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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十六巻 血と炎と氷の大地
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血と氷と炎の大地  絶望の大地 3

「ウボアァッッ!?」

 突然、数人の戦士が血を吐いて地面に倒れる。冷たく固い地面に、大量の血が吐き出される。

「毒魔法だ!!」

 イェークが警告する。

「グムゥ」

 シスを守る護衛兵たちも胸を押さえる。

「下がれ!広範囲魔法だ!!」

 こんな混戦状況で広範囲の毒魔法を使うとは・・・・・・。

 だが、混戦状況だからこその魔法でもあった。

 高位の範囲魔法は敵味方識別が可能である。

 それ故に、毒魔法でも、味方には被害が出ない。

 

 バタバタと倒れて行くのはリーン軍とゴース軍だった。

 と言うことは、魔法を使ったのはイスケンデル軍だ。

 イェークには毒の攻撃が効いていない。これはシスによる支援魔法による守護のおかげである。個人用の支援魔法なので、護衛兵より強固に状態異常系魔法から守られている。

 

 多くの兵士が倒れた事により、混戦状況の最前線に空間が出来る。

「さすがは『死の大魔女』だ。やることがえげつない」

 決して賞賛では無い声が、イスケンデル軍から響く。

 見れば、屈強な戦士たちに囲まれて、馬上で1人の戦士が不敵に笑う。

 最前線にまで出ていたイスケンデルの恒王レイリィである。「キシャシャシャシャ。あたしは戦士が死ぬのを見るのが大好物なのさ」

 レイリィの斜め後方に紫色の髪をした女がいて、杖を持ち、ニヤニヤと笑っている。

 これがイスケンデルの魔女イーヴァである。

「活きの良い坊やは無事なようだけど・・・・・・」

 魔女イーヴァがイェークを見てニヤリと笑う。続いて、その後ろのシスを見て、舌なめずりをする。

「ヒヨッコの魔女が付いているようだねぇ~」

 そう言うや、すぐに魔法の詠唱を始める。


「クッ!シス!」

 イェークがシスを振り返る。

「ダメよ!」

 即座にシスが首を振りながら後ずさる。それを見て、イェークもイーヴァから距離を取る。

「あいつの魔法が何かは分かるの!多分レベル7の広範囲毒魔法!」

 イェークはギョッとする。それ程高位の魔法だ。

「さっきの魔法より強力!あたしの状態異常魔法防御魔法イヴァ・デュールじゃ防げなさそう!!」

イーヴァの魔法が完成した様子で、イェークより前方にいる兵士たちがバタバタと倒れて行く。そして、イェークの耳に「パキパキ」と、魔法防御が侵食されていく音が聞こえた。

 イェークの全身から汗が噴き出る。

「ヤバい!」

 イェークは全力での逃走に掛かる。魔法の範囲外に出なければならない。

 振り返ると、すでに距離を開けていたはずのシスの護衛兵が数人倒れている。

 イェークは迷わずシスを抱えて、一気に距離を取る。それにより護衛兵も本格的に逃走体勢が取れた。

「キィ~ッシャシャシャシャシャッッ!!逃げろ逃げろ!!じっくり楽しませて貰うよぉ~~!!」

 イェークの後方からイーヴァの狂ったような笑い声が聞こえた。

 


 何とか距離を取って、毒魔法の範囲から逃れた頃には、護衛兵は4人にまで減っていた。

「あいつは毒魔法に特化した魔法使いね」

 シスが悔しそうに言う。

 トリスタンであそこまで特化した魔法使いがいるとは思っていなかった。

 とは言え、トリスタンの外の軍隊では、魔法使いは極端に特化している。

 回復魔法使いは回復に特化しているし、支援魔法使いは支援に特化し、弱体化魔法使いは弱体の一系統に特化している。攻撃魔法使い、探知系魔法使いなどもそれぞれに特化している。それら特化した魔法使いを組織して適切に使う魔法指揮官も、その能力に特化している。(一般的に探知系魔法使いがその任に着く事が多い)

 それとは真逆で冒険者の魔法使いは、万能性が求められる事が多い。

 

 シスは支援系を得意とした万能型魔法使いだった。支援系魔法が得意でも、特化した魔法使いには叶わない。イーヴァ相手では、イェークたちは逃げの一手しかないのだ。

「大魔法が使えないくらいにマナを消費するまでは戦えないわね」

 そう言いながら、シスは残った護衛兵とイェークに個人用の状態異常魔法防御魔法イヴァ・デュールを掛け直す。

 


 混戦地を抜けると、次の混戦地にぶつかる。

 ここはゴース軍の主力がなだれ込んできている地帯だった。

 見れば、精鋭部隊がリーン軍もイスケンデル軍も吹き飛ばしながら、戦場にその地歩を築こうとしていた。

 遠目ながら、巨体の戦士がまとめて数人の兵士を、文字通り吹き飛ばしているのが見えた。

「あれは、ゴースの恒王です!!」

 護衛兵の1人が、驚きの声を上げる。

熊王アユダ・ジスか!?」

 もう1人の護衛兵が叫ぶ。

「あれは無理だ」

 イェークが首を振る。

 遠目に見ただけで、その強さが分かる。確実にレベル30を越えた化け物である。

 イェークは、たまたま化け物クラスの猛者と出会わずにいただけである。

 だが、この戦場にはそうした化け物が少なくない。イスケンデルの恒王もそうした化け物の1人だと、一目見て分かった。




『グオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!』


 突然、戦場の全方位から、凄まじいまでの雄叫びが続けざまに響く。

 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッと盾を鳴らす音も耳をつんざくばかりに轟く。

 その声と音に、戦場で戦う者全てが、一度に動きを止めて周囲を見まわす。


「な、何だと!?」

 イェークは、いや、すべての兵士は驚愕に言葉を失う。


 戦場全てを取り囲む様に、とんでもない数のモンスターの軍団が出現していた。

 どのモンスターも鋼の装備を身に纏っており、確実に統制の取れた動きをしている。

 つまりは複数のロード種によってコントロールされたモンスター軍隊だと言う事である。

 パッと見ただけで、ゴブリン、コボルト、トロル、オーク、ハーピィ、そして、ゴブリンライダーもいる。

 整然と並んで布陣して、人間たちの戦場を完全包囲している。

 

 その数、およそ5万。人間族の全戦力を凌駕しているのだ。


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