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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十六巻 血と炎と氷の大地
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血と氷と炎の大地  竜の息吹 6

『何だ、この状況は?何もかもが絶望的じゃ無いか・・・・・・』

 イェークは、今すぐにでもシスの手を引いてトリスタンを出たかった。

 しかし、東と南から敵が迫る。特に南には、イェークたちの顔が知られてしまっている。東に逃げるには、王都グリンジャを通らなければならない。もしくは、土砂崩れを起こしまくって危険な状態となっているバイ山、オッド山などの深い山を越えて行くしかない。

「逃げれないわよ。・・・・・・逃げないし」

 シスが不機嫌そうに言う。

「なんで?!」

 イェークが立ち上がって、叫び掛けた時、ドアがノックされる。

「お食事お持ちしました」

 クインティーが食事を持ってきたのだ。

 立ったついでにイェークがドアを開けると、両手にお盆を持ってクインティーが立っていた。

 食べ応えのありそうなたっぷりの食事と、酒とグラスがお盆に乗っていた。

「ありがとう、クインティー」

 重そうなので、イェークが1つ受け取ると、クインティーは驚いた表情をする。

『ああ。そう言えば、トリスタンはそう言う国だったっけ』

 イェークはどこか嬉しそうにニコニコする少女を見て、うんざりしたようにため息を付く。

 下働きの者は、半人前以下。ましてはハーフエルフで女だ。身分が上の者に優しくされたことなんか無かったんだろうと、容易に想像が付く。


 クインティーはお盆から、更に細かく食べ物を3人に分けていく。

 イェークには大盛りの食事。シスにもしっかりとした食事で、シスが嫌いな食材が入っていない物。ビュトーには、軽くつまみを。

 そして、3人に酒を注ぐ。


「君も食べるかい?」

 細々《こまごま》と働くクインティーに悪い気がして、イェークが言う。

「馬鹿」

 シスが呟く。

 クインティーは真っ赤になって首を振る。

「い、いえいえ!そんな、滅相もございません!!」

 そう言うと慌ててお辞儀をして部屋から出て行った。

「あんなに嫌がらなくっても良いのにな」

 トリスタンの風習は分かるが、少なくともイェークは気にしないように接しているのだから、そろそろ慣れて貰いたい。

「イェークは熟女好きだからね~」

 シスが呟くも、それはイェークの耳には届かなかった。

 少しでも同年代の女の子に興味が向いていれば、クインティーの思いくらいは気付けたはずだ。完全に恋する目でイェークを見つめていた。

 かといって、シスの言う「熟女好き」は多分に悪意が込められていた。イェークが好む年齢は5歳程度年上が多いと言うだけである。一度だけ15歳年上の酒場の奥さんに片思いをして、冗談かとあしらわれた事があっただけである。



 ビュトーが咳払いをする。

「あ~~。続きを良いでしょうか?」

 言われてイェークがハッとして、食事を取りながら、再び地図に目を向ける。


「簡単に説明しますと、リーン国はもちろんですが、何よりもこのルヴァの街含めてアーシュの地は存亡の危機に立たされている訳です。その為にも、今すぐ兵力をまとめて先手を打たなければならなくなったのです。攻めるにせよ、守るにせよ、迅速にです」

「そんな兵力はルヴァにはないだろ?!」

 あの惨劇で160名ほどの戦力を失ったのだ。街に残った戦士で命を落とした者もいる。

「ですが、それでも兵力を捻出しなければ、ルヴァは滅びます」

 確かにビュトーの言うように、今は最大の危機と言える。

「リーン本国からの援軍はあるのか?」

 「本国」と表現したが、本来の使い方としては、ルヴァのあるアーシュの地も、今はリーン国に取り込まれているので「本国」である。だが、トリスタンでは、王都などの主人が本拠と決めている地方を「本国」と呼んだ。

 現在のリーン国の王都はルヴァの北にあるグリンジャだ。

「無論来ますが、本国としても各方面に戦力を出さねばならない状況らしく、来ても数百程度だそうです」

 イェークは渋面を作りながらも納得する。

「今、羽入連中が必死になって、各地方にも連絡をして、援軍を要請しているそうですが、こうなると、リーンを捨てて、他に付く領主も出て来そうです」

 これも納得する。トリスタンでは、旗色が悪くなると主を鞍替えすることも珍しくない。無論、美徳とは思われていないが・・・・・・。

 ルヴァはそれが出来ない。ルヴァの大殿は、リーン家の息子だからである。

 不可能では無いが、この地から逃げ出す事はするかも知れないが、他国に降る事は、あの大殿ではしそうにない。


「問題はどっちに、どう動くかです」

 つまり、南のゴース恒王国か、東のイスケンデル恒王国か。そして、防衛か、攻撃に出るかである。とてもでは無いが、両方に戦力を割く事は出来ない。

 ビュトーの考えている通りに羽入たちが決定したとしても、その行動は迅速で、片方に何らかのアクションを示した後、急速転換して、もう一方に向かわなければならない。

 最初にアクションを仕掛けるのは牽制で、主戦場は、次に向かう方になる。


「・・・・・・南か」

 イェークが呟くと、ビュトーはまるで生徒を見るような眼でイェークに微笑み「正解です」と言った。


「羽入たちの決断待ちではありますが、今は勢いのあるイスケンデルがリーン国に侵入してくることを防ぐのが、最重要でしょう。また、侵入経路も緑竜の炎の跡からと、確実に分かるのです。そこを抑えて、その間に砦を作れば良いのです」

 イスケンデル恒王国にとって、リーン国は南北に勢力を伸ばしていくためにも、是非とも欲しい地なはずである。

 特にルヴァは、広い平野を開拓して、大穀倉地となっている。今回の惨劇で、作物は全て壊滅してしまい、田畑の被害も賛嘆たる物だが、田畑はもう一度作れば良い。


 ゴース恒王国は、昨日の復讐戦こそ臨むとしても、リーン国と本格的な戦争状態となると、南東からも触手を伸ばしているイスケンデル恒王国に備えることが充分に出来なくなる。

 実はゴース恒王国は、今回の惨劇で難しい決断を迫られていたのだ。

 ゴース恒王国で、防御を固めて、イスケンデル恒王国の侵攻に耐える。イスケンデルの勢いが一時的な物ならば、いずれイスケンデルは自ら崩壊する。それまで耐えれば、戦力を温存し、一気に他のナントの地を手中に収めて、真なる恒王国になれるだろう。

 もう一方の決断としては、イスケンデルにリーン国を渡すくらいならば、かなりの大兵力を投入してでも、リーン国を、特にルヴァのあるアーシュの地を手に入れる。

 これは、イスケンデルがアーシュを手に入れれば、兵站の憂い無く、今の勢いを更に拡大させていく危険性があるからである。

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