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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十六巻 血と炎と氷の大地
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血と氷と炎の大地  トリスタンの女 1

 イェークたちがルヴァに帰還したのは、1月8日だった。

 街に戻ると、まだ緑竜の災害による復興の工事が至るところでされていたが、その一方で街には飾りがされており、何かの祭りでもあるかのような雰囲気だった。

 

「新年祝いをまだやってるのか?」

 街の復興の最中だというのに暢気な事だとイェークは思った。

「・・・・・・いや。多分違うぞ、イェーク」

 ショットが低い声で耳打ちする。

「私たちの戦勝祝い・・・・・・ではなさそうですね」

 セイスが複雑な表情をする。戦勝祝いなら、帰還した時にもっと派手に祝ってくれるはずだし、人々も笑顔が見られるはずだ。

 だが、人々の表情は様々だ。嬉しそうにしている者もいれば、暗い顔をしている人も少なくない。怒ったような顔をする人までもいる。


「あっ!」

 叫んだのはバズだった。バズが見ている方に視線を送る。

 すると館の方に大きな旗が翻っている。赤一色の旗である。

 トリスタンで、この旗が意味するのは吉事。一般的に結婚の祝いを意味している。

「まさか!?」

 イェークが叫んだ。そして、馬を飛び降りると、ショットが止めるのも聞かずに館へ走る。

 


 館の門前で、門番に止められたが、イェークは問答無用で押し通った。

 ブーツを脱がずに、土足でズカズカと廊下を進み、大殿の居る本殿に急ぐ。

 だが、本殿に到着する前に、中庭に面した一室にシスや大殿であるヤード。そして、羽入はいりたちに混じってビュトーの姿もあった。

 そして、異様な光景だったのが、中庭に、1人の老人が後ろ手に縛られて座らされている事だ。

 その老人の左右と背後に屈強な男たちが、武器を持って立っている。

 ギョッとしたイェークは、その部屋に踏み込んだ。部屋を警護する戦士を突き飛ばして、部屋に入る。


「シス!!何がどうなっている!?これは何だ?!」

 イェークが怒鳴ると、シスが驚きと共に、苦々しい表情をしてため息を付く。

「痴れ者が!!」

 ヤードが怒鳴る。同時にビュトーが立ち上がって、慌ててイェークをなだめに入る。

「イェーク殿。お早いお戻り、ご無事で良かった。恐らくは戦勝凱旋なのでございましょう。おめでとうございます」

 だが、イェークは労って欲しくも、祝って欲しくも無かった。

「そうじゃない!何がどうなっているのか説明しろ!!」

 イェークが怒鳴る。イェークを止めようと戦士が詰め寄ってくるが、イェークの一睨みで足が止まる。戦帰りのイェークは、完全武装状態である。

「貴様、下士の分際で!礼を弁えろ!!」

 羽入が怒鳴る。だが、イェークはまったく引かない。

「俺はシスの下士だ!!貴様等の命令など聞かん!!」

 そう言うと、羽入たちがイェークを馬鹿にしたように笑う。

「であれば尚の事礼を弁えろ!!ヤード大殿とシス殿の婚姻の儀は済んでおる!シス殿の下士ならば大殿の下士も同然!更に言えば、我等羽入の配下に過ぎぬのだ!!分を弁えろ!!」

 羽入の言葉に、イェークは目眩を覚えた。耳に入った言葉に意味は理解出来た。言葉は分かったのだが、その内容と状況が理解出来ない。


 絶句するイェークに、シスが面倒くさそうに言う。

「あたし、ヤードとの結婚は了承したわよね?それを知っているイェークが何で今更驚いてるの?」

 シスが当然の様に言う。それがまた信じられない。

 そして、シスはと言えば、今はいつもの魔法使いの黒いマント姿では無い。白いトリスタンの女が着るドレスを身に纏っている。そして、髪型も、燃えるような赤毛を大きな一房の三つ編みで編み、髪にもトリスタンの装飾品を身に付けている。

 更に言えば、額には魔女の証として、瞳を模した化粧している。

 

「・・・・・・何で、なんだ?」

 イェークの膝が震え、喉が締め付けられるような気分になる。ようやく絞り出した言葉がそれだった。

「イ、イェーク殿。わたくしが説明致しますから、今はお下がり下さい」

 ビュトーが何とか穏便に済ませようとイェークに言う。

「黙れ!!俺はシスに聞いているんだ!!!」

 イェークが軽くビュトーを押すと、それだけで体の弱いビョトーはよろけて倒れてしまう。

 それを横目に、罪悪感を感じつつも無視する。

 

「貴様。あの男に代わって、貴様を処刑しても良いのだぞ!」

 ヤードがイライラした様子で怒鳴る。

「処刑?あの男は誰だ?!」

「ウーズ・レンデン。我がリーン家の元下士である」

 ヤードがつまらなそうに答える。

 その返答にイェークは驚愕した。同時にこれまでの点が線に繋がったような気がした。


 ウーズ・レンデン。

 8年前にアーシュの地を治めていた殿である。そして、シスのマイアン家が仕えていた上士である。

 ウーズ・レンデンは、重要な土地となったルヴァを手中に収めるために、マイアン家を騙して、ルヴァに攻め込み、マイアン家に準ずる130名の戦士を皆殺しにし、その家族までも処刑した、シスやイェークにとっての仇である。

 イェークは、今となっては恨みは薄らいでいたが、シスは違った。今もウーズに激しい憎しみを抱き、復讐の機会を狙っていたのだと、つい最近になって知ったばかりだ。

 それで結婚を了承したのか?!ウーズの処刑と引き替えに・・・・・・。


「よせ・・・・・・。よすんだ」

 イェークは小さく呟いた。

「はぁ?!」

 シスがイライラした声で聞き返す。

「こんな・・・・・・こんな事して何になる?!復讐なんて馬鹿げている!!しかも権力にすり寄って処刑させるなんて、あまりに卑怯じゃ無いか!!?」

 イェークは泣き出したい気持ちを堪えて叫ぶ。シスがそんな事を提案するだなんて信じられなかった。

 ずっと一緒に居た。生まれた時から側に居た。だから、シスの事は何でもわかっているつもりだった。

 だが、今はシスが何を考えているのかまったく分からない。シスが遥か遠くに行ってしまったような気がする。


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