血と氷と炎の大地 出陣 4
下士たちはきっちり整列して、緊張した面持ちで待機していた。
寒い屋外で兵装している。トリスタンの防具は、薄手の毛皮のコート風の革鎧だが、トリスタンの冬に耐える防寒性能としては心許ない。しかもこの時期は東の山から冷たい風が吹き下ろす。体感温度は実際の気温より遙かに低い。
下士たちの鼻が赤く、いかにも寒そうだ。
だが、イェークがやってくると、下士たちは興奮したように目をキラキラ輝かせてイェークを見つめる。
先の戦いでの無双振りで、すっかり憧れてしまったようだ。
そんな下士たちやショットを前にして、イェークは言った。
「よし!お前たちは今、この瞬間から、今まで訓練してきた事を一度忘れろ。そして、今から装備を改めて特訓する」
そして、イェークは全員を倉に招き入れる。
その倉には、提供された武器、防具、その他装備品や携行食などの物資が集められていた。そもそも、その倉も、館の外にある、ルヴァ村時代からの住人の個人所有の倉である。
ここならヤードの目も届かない。
そこでイェークは1人1人の武器装備を改める。
ショットは槍に通常の剣に、弓矢。防具は比較的重装備である。
一方で最年少のクリットには、2本の短刀と、左腕に小型の盾であるバックラー。鎧は胸当てと革の腹巻き。そして、防寒着もしっかりと着させる。
「クリットはまだ筋力が足りない。重装備や大型の盾など装備させても邪魔にしかならない。素早く、手数を多くする。トリスタンの防具は軽装なので、盾をかいくぐれば短刀で充分致命傷を与えられる」
ショットは頷く。
「それと、経験の浅い者に弓矢を持たせると味方も危ない。俺も弓は苦手だし、俺たちにはシスがいる。長距離攻撃はシスが基本的に引き受ける。だから、シスの護衛として後衛に比較的体が大きく、器用なバルタスと、ショットが付く。バルタスは弓も得意みたいだな」
指のタコを見て、イェークは判断した。その通りでバルタスもショットも頷く。
バルタスは16歳。新兵ではあるが、元々は下士では無く、猟師をしていた。無口で、無表情。
武家では無い下士希望者を「従下士」という。扱いは武家の成人(13歳)以下の戦士見習い「従士」と同じである。
従下士になるのは、商家、工家など、農家、武家以外の身分のものである。
従下士は、一定の年数兵役を務めるか、武勲が認められれば、新興の武家と成れる。
見回すと、シスの下士扱いとなった者たちは、この従下士と従士、新兵ばかりで、武家で一番年齢が高いのは、ショットを覗けば18歳のバズである。
そのバズは、戦闘経験もいくつかあるので、唯一新兵では無い。
「バズ。君は前衛だ。筋力もありそうなので、現在と同じ大剣で良さそうだ」
「了解です」
バズはニヤリと笑う。口に大きな縦の傷がある。顎髭も整っている。イェークは同じ年ながら顎髭は当分生えそうも無い。
ショット以外の最年長者であるコルダーは、上背がある従下士だ。家は大工らしい。24歳で、技術を受け継ぐ前に父が他界したため、いっそのこと武家を目指そうと思い立ったそうだ。
「コルダー。君は工家出身だったな。手先が器用そうだし、体も大きくて力がありそうだ。槍装備で中間距離で戦うようにしてくれ。これを冒険者では『中衛』、『中堅』などという。時に近距離、時に遠距離に立ち回り、偵察や戦いに適した細工も行う何でも屋だ。臨機応変は・・・・・・苦手そうだが、まあ、ショットと同じ隊なので、指示して貰って慣れろ」
「は、はい」
低い声で緊張気味に言う。
「同じくリド、それとあ~~。えっと何だっけ?」
「あ、セレスです」
リドは12歳のポッチャリ・・・・・・では無く、どっしりした体型の少年兵だ。そして、イェークに名前を覚えて貰えていないのは17歳の黒髪の男だ。セレスは良く言えばどこでもなじめる外見。悪く言えば特徴らしい特徴が無く、印象が薄い。金物屋の息子らしい。
「そうだったな。セレス。それとゼッツ。君たちも中衛だ。それぞれに最も扱いやすい武器を選んでくれ」
ゼッツは武家なので、正式に下士である。長い三つ編みをいくつも下げた髪型にしっかりした白茶の顎髭を蓄えた、明るい雰囲気の男だ。
「了解しました。さあ、武器選びは俺が面倒見てやる」
そう言いながら、他の中衛たちの武器を率先して選んでくれる。
「後は全員前衛だが、オースティンとロドスは盾持ちで良いか」
オースティンはがっしりした体型で、実に戦士らしい風貌の15歳だ。トリスタンでは戦士としてはとっくに成人なので、戦場経験も一応あった。ロドスも戦士らしい風貌だ。16歳でつり上がった目をしている。
最後のギドも、必然的に前衛になる。ギドは14歳で、大きな青い目をした美少年だ。つり目のロドスの弟らしいが似ていない。前髪を伸ばさないため、トリスタンで無ければ、伸ばした髪に三つ編みを下げているのだから、女の子に見えてしまう。
「は、はい。がんばります!」
おまけに真面目な性格で好印象だ。
そうして、それぞれの装備が決まった。見事にバラバラな装備になった。
「軍隊の兵士には見えねぇな」
ショットが呆れたように言う。
「それはそうだ。みんなには今から冒険者になって貰うんだからな」




