旅の仲間 ハイエルフ 6
「うむむ。ヒシムはやはり『穴の刑』50年が妥当なようだな」
刑期が増えているが、俺もそれに全面的に同意したい。
「ええ?!パパ、何か罰受けるの?そんなのやだよ!おじちゃんやめてよ!!」
ミルが悲しそうに叫ぶ。だが、いくら何でもそれにたやすく応えるのは里長としては不味いはずだ。少なくとも人間の感覚ではあり得ない。
「いや、ミルちゃん。でもね、それは出来ないんだよ?」
やはりタイアス殿は里長としての規律を重んじる。
俺は胸をなで下ろした。しかし、そうはいかなくなった。
「里長!」
「里長!」
「里長ぁ!」
「さ・と・お・さ!」
「里長ぁ~~~」
「里長っ!!」
「里長!」
周囲の里長に対する、殺意に似た不満の声が、里長を滅多刺しにする。
ええ~~~?!嘘だろ、ハイエルフ。どれだけ初芽に弱いんだ?!確かにコレは秘中の秘だ。もしこんな事が他種族に知れたら大変どころの騒ぎじゃない。ハイエルフの弱点そのものじゃないか。
ついにタイアス殿が咳払いをする。もう俺は知らん。
「うん。おじちゃんが特別にミルちゃんのお願いを叶えてあげよう。パパの罰は全部取り消すからね。おじちゃんがやめさせてあげたよ」
「里長ぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」
ハイエルフ全員の怒りの声が上がる。
「てめぇ!」「この野郎!」「ふざけんな!」「抜け駆けだ!!」と罵声も混じっていたが、それらにいちいち反応できないほどにタイアス殿が攻められていた。
何かすごいな。みんなこんなに、この子を愛して、大事に思っているんだな。
なら、なおさら仲間になんかしちゃいけない。
俺はそう決意を固める。
「でも、ミルちゃん。カシムお兄ちゃんの言うとおり、旅は危険だよ。それにミルちゃんはまだ子どもじゃないか。あと100年待ってからでも良いんじゃないかなぁ?」
うん。何かタイアス殿に「カシムお兄ちゃん」呼ばわりされるのはさすがに無いかな。
いや、見た目はめちゃくちゃ美形な若者にしか見えないけど、ちょっとミルに対する態度を見ていると引く物がある。
・・・・・・…あれ?これってうちの家族が俺に見せる態度に似てないか?俺の全身に鳥肌が立った。とすると、コレはヤバい方向に話が進みそうだ。
「ねえ、おじちゃん!ミルはもう13歳だよ!そんなに子どもじゃ無いんだから!!!」
ミルがプリプリしながら言う。
ええ?!13歳!?
嘘だろ?意外と大きい子じゃないか!
見た目こそ高く見ても10歳程度だが、話し方とか態度とか見ていたら、もっと幼いかと思っていたのに、まさか13歳とは。
これって、膝の上に乗っけていたらマズイ年齢じゃないか!!アクシスと2歳しか違わない。
しかし、タイアス殿たちハイエルフの反応は全く違っていた。
「そんなに子どもじゃ無いんだから」のくだりで、急に目尻を下げ鼻の下を伸ばす。何かガッツポーズする奴までいる。
そして、一瞬の空白の後、タイアス殿が眉間にしわを寄せる。
「さすがはミルちゃん、たいした口撃だ。永遠の初芽にしか成し得ないダメージを我々に与える。・・・・・・だが、それとコレとは話が別だ。里長として、いや!ハイエルフとしてカシム殿の旅に同行する事は認められない!!」
何だかよく分からないが、がんばってくれそうなので、もう俺はタイアス殿に全てを任せる気で、ボンヤリとこのやりとりを聞いていた。
だって、何か俺の中のハイエルフ幻想が、まさしく幻のように消え去ろうとしていた。そのショックが大きい。
「でもおじちゃん!!ミルはね!あたしはねぇ!忍者になるのが夢なの!!それにあたしはカシムお兄ちゃんの事が大好きなの!!!」
そう叫ぶと、ミルは俺に向き直り、いきなり俺に頭突きの様なキスをした。
「!!!!!??????」
俺はパニックだ!俺だけじゃない、周囲もパニックだ!タイアス殿もハイエルフたちもヒシムさんもリラさんも声にならない叫び声を上げている!!
俺は「森の友人」になって1時間も経たずに森の友人に殺される運命だったのか!?
みんながこんなに大事にしている子が、こんな地上人の単なる人間族に、みんなの目の前でキスしたんだ。殺されるに決まっている!!
「だああああああああ!」
俺はあわててミルを全力で引きはがした。
まあ、キスとしては、子ども相手なのでノーカンだ。コレはアクシスにも言える事だが、子ども同士とか、子ども相手はノーカンだ!頭突きまがいで、結構痛かったし!
だが、由々しき事態なのは変わらない!!!何て事をしてくれたんだ!?
ファーンと・・・・・・母親だろうが、ネイルーラさん!何であんたらは「ヒュ~~~~。やっるぅ~~~!」みたいな顔をしているんだよ!!
大勢のハイエルフたちにタコ殴りにされたあげくに、エルフの大森林につれていかれて、廃人になるような恐ろしい目に遭わされたりするのかも知れない。
次の瞬間にも、激しい怒声が俺を襲うに違いないと身構えた。
だが、ハイエルフたちの反応は俺の想像と違っていた。
「そ・・・・・・そうか。ミルちゃん。夢は大切だ。特にミルちゃんの夢はハイエルフ全体の夢と同義」
タイアス殿は表情を厳しいものにした。決意に満ちた力強い目をしている。
「ミルちゃんの夢は我々の夢だ!なあ、皆の者、そうだろう?!」
タイアス殿が大音声で叫ぶと、ハイエルフ全員が姿勢を正して頷く。
『サー・シェイサー!!』
なんでそこでかっこいいハイエルフ語の唱和?もう意味も完璧に分かったよ。「はい、その通り」でしょう?!待ってくれこの流れ。ヤバさしか感じられない。
「では、ミルちゃんをカシム殿の仲間になる事を我ら一同の総意によって認めよう!!」
おい!俺は認めてないよ!何考えているんだよ!!
「これで旅の仲間は揃った!!!!」
何かいきなり宣言した!?
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ハイエルフたちの雄叫び。
勝手に宣言するな!喜ぶな!!
俺は、とても口に出せない叫び声を、頭の中で叫んだ。
もうダメだ。
俺のパーティは2人から一気に4人になった。




