黄金の髪の魔王 ピスケでの再会 4
「それで、イェーク達が向かったのは、間違いなくリーン国なんだよな?リーン国の何処かまでは知らないのか?」
俺が尋ねると、レネップが手を挙げる。
「知ってるぜ。スプリガンは耳が良いからな。ルヴァ村って言ってたぜ」
盗み聞きしたのか。まあ、今は「でかした」と言っておこう。
すぐに司書様の、今度はちゃんと目を見る。
視線に促されて司書様は、リーン国周辺が拡大されている別の地図を広げた。そして、地図の一カ所を指し示す。
「ここがルヴァです。今は『街』の規模になっています。ただ、ゴース国が今狙っているのが、このルヴァの街のあるアーシュ地方だという噂を耳にしています」
司書様の説明に、奥歯を噛みしめる。すると俺の思いを察したようで、ファーンが俺の肩を叩いてジロリと俺を見る。
「カシムよ。一応確認しておくけど、優先順位をはっきりさせとこう」
さすがは俺の相棒だ。話が早いし、覚悟を決めやすい方向に導いてくれる。
そうだな。その優先順位を決めるのがリーダーである俺の役目だ。
「もちろん、イェークとシスさんの救助だ。それ以外は知らん。それが済んでから緑竜探索行だな」
ファーンの言う優先順位。これにトリスタンの人々の平和とか、安全とか、命とかをどう扱うのかと言う事だ。
戦乱の中にあるトリスタンに入ると言う事は、北バルタで俺が見たり体験したような事にまた遭うかも知れない。
いや、確実に遭うだろう。
それに、トリスタンでは、モンスターの出現度も、他の地域に比べてかなり高いそうだ。となると、モンスターに襲われている村、町を見かけるかも知れない。
それらに一々構っていくのかどうか、その辺りの線引きをしっかりしておけ。ファーンはそれを言いたかったのだ。
「トリスタンがモンスターに対応出来ていないのは、いつまでも戦争ごっこを楽しんでいる自分たちが悪い!そして、その戦乱を当たり前として受け止めている国民にも問題がある!俺はそんな馬鹿な奴等のために、冒険者仲間の危機を見過ごすなんて事は出来ない!だから、第1にイェークとシスさんを救助する。それが終わってから緑竜に向かう」
俺の言葉に、ビル達は嬉しそうに頷いた。
ファーンも満足そうだった。
「もし緑竜と先に遭遇したらどうする?」
ランダの言葉に、少し考える。
「・・・・・・その時は専門家に任せて、俺たちは第一目標を達成しよう」
言葉を濁して答えた。うかつに黒竜とか、紫竜とか言えないからな。そして、ランダが尋ねたのも、この二柱の竜が緑竜と遭遇した時どう動くか分からなかったからだ。
「了解した」
これで方針が纏まった。
◇ ◇
カシム達は、その後、ビルたちや司書からの情報を更に集めてから解散した。
「では、カシム。俺は早速入国手段を手に入れてくる」
ギルド本部から出ると、ランダはすぐにカシムに告げる。
ギルド本部の外は雪が降っている。背の低い木製の建物が並ぶピスカの街が薄らと雪化粧をしている。
通りを行く人たちは、毛皮のコートやマフラー、手袋を身につけているが、中には薄手の上着だけで平然としている人もいる。彼ら、彼女たちはトリスタンの内地の人らしい。
1月は春である。厳しい冬を越えたトリスタン人にとっては、小雪の舞う程度の気温は充分暖かいらしい。
「危険は無いのか?」
カシムがランダに問いかけると、ランダは平然と言う。
「無論危険はあるが、問題ない」
「説明不足だぜ。それじゃあ、カシムが付いて行っちまうだろ?」
ファーンがランダを窘める。ランダは小さく頷くと説明を続けた。
「治安が悪い場所に向かう必要がある。だが、俺は何度も行っているから問題ない。むしろカシムが来るとややこしくなる」
ランダが行こうとしているのは、裏冒険者専用の、言わば裏ギルドである。一般的には存在も知られていない、都市伝説レベルの物である。
当然犯罪者や、暗殺者、社会に適応出来ない狂人が集まっている。
「わかった。そっちはランダに任せる。俺たちは準備をしながら・・・・・・そうだな、あそこの宿で待っている」
ギルドの近くには、冒険者が利用する為の安宿が建ち並んでいる。宿は大体が二階建てで、扉を開け放している宿ほど良い宿だと言われている。それは、ちゃんと用心棒が宿を守っていると言う証になるからである。
それはこの寒いトリスタンでも同じだが、開け放しているのは二重扉のうちの外側の扉だけである。
カシムはその内の一つの宿を指さす。
「わかった」
ランダは頷くと、そのまま街の通りを歩いて行く。
カシムとファーンは互いに顔を見合わせる。
「どうにか出来るか、相棒?」
カシムがファーンに尋ねる。助けるとは請け合ったが、自信も無ければ目算もない。行き当たりばったりでしか無い。
「抱え込むなよ。オレたちは一冒険者に過ぎないんだ。出来なかったら仕方が無いさ」
ファーンが小さくため息を付く。その息が白く風に流れて行く。
「そうだよな。・・・・・・でも、何とかしたいな」
「その『何とか』がお前にとっては大きな事になっちまうんだ。だから自重しろよ」
ファーンが苦笑する。鼻の頭が赤くなっている。
カシムにとってはファーンがいる事で心が軽くなる。ファーンがカシムの思考を正したり、冗談を言って紛らわせてくれる。そして、時々とても可愛らしい表情を見せる。
最高の友であり、最高の相棒だと本気で思っている。
特に北バルタでファーンと離れている時は、ファーンの存在が日に日に大きくなっていった。
それを経験しているだけに、この大きな局面に対して、ファーンが当たり前の様に隣にいてくれるのが有り難かった。
『いつか、ちゃんと礼を言わなきゃな』
カシムはファーンと笑いながら、しみじみと思った。




