旅の仲間 ハイエルフ 4
「で、でも本当に危険ですよ。命を落とす可能性の方が遥かに高い旅です」
俺はこんな危険な事に、この人を巻き込んだりしたくない。
「大丈夫です。カシムさんなら大丈夫です!今回も乗り切りました。私の勘は当たります」
「今回はたまたま運が良かっただけです」
リラさんの真剣さは伝わるが、勘だけじゃ根拠にも、同行する理由にも乏しすぎる。
「それでも・・・・・・。私は・・・・・・カシムさんと一緒に行きたいんです・・・・・・」
何故だろう?何だか必死だ。
「なんでそこまで?」
俺がそう言うと、瞬間的にリラさんの顔が赤くなる。
「そ、その・・・・・・。私の夢の為です!私の夢は沢山の唄を集める事です。物語を集めたいんです。でも一番の夢は新しい物語を見つける事です!それはあなたと一緒に旅をする事で叶うのです!」
何て壮大な事を言うのだろうか。壮大で純粋で汚れのない夢。赤面する事なんてない。とても立派な夢じゃないか!
俺はリラさんの夢に感動する。タイアス殿も頷いて聞いている。
「・・・・・・そう言ってくれるけど、俺と一緒にいたからってそんなすごい事は起こらないと思いますよ」
俺は自分を過小評価しているつもりはないけど、周囲みたいに過大評価はしない。謙虚すぎるのも問題だが、傲慢な人間にはなりたくない。
「正しく俺を見て欲しい」とは言わない。そう言うこと自体が傲慢になる。
ただ、適切なものさしで俺を計って欲しい。
だが、周囲の人々はみんなぽかんと口を開けて、俺を呆れた目で見ている。
「カシムって、ほんっとうに時々バカな」
ファーンが心底呆れたように俺に言う。やっと発言したかと思えば「バカ」呼ばわりか。
ファーンが続ける。
「お前が今日やった事は、正に新しい物語そのものだろうが。誰が、ハイエルフたちが人間如きに頭を下げて礼を言う瞬間を、想像できるって言うんだよ。むしろ、誰かに話しても、誰一人として信じやしないレベルだっての」
言われて確かに、俺もあの時に「物語の中に入った」と錯覚したのを思い出す。あんな光景に出会うとは、これまで一度も想像した事がなかった。
万一想像したとしても、それは自分ではなくどこかの誰かであったり、昔の英雄たちが主役だっただろう。
「・・・・・・そう・・・・・・か」
思わずつぶやくと同時に、何だか無性に嬉しくなってきた。
俺が今日成し遂げた事が実感できた。
助けられなかった人もいたが、俺の膝の上でニコニコしているこの少女のように、助けられた命もある。
多くの人や、絶対に出会う事はなかったであろうハイエルフたちにも感謝されている。
俺はちゃんと誰かの為に戦えたのだ。ペンダートンの騎士だったのだ。俺が憧れた祖父の様に、人々の助けになったのだ。
歓喜と興奮が俺の体の中心を満たしていき思わず震える。すると、俺の膝の上のミルがニコニコして俺の頭をなでる。
「お兄ちゃんはみんなの英雄なんだね!」
俺が?英雄?
そんなんじゃない。さすがにそれは分かる。だけど、少しは誇って良いのかな?ほんの少しは・・・・・・。
俺が無言で考え込んでいると、タイアス殿が苦笑する。
「カシム殿。それではこうしよう。せめてもの恩返しに我々は君に『森の友人』の名を与えよう。これは君の助けになる。君が我々に助けを求める事があったなら、全てのハイエルフが君の為に力を貸そう」
とんでもない発言が飛び出した。
俺に初めての異名が、いや、称号が付いた。
しかもハイエルフの里長から戴いた称号だ。
「価値」とか言ったら畏れ多いのかもしれないが、その価値はとんでもなく高い。人々に呼ばれる通り名ではなく、正式な称号だ。
俺は即座に跪こうとしたが、膝に乗せているミルをどけるわけにも行かず、その場で頭を下げる。
「このままの姿勢でいる無礼をお許しください。ミルがどいてくれると良いのですが・・・・・・」
「ああ。気にしないでくれ給え。本来は確かに正式な礼をお互いにとるべきなのだろうが、なんと言ってもミルちゃんがそこにいるのでは仕方がない。略式で構わんよ」
それでいいんだ、とは思ったが、頭を下げて「有り難く」と言って「森の友人」という称号を戴いた。
タイアス殿は満足そうに頷くと、周囲のハイエルフが皆、指を額にかざすハイエルフ式の敬礼をする。
『ハイ・シェレスター!!レダ・カシム・イェン!!』
かっこいいな。意味は分からないが、エルフ語で「おめでとう」とでも言ったのだろう。
ファーンとリラさんも、ハイエルフたちも拍手で祝福してくれる。
「それでは、ファーン殿。あなたにも礼をしなくてはいけないな。あなたは何か望みはないのかな?」
そう言われるとファーンは気まずそうに顔をしかめたが、少し考えてから小さい声で言った。
「オレ・・・・・・じゃなくて、わ、私はカシムと一緒に旅を続けたいのですが・・・・・・。その、今はまだ足手まといにしかなってないから、戦闘以外で役に立てるようになりたいんだ・・・・・・です」
なんだ。気にしていたのか。何かきつい事とか言っちゃってた気がする。反省しよう。
するとタイアス殿が少し考える。
「ふむ。あなたもカシム殿のように自分を過小評価しておいでだ。あなたは充分カシム殿の役に立っているように見えるがね」
俺はタイアス殿の言葉に頷く。
「そうだ、ファーン。俺はお前に沢山の事を教えてもらっているし、助けられている。さっきも言ったじゃないか」
すると、ファーンは心底嬉しそうに顔を赤らめて笑顔を浮かべる。
「オレ、そんな風に仲間に言われたのって初めてだ!!」
ハーフながらさすがにエルフだ。ファーンなのに妙に可愛く見えてしまう。顔が良いって得だな。
「だが、そうだな。あなたにはハイエルフの希少な宝、『月視の背嚢』を与えよう。この『月視の背嚢』はとても小さく軽い背負い袋なんだが、見た目よりも遥かに物を入れられるし、軽く持ち運ぶ事が出来る。今日も救援物資を運ぶ為にちょうど持ってきている。旅をするならとても便利だ」
おお。噂で聞いた事がある。魔法道具の中でも冒険者が一番欲しがるアイテムで、飛び出た目玉を必死で探さなければいけないほど高価な魔法道具だ。ハイエルフ製となるとどの位の価値になるのやら。




