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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十六巻 血と炎と氷の大地
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血と氷と炎の大地  悪夢の尖兵 2

 ヨジョ領は今やイスケンデル恒王国の一領地となっていた。

 だが、そのヨジョ領のリーン国近くにある、ロロヴァ村で惨劇が起こっていた。

 ロロヴァ村は、緑竜の炎の爆風で、ほぼ壊滅状態になっていて、辛うじて一部形を保っている家に、生き残った十数人ほどの村人が寄り添って救援がくるのを待っていた。

 だが、やって来たのは救援では無かった。

 薄く青みがかった白髪に、は虫類のように感情の乏しい緑の目。顔には斜めに大きな傷が有り、感情の無い目に反比例して歪めた笑みを浮かべた口。

 イスケンデルの将ガビルである。

 ガビルの部下は二百人。


 ガビルは生き残りの村人を見ると、全員捕らえて、女は年齢に拘わらず強姦した。

 男も、比較的若い男は犯され、更に激しい拷問をする。

 赤子は火に放り食べる。

 そして、生き残り全員を、意味の無い、ただの凶気的な快楽の為だけに激しい拷問を続けて、飽きたら殺す。

 そして、殺した死体を丁寧に並べて飾って笑った。


 ガビルは残忍な将である。実力があるので、イスケンデルのレイリィ恒王も処断出来ない。


「面白ぇもん見つけて遊び過ぎちまった」

 ふとガビルはレイリィ恒王からの命令を思い出した。

「この近くに他にも村があるそうですが?」

 血に酔った部下が告げる。

 すると、ガビルは一瞬迷う。だが、ここで首を振った。

「それも良いが、リーンに行って、元気な奴等を探そう」

「竜の開けた穴を抜ければリーンですね」

 部下たちがニヤニヤ笑う。

「そうだ!適当な村や街を襲って楽しめば良い!!」

 レイリィ恒王から与えられた命令は、本隊が到着するまで、竜の開けた穴の周辺を抑えておく事だった。

 だが、ガビルは違う解釈をしていた。

「俺たちはともかく一番先にリーンに入れば良い。後は本隊が勝手にする。穴の出口で本隊の連中がモタモタしている間に、俺たちは好き放題に略奪を楽しめばいい!!」

 ガビルは「ヒャ~~ハッハッハッ!!」と甲高い笑い声を上げる。目は笑っていない。

「え?じゃあ、急がないと、リーンの奴等が穴の出口を固めちまいますぜ?!」

 誰かが叫ぶ。

 その言葉にガビルはギョッとする。

「おお!その通りだ!!真面目な戦争なんかしてられねぇ!!野郎ども!!さっさと出発するぞ!!」

 そう言うと、ガビルは数騎の騎馬を伴い、歩兵の部下を置いてさっさと南の、リーン国側に大口を開けている山脈崩壊部に向かって走る。

「ひでぇ!!てめぇら、置いてかれるな!!」

 部下たちも叫んで全力で走ってガビルの後を追う。



◇    ◇



 ショットは優秀な将と言えた。

 トリスタンで二番目に広い平地である事を利用して、騎馬を用いた高機動戦を行っているのだ。

 トリスタンでの馬は、人員や兵站の運搬。そして、戦闘時の乗り物として活用している。だが、平地の多い他国では、機動力を戦術や戦略に生かす事が考案されている。

 だが、実際に戦場で高機動戦を実戦する事は難しいとされる。

 ショットは、トリスタンの常識を破って、高機動戦略を実戦しているのだ。

 この戦略、戦術の妙について、ただの冒険者だったイェークは分かっていない。作戦はショットに完全に任せている。自分は戦闘でのみ力を発揮すれば良いと思っている。

 そもそも、シスが同行しない事で、すでに自分で考える事を放棄してしまった。

 今のイェークは、もはや冒険者では無く、ただの兵士になっていた。その変化に、自身も気付いていない。状況に流されてしまっているのだ。


 イェークたちが、先行していた部隊に追いついたのは、騎馬で追いかけてから二日後の事だった。目前には、すでに崩壊した山脈の開口部がある。

 竜の息吹の通り道となった、西に一直線に伸びる盛り上がりに沿う形で、仮設の砦が急ピッチで作られている。

 周辺の戦士や工家の者たち、農家の者たちまで駆り出されて、一万人ほどもが作業している。

 恐らく、溝の南側でも、同じような作業が行われている事だろう。


 前方を見ると、いくつもの小隊が先陣を組んで待機している。

 盛り上がりの上にもいくつもの部隊が見える。恐らくは溝の中にも、多くの戦力が配置されているのだろう。

 戦闘が起こっていない様子なので、イスケンデルの速度は想定したよりも遅いのかも知れない。


「ここの指揮官は誰だ?」

 ショットが不機嫌そうに呻る。イェークも、他の誰も、その答えを知らない。

 自軍が掲げている、黄色地に四角と丸が組み合わされた模様の旗を見た現地の軍隊長らしき男がイェーク達に駈け寄ると、戦士の礼をする。

 イェークとショットも返礼を返す。

「アーシュの方々には、最前線に行って頂く。我等が砦を完成させ、本国からの援軍本隊が到着するまで、防衛に当たって頂きたい」

 ショットが頷く。

「心得た」


 

 イェークたちアーシュ軍はいよいよ崩壊した山の壁に差し掛かる。

「チッ!やっぱりだ」

 ショットが舌打ちするや、手を挙げる。

 イェークがハッとして大声で叫ぶ。

「敵だ!!戦闘準備せよ!!」

「上から来るぞ!!盾構え!!」

 ショットの指示に、全員が左手の切り立った山を見上げる。

 すぐに指示に従えず、思わずそっちを見上げてしまう辺り、未熟な新兵たちである。

 今にも崩壊しそうな崖の上から、大量の矢が降ってきた。

「うわあああああっっ!!」

「ぎゃあああああっっ!!」

 盾を構えず棒立ちになっていた新兵たちが、次々矢に射られて地面に崩折れていく。

 それから、ようやくアーシュ軍は盾を構えた。


「イスケンデルか!?」

 イェークが怒鳴る。それ以外に考えられないので、間の抜けた質問である。

「この周辺には、多くのリーン国兵が配置されている!諦めて投降しろ!!」

 イェークの叫びの後、しばらくしてから、返答の代わりに、大きな丸い物がいくつか投げ落とされた。

 盾にぶつかったその物は、人間の頭だった。

 しかも、耳、目、鼻が削がれていたり、顔面の皮がはがされたりしている。

 そのあまりの様子に、嘔吐する新兵もいた。

「何のつもりだ!?」

 イェークが叫ぶと、ようやく崖の上から返答があった。


「キャンキャンと吠えるな、小僧!」

 崖の上に姿を見せたのは、感情の窺えない目をした男である。

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