旅の仲間 ハイエルフ 3
「あ、あの。それってどんな刑なんですか?あんまり厳しい刑だと、子どもも可愛そうですし・・・・・・」
残酷な刑だったら、子どもはどんなにショックを受けるか分からない。ここは少し考え直して穏便に収められないだろうか。
「・・・・・・うむ。『穴の刑』とは、刑期の間は毎日8時間、規定の深さまで穴を掘って埋めるという作業を繰り返す刑だ。・・・・・・が、確かにカシム殿の言われる通り、初芽に与える心理的影響を考慮すべきだな。少し頭を冷やすとしよう」
タイアス殿が申し訳なさそうに言う。俺たちはハイエルフが恐れる「穴の刑」の内容にやや呆れてしまっていた。
なんか感覚が違うが、ハイエルフにとってはとんでもなく苦痛なんだろうなと思うしかない。
「しかし、カシム殿にはさすがと言わざるを得んな。思いやり溢れる言葉と行動。初芽の幼い心理にまで心を配れる気遣い。そしてハイエルフの長に意見を言えるその度胸。本当に私は君を気に入ったよ」
何か、えらく高く評価されてしまっている。もうこれ以上俺を過大評価する勢力を増やしてはいけない。やめてくれ。
まあ、確かにハイエルフの長に人間が意見を言うとかって、ちょっと物語でも聞いた事がない。
「お兄ちゃーーーーん!!」
明るい子どもの声がしたかと思うと、ポフッと軽い物が俺の膝の上に飛び乗ってきた。
見ると、あのハイエルフの子どもが俺の膝の上に飛び乗って俺にしがみついている。
もうすっかり回復しているようだ。良かった。
俺はホッとして笑みを浮かべる。
「お兄ちゃん!助けてくれてありがとう!ミルね、ずっと鎧の中から見ていたよ!」
ミルと名乗る少女は、表情豊かにコロコロ笑う。
きれいな顔をしているが、他のハイエルフのように優雅な気品は感じず、無邪気さしか感じられないのは、やはり子どもだからだろうか。
俺はエメラルドグリーンのきれいな髪をしたミルの頭をなでてやる。
「偉いな。良くあの状況でがんばったな。怖かっただろう?」
俺が優しく言うと、ミルの表情が輝く。
いや~。子どもとはいえさすがはハイエルフだ。キラキラとした光が目から溢れてくるように見える。
「怖かったよ!もうダメかと思ったよ!でもお兄ちゃんが『がんばれ』って言ってくれたからがんばったの!!」
ミルが俺にしがみつく。
「わかった、わかった。でも今は君の里長と話しているから離れてくれないかな?」
俺が言うと、ミルはキョロキョロと周囲を見回すと、里長を指さして小首をかしげる。
俺が「そうだよ」と頷くと、ミルは里長ににっこり笑いかける。
「おじちゃん。助けてくれてありがとう!」
ミルが言うと、タイアス殿の顔が思いっきりとろける。
「おお、おお。良いんだよミルちゃんや。おじちゃんたちは、みんなミルちゃんの味方なんだからね~~」
嘘だろ。ハイエルフの猫なで声。この豹変ぶり。
いや、よく見ると、周囲のハイエルフたちみんながミルを見て目尻を思いっきり下げている。下げまくっている。
作業の手も止まっていて、ミルの側に来たくてウズウズしているようだ。
「ねえ、ミルもこのままここにいても良い?」
ミルが俺の膝の上で向きを変えてテーブルの方を向く。
「いいともいいとも。ミルちゃんの好きにして良いんだよ。どれ、甘い飲み物でもあげよう」
タイアス殿がデレデレしながら指を鳴らすと、瞬時に10個以上のグラスと同数の飲み物を入れた瓶が差し出された。差し出すハイエルフたちはみんな妙に殺気立っている。
「俺の方が早かった」「いや俺だ」「私の飲み物の方がおいしいわ」などと、ものすごい小声で言い争ってる。こう、唇を動かさずに歯の間から押し出すようなしゃべり方で怖い。
なんだこれ?ハイエルフの初芽の扱いってこうなの?ミルが特別なの?永遠の初芽だっけ?
俺、こんな子を膝に乗せといて大丈夫なの?
結局全てのコップと飲み物がミルの前に並んだ。ミルは嬉しそうにいろんなコップの飲み物を楽しんでいる。
「あ、あの・・・・・・」
俺が言うと、タイアス殿は少しだけ表情を戻したが、目はミルに釘付けだ。
「う、うむ。つまり我々にとっては子どもこそが大切で、全てに優先して甘やかしてしまうと言う事なのだ。とくにミルは種族全体でもごく希にしか生まれない永遠の初芽なので、特別大事にされる訳なのだよ。永遠の初芽は我々にとって、非常に重要な役割が生まれついた時からあるのだ」
永遠の初芽って何だろうか?話しぶりからしても、相当に重要そうなその「役割」って何だろうか?
知りたい気もするが、ハイエルフの「秘中の秘」って言ってたから、知るのが怖い。知りたいけど、どうかタイアス殿がうっかり口を滑らしたりしないで欲しいと願うばかりだ。
「ところで、カシム殿たちは一体どうしてこの様な所に?まさか『我が魂癒の地』に用でもおありかな?」
え~と、「魂癒の地」ってのが、ハイエルフがエルフの大森林を呼ぶ時の名前だな。
「いいえ。我々は・・・・・・いや、私と、仲間のファーンはこれからカナフカ国に向かい、創世竜の白竜との会合を果たすつもりです」
俺がそう告げるとタイアスさんも周りのハイエルフたちも目を剥く。
「何と!?それは驚いた」
俺は説明を続けた。
「こちらのリラさんは、たまたま我々の危機を聞きつけたようで、救援してくれた恩人です」
俺がそう説明すると、即座にリラさんが発言した。
「いいえ!私もカシムさんと白竜との会合に臨むつもりでおります」
「リラさん?どういうことですか?」
俺は驚いてリラさんをまじまじと見つめた。
「私はカシムさんと旅をしたくて追いかけて来たのです。私をパーティーの仲間に入れてくれますか?」
真剣な目で俺に訴えるリラさん。その姿があまりにもきれいで、何というかものすごくドキドキしてしまう。赤面してないかが心配になるレベルだ。




