?イェークは1人で馬に乗ってる。シスさんは?
ああ。ランダの前に乗ってるよ。ランダが静かだと思ったら、ずっとシスさんに捕まってたのか。シスさんとイェークは恋人ってワケじゃなかったのか・・・・・・。
「まあいいや。それより、イェーク、シスさん。俺たちはこれからピスカに戻る。ピスカではビル達が心配しているはずだ」
俺が言うと、2人は驚く。
「ビル達が?」
シスさんの言葉に俺は頷く。そして、簡単に経緯を話す。
「そう・・・・・・。本当にいい人達ね」
シスさんが目に涙を浮かべる。
イェークも嬉しそうに頷く。
「それで、このまま出発するけど、荷物とか必要なものとかあったら取りに戻るか?」
その前に、トリスタンを脱出する事に反対される可能性もあるよな。
「ないわ」
シスさんがあっさり言う。
「挨拶する人とかは?」
一応聞いてみるが、それにもシスさんはすぐに首を振った。
「いいのか、シス?」
尋ねたのはイェークだった。
「良いの。あたしの中の『トリスタン』は、『マイアン家』は、おなかの傷と一緒に消えて無くなりました!実際にあたしは死んだんでしょ?なら、もう一切関係ないわ。その方が良いでしょ?」
シスさんの言葉に、少し迷いながらも、イェークも頷いた。
「その通りだ。ビュトーやショットたちの無事を確認したかったが、余計なお世話だよな」
イェークの苦笑に、シスさんが少し戸惑う。
「・・・・・・イェークは残っても良いのよ。少なくともここにはあんたを慕ってる人たちが沢山いるんだし」
シスさんの提案に、イェークは憮然としたように言い切る。
「僕はシスと一緒に行く!」
話しは纏まったようだ。
「じゃあ、出発しよう」




