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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十六巻 血と炎と氷の大地
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血と氷と炎の大地  アーシュ軍出陣 4

 ゴースの兵たちが丘を登りきり、眼下の竜の息吹が通った跡を見て、更に愕然とする。

 二段に掘られた溝には、雪が積もっていた。特に下段にはより多くの雪が積もっていて、斜面を滑って更に雪が溜まっていく。

 雪になれたトリスタン人でも、このツルツル滑る地面に積もった雪は危険である。

 規模が小さい雪崩が頻発する。規模的には、ちょっと煩わしい程度かも知れないが、軍としての纏まった行動はここでは取れない。更に、この溝を通過する際は、完全な無防備になってしまう。

 上から矢を雨の様に降らされたら為す術も無い。


「だが、かねばならぬ」

 この一軍を率いる将が号令をかける。

 静かに、慎重に、そして、敵にも雪にも警戒を怠る事無く、一軍は時間をかけて、大きな溝を通過する事に成功した。


「何とかなりましたな」

 副将が将にため息を吐きながら言う。

「ここで仕掛けてくるかと思っていたが、どうやらリーンの奴等の被害は、我等の想定以上に深刻だったようだな」

 将も大きく息を吐き出す。

 そして、更地になった進軍ルートを眺める。

 見える限り、敵影は見えない。

「しばらくは戦闘はなさそうだ。だが、こうも見通しが良いと言う事は、敵にも我等の姿は発見されやすいと言う事だ」

「ですな。むしろ、我等は軍団。敵は索敵兵1人で事足りるのですから、こちらが一方的に発見される可能性の方が高いですな」

 副将の言葉に将は頷く。

「では、一刻も早く、先に見える丘まで向かわねばならんな」

 そこまで行けば周囲から視線を遮る木々の被害も無いようだ。

 ただ、敵兵が隠れているとしたら、丘の上辺りだろう。だが、来ると分かっており警戒を怠らなければ、奇襲など成功しない。



 ゴースの軍は、纏まった形で丘に至り、北に形を変えたオッド山、バイ山を見晴るかすところまで到着した。

 ルヴァ平野にまで到達したのだ。

 結局、ここまで警戒していた敵の奇襲は無かった。

「となると、アーシュの境辺りに陣を敷いて防衛の体勢を整えているのか、それとも、我等の事は念頭にも無く、東のイスケンデルの侵攻を防ぐべく戦力をそっちに振ったか・・・・・・」

 将が考える。

「なぁに、ドルトン様。こうなれば、主上のおっしゃる通り、我等でルヴァを占領、もしくは、破壊してしまえばよろしいではありませんか」

 そんな事を話しながら歩を進めると、前方の斥候から報告が届く。

「どうやら、楽には行かぬようだな」

 ドルトン将軍はニヤリと笑う。



 鉤状に突き出たオッド山の裾を抜けたところに、ルヴァの陣が張ってあった。

 すでに戦闘態勢で、僅かな高みからゴース軍を見下ろしている。

 折しも雪が降り、時刻も夕暮れ近いため、暗くて敵の陣容ははっきりとは見えないが、その数はゴース軍同等の五百は居そうだった。

 

「あれほどの戦力があったのか?!」

 ドルトン将軍は驚く。

虚仮威こけおどしでしょう!」

 副将が意気を吐く。猪突なところはあるが、剛胆な男である。

「ともあれ、こっちも陣を敷くぞ!『トライデント』!!」

 ドルトン将軍の敷いた布陣は三叉の槍の形をしていた。短期決着を図る、攻撃的な陣形である。


 すると、敵側から1人の兵士が進み出てきた。

「名乗りか・・・・・・」

 トリスタンの戦は、互いに布陣した状態で向かい合えば、名乗り合いをする事が通例だ。正々堂々とした名乗り合いもあれば、互いに挑発し合う名乗り合いもある。


 敵兵は、雪に音を吸い取られないぐらいの大音声で名乗り上げを行った。

「雪の中、わざわざアーシュの地までよくぞおいで下さった、ゴースのなにがし将軍とその軍団の勇者たちよ!!!」

 声はとても若い。

「ですが、こちらは招待状をお送りしておりませんゆえ、即座に自国にお帰り願いたい!時期が来ましたら、正式に招待状を差し上げまする!!」

 この調子は、まず間違いなくこちらを挑発する名乗りだ。そうなると、名乗り返しには誰を推挙するか。

 ドルトン将軍はそんな事を考える。副将だと、そのまま敵に躍りかかりそうだ。


「それでも、お帰り頂けぬのなら、こちらの英雄『雷神ボルダ・ジッズ』イェーク様と、『死のノ・ルダー』ショット様が、生ある世界からの強制退去をさせますぞ!!」

 敵兵は、先の戦いで名を上げたイェークに付いたトリスタン語の異名を高らかに叫ぶ。

「ぬう・・・・・・。『雷神ボルダ・ジッズ』とは、大きく出たな。・・・・・・しかし『死のノ・ルダー』とは誰だ?」

 ショットの名は、敵兵に知れ渡っていない。誰もが首を傾げる。

「さて、ではこちらの返礼は・・・・・・。インズ!」

 呼ばれてこちらも若い部隊長が進み出る。


「実に有り難い言葉に、感謝に堪えぬ!」

 進み出たインズは、同じく雪に負けじと大音声を張り出す。

「先日はそちらの『雷小僧ボルドラ・ロ・オッズ』様の手妻てづま(手品)にはちとたまげた!しかし、二度目となるといささか飽きると危惧していたところだ。然るに、そちらは二品目の手妻遣いをご用意下さったとの事、大変痛み入る!しかし、『愛するノウル・ダーなにがし様とは、とんと聞いた事が無いお名前故に、ご無理は禁物とだけ忠告しておきます」

 この返答には、ゴースの軍団全員が大笑いする。

「上手いもんだ。あいつ、戦士で無くても喰っていけるぞ」

 ドルトン将軍は上機嫌になる。

 更に、インズが声を張り上げる。


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