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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十六巻 血と炎と氷の大地
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血と氷と炎の大地  竜の息吹 1

 戦場に到着したイェークたちルヴァ衆は、他の地域の兵士たちと合流して、全部で約1500の兵力となった。

 戦場は、南の恒王国であるゴースと、リーン国との境である川が複数流れる平地だった。

 平地と行っても、その幅は狭いので、窪地のようでもある。トリスタン地方では珍しくない地形だ。

 少なくとも陣を敷いて、正面から戦う地形では無い。

 さして広くなく深くもないが、面倒な程度には流れの速い川を挟んで、両軍が幅広く伸びて各所で戦いが繰り広げられている。アーシュ地方のルヴァ衆は、上流側を戦場に割り当てられた。



「俺たちは、独立部隊として、これから本陣を離れる」

 イェークは割り当てられた戦場に到着する前に、静かに他部隊から離れた。


「トリスタンは、独特な地形のために、軍の規模は多く出来ないし、あまり多くても遊兵が出来てしまう。だから一部隊の人数が200人程度な場合が多い」

 イェークが話す。その通りで、200人単位で動く事がほとんどで、よほど地形的に開けた場所で無ければ、全軍で陣を敷いて戦う事は無い。

 もっとも、この200人単位を決定的にトリスタンに叩き込んだのは、幼い頃のジーン・ペンダートンだった。今ではトリスタンの裏切り者として疎まれているが、その戦法はトリスタンの常識となっていた。

「だけど、冒険者にしてみれば、大軍を相手にしなくてすむので、各個撃破しやすくなる」

 イェークの語る内容は、「言うは易し」その物だ。それが可能なら、トリスタンの戦士たちでもとっくにそうしている。


 だが、結果はすぐに出た。

 イェークの編成した2パーティーは、それぞれ絶妙な立ち回りをした。

 

 イェークたちは密かに戦列を離れて上流へ進み、最も警戒の薄い渡河ポイントを発見すると、素早く川を渡り、さらに遠回りして敵軍の背後に回った。

 そして、コルダーのいる第2パーティーが次々罠を仕掛けて、第1パーティーが敵背後に迫る。


 第1パーティーが敵を攻撃しては逃げ隠れを繰り返して、第2パーティーが張り巡らせた罠の中に誘い込む。

 そうして、少数ずつを撃破しては逃げ、撃破しては隠れ、1人ずつでも数を減らしていく。

 相手が疲れを見せたところに、シスが精神魔法を放つ。

 そしてとどめを刺す。

 攻撃が厳しいと思ったら、一目散に逃げ隠れする。

 功績を焦らずに、適当に一部隊の戦力を削いだら、次の戦場に勝手に移動する。


 それを繰り返した。

 時にはバルタスが、狩人の経験を生かして、山から魔獣を誘導して敵兵力に向かわせたりもしたし、セイスが敵陣に潜入して、何食わぬ顔で味方の振りをして偽の情報を与えたりした。

 

 どの作戦も、深追いせず、無理せず、逃げてでも生きのびる事を優先して、それぞれが得意な事を自ら考えて提案して、実戦していった。

 それぞれの強みを生かす方法は、山で学んでいた。


 各個人の強さが、特訓前と大きく変わっている訳では無い。恐らくまともに敵兵と戦ったら、イェークとシス抜きでは勝利は難しかっただろうし、味方に死者も出ただろう。

 

 だが、戦い方1つで、彼らは実力以上の成果を出した。

 戦い自体は、ほとんどがイェークの戦闘力とシスの魔法が決め手になったが、それまでの道筋を全員で作ったのだ。

 

 ヤップ川の戦い第3陣において、イェークたちの戦果は多大だった。

 元々の領土を、ゴース恒王国に一部奪われていたのに、今回の戦いで、盛り返して、あまつさえ敵の領土を一部奪う形で終了した。

 勢力の盛んなゴースに土を付けたのである。




 イェークたちアーシュ地方のルヴァ衆の帰路は、意気揚々だった。

 正に大手を振って大騒ぎしながらルヴァの街に帰ってきた。


 いや。

 帰ってくる直前だった、それが起こったのは。




「それにしてもイェークさん、メッチャクチャ強かったですね!」

 何度目になるのか、最年少のクリットが、興奮冷めやらぬ様子で下士仲間と話す。

「俺は、シス様の魔法に驚いた。あんなに魔法って便利なのか」

 呟いたのは、最年長のコルダーである。

「いくら作業しても全然疲れなかった」

 コルダーは持ち前の技術力で、パーティーメンバーに指示を出しながら多くの罠を作った。

「確かに、支援魔法の有り難さを知ったねぇ」

 実戦経験もあるバズが口の傷跡を触る。格好つける時のクセのようだ。ただ、何故今、格好つけるのかが分からない。さらに、そのクセもさほど格好良くないのだからもの悲しい。

「俺も、帰ったらイェークさんやゼッツみたいに髪を切ろうかなぁ~」

 切実にモテたいメンバーのロドスが呻る。

「兄さん。せっかくそこまで伸ばしたのに・・・・・・」

 弟のギドが呆れたように首を振る。ギドは顔が良いので、どんな髪型でも似合ってしまう。

 そんな話しに花を咲かせていると、行く手にそびえる、故郷のルヴァの街の西にそびえるオッド山が赤く輝く。

 時刻は15時半。この時期のトリスタンでは夕刻の地域もある。

 天気が良いので、空が赤く染まったのだろうと、イェークは西の空を仰ぎ見た。

 しかし、西の空にはまだ太陽が高く、あと一時間は沈みそうに無い位置に輝いている。

「違う!東だ!!」

 普段無口なバルタスが、鋭い目を東の彼方に向ける。


 そして、誰もが唖然とした。


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