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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十七巻 黄金の髪の魔王
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黄金の髪の魔王  緑竜とトリスタン 3

 だが、そんな俺の側にコッコがやって来て、難しい顔をして俺に耳打ちする。

「カシム。今の薬はどうしたのじゃ?」

 真剣な表情なので、カシムは簡単に入手した経緯を伝える。

 すると、コッコが不機嫌そうにため息を付く。

「あやつ等めが。あれほど作るのは禁じておったのに、やはり作っておったか・・・・・・」

 俺の背筋に冷たい汗が流れる。

「危険なのか?」

 これまでの創世竜の話を聞いている俺にとっては、コッコの反応は、世界規模での危険に繋がっていると感じさせた。

「この世界にあってはいけない代物だ。下手をすれば時空が歪む。・・・・・・まだ残っておるのか?」

「あと一粒だけ・・・・・・」

 コッコに箱の中を見せる。黒い丸薬があと一粒だけ入っている。小箱の大きさから、最初から二粒しか作られなかったような気もする。

「やつら、ワシに怒られるのを怖れてお主に薬を託したのではあるまいな・・・・・・」 

 いや。多分ハイエルフの人たちはミルの身に何かあった時に使って欲しいと願って、俺に薬を託したのだと思っている。

「まさか・・・・・・」

 とは言ったものの、ヒシムの顔を思い浮かべると、存外そんな事もあり得ると思ってしまう。

 だが、コッコは意外にも表情を明るくする。

「だが、コレは使えるかも知れん」

 コッコが言うには、この薬があれば、緑竜を狂わせている毒を消す事が出来るかも知れないらしい。

 緑竜を狂わせたのは、幻の巨人族サイクロプスのせいだという。何らかの事故かなにかで、緑竜がサイクロプスを喰ったのではないかと言う事だ。

 いや、ちょっと想像付かないが、事故で巨人を喰っちゃうってあるのか?

 ともあれ、薬を緑竜に喰わせれば良いなら、紫竜に殺されずに緑竜を助ける事が出来る。



「よし、行くか」

 コッコと話し終えて、採るべき作戦は決まった。しかし、その前にモンスター軍を何とかしなければいけない。

 最優先するのは、この集団を操っているロード種を倒す事だ。そうすれば統制の取れなくなったモンスター程度ならこれだけ兵士がいるのだから、自分たちで何とか出来るだろう。というか、これ以上の面倒は見てやるつもりはない。

 俺はトリスタンと言う国に対して、不信感と不満を持っている。はっきり言って軽蔑すらしている。だから、自分たちの問題は自分たちで解決して貰いたい。


 そう思いながら周囲を見まわすと、空気の薄膜越しに、竜種達が完全に動きを止めて体を縮こまらせているのが見えた。

「・・・・・・ん?あいつ等どうした?」

 そう言いながら、ふと気付いた。

「コッコか?」

 すぐ足元のコッコに問いかけると、コッコがにっこり笑う。

「当然じゃ。ワシがこの場にいるのだ。竜種共は怯えて息も出来まい」

 小さな胸を張るコッコに、頬ずりしたい思いだったが、ここは頭を撫でるのみに留める。それにしても、さすがは黒竜だ。ここまで竜種に怖れられているとは・・・・・・。


「じゃあ、行くぞ!」



◇     ◇



 その後、なんやかんやあったが、無事に緑竜の解毒を済ませ、モンスターを全滅させた。

 それに当たって、俺はいろんな奴に暴言を吐いてしまった。

 だが、俺は間違っていないし、後でなんか文句言われても、ペンダートン家とグラーダ国王に何とかして貰うつもりでいた。それくらいはして貰って構わないだろう。

 それに、まだトリスタンの奴等には言いたい事が山ほど残っている。一晩中でも説教かましてやりたいくらいだ。



『カシムよ。感謝する』

 上空から滑空する俺とミルの側を、緑竜が並ぶようにしてゆっくり下降してくる。

「何。たまたまだよ。紫竜や黒竜も助けてくれたしな」

 俺はミルを抱きかかえて緑竜に笑いかける。

 正気を取り戻した緑竜の瞳は、実に穏やかな輝きをしていた。

『我はそなたを竜騎士として承認しよう。そなたを我が主と仰ごう』

 緑竜は誠実な物言いで俺に告げた。

 告げられた俺はあわててしまう。

「いや。それはまだ早い。俺は七柱の創世竜に認められなければ竜騎士にはなれないって約束だ」

 「主」となるのはそれからだったはずだ。

 だが、緑竜は喉を鳴らして笑う。

『それは白竜が定めたのだろう?だが、元々は四柱だったはずだ。我はそれで充分だと思っている。故に、我は我として勝手にそなたを主と認める』

 俺は返答に窮する。とても誇らしくも栄誉ある言葉を貰っている。

『フフフ。それに、黒竜はすでにそなたを主と定めているようだ。力が以前より遥かに増している』

 緑竜の言葉に、まだ俺たちより遥か低空に浮かんでいる黒竜を見る。体が大きくなっているのはやっぱり気のせいじゃないのか。

 それにしても、俺を主だと認めると創世竜は力を増すのか?それなら、竜騎士っていったいなんなんだ?余計に分からなくなってきた。


 そんな事を考えていたら、緑竜が提案してくる。

『我はかなり迷惑を掛けてしまったな。それに対して償いをしよう』

「償い?」

『うむ。トリスタン地方から地獄教徒を一掃する。これは地獄の注目を集めてしまうのでやりたくなかったが、どうやら地獄の大穴が開く日も近いようだ。ならば、些細な事を気にしても仕方が無い』

 うお。またしても質問攻めしたくなる言葉がさらりと出て来た。

 そんな事出来るのかとか、地獄から目を付けられるってどうなるのかとか、地獄の大穴が開く日が分かるのかとか・・・・・・。

 地獄教徒の殲滅は、多分さっきコッコがやったようにすれば出来るのだろう。実に創世竜らしいやり方だ。

『ついでに、このトリスタン地方から戦を一掃しよう』

 ああ。もう質問する方が疲れそうだ。

 こうなったら取り敢えずは緑竜に任せよう。



 俺たちいつの間にか消えていた黒竜のいた地点を更に下降して、再びさっきまで足蹴にしていた氷竜の頭上に舞い降りる。

 その氷竜の背には、仲間たちも集まっていた。ニーチェの姿はない。


 俺の背後に、まるで俺を守る様に巨体をそびやかした緑竜が、大きく翼を広げて音も無く降り立つ。

 舞台は整ったな。

 そして、俺は宣言した。

「さあ、何とかしたぞ!!これでトリスタンのくだらない内部紛争は終結とする!!文句はないな!!」


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