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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十六巻 血と炎と氷の大地
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血と氷と炎の大地  出陣 2

「東の恒王がどうのこうのって話しは聞いていたけど、それがここまでとは畏れ入ったよ」

 イェークの感想としても、ここまで勢力が大きいのであれば、本当に全ナントの地を征服して真なる恒王を名乗る事になるのかも知れない。


「待ってよ。さっき『直接的には』って言ってたわよね?」

 言い方が不自然だったので、シスは疑問に思っていたのだ。

「はい。実は最近ですが、ヤジュアの地を治めるロンド家がイスケンデルの傘下に下りました」

 そう言ってビュトーが指さしたのは、リーン国の北西部に隣接する土地である。

「飛び地かよ」

 イェークが呻く。

「そうです。ロンド家は、リーン国の北部をもぎ取って、ヨジョ国の北東を押さえてしまおうと狙っています」

「あ~~~。南北を押さえちまえば、この際ヨジョは無視しても構わないもんな」

 地図を見てイェークが納得する。

「なお、ロンド家が進行中のリーン国北部は、その真北に位置するショーズジョン国も狙っていて、現在北部は戦闘状態になっています」

「リーンは二カ国から侵攻を受けているの?」

「いいえ。三カ国です」

 シスの質問に首を振って、ビュトーはリーン国南西部を指さす。


「ここに南の恒王国『ゴース』があります。『巨人ゴース王』です」

 その名も記憶にある。

 2メートル近い身長で、岩のように分厚く硬い体をしている怪力の王である。8年前は、確か南の地域を支配するために、頻繁に戦を起こしていた。

 南を制圧して、いよいよ他のナントを攻めるために北部に勢力を拡大してきたところと言う事である。


「結構リーン国ヤバいんじゃ無い?」

 シスが率直な感想を口にする。

「ヤバいですね」

 ビュトーはあっさり首肯する。

「ですから、この際は猫の手でも借りたいと、シス様を呼び戻して、マイアン家を再興させて、アーシュの地全体を活性化させる狙いがあります。ついでに言うと、以前の緊急クエストでのシス様の活躍が冒険者雑誌に載せられていた事から、即戦力としても期待されているのです」

「ああ~~~・・・・・・」

 シスは頭を抱える。確かにあの緊急クエストでは、なんだかんだあって活躍した事になっている。

 あの時の勲功が第4で、今話題の竜の団の勲功第5よりも上である。

 確かに雑誌のインタビューもいくつか受けた。

「でも、あれは灰色さんや竜の団や他の冒険者たちのおかげというか・・・・・・たまたまと言うか~~」

 シスの隣でイェークもウンウンと頷く。

「俺たちは、あの戦いで自分たちの未熟さを思い知ったんだよな~。世の中には凄い奴は星の数ほどいる。そう思わせる戦いだったよ」

「ですが、活躍なされたのは事実で、それがリーン家の耳に入ってしまったのです」

 ビュトーに言われて、これは軽率だったと反省する。

 今は冒険者として、トリスタンとの関わりもなくなったと思っていたが、それは当人たちだけで、トリスタンの地は、未だに2人を捕らえて放さなかったのである。

 「血と氷の呪われた土地」。トリスタンは、時にそう呼ばれていた。

 その呪いが2人をこの土地に縛り付けている。


「そして、戦力としては、イェーク殿はその期待に応えてしまわれた。それはシス様を魔女として期待していた以上に戦士たちの心に訴えるに足る活躍でした」

 ビュトーの言葉にとげがあるような気がする。

 いや、実際余計な事をしでかしたのだろう。


 そもそも、イェークのことは、リーン家も知らなかったはずである。どこの馬の骨とも知らない戦士が、のこのこシスと一緒にやってきた。所詮は冒険者だろうと思っていた。だが、イェークはルヴァの出自だという。

 シスが単独でやってきたならば、「魔女」として取り込みやすいとリーン家は思っていたはずである。

 だが、イェークはシスの「下士」を名乗り、実力も申し分ないことを証明した。


 これによって、シスは僅かながらも独自の勢力を手に入れてしまった。そして、それはコントロールを失って拡大するかも知れないのだ。それはすなわちシスの身だけでは無く。このルヴァそのものを危機に陥れかねないものなのだ。

「・・・・・・すまない。目立ちすぎた」

 イェークはうな垂れる。僅かでも調子に乗っていた自分が恥ずかしい。

「いえ。不可抗力ですから。わたくしとしましては、この状態を何とか利用出来ないかと考えなければいけませんね。それが文士の務めですから」

 そう言って笑うビュトーは、やはり穏やかな雰囲気だった。一応クギを刺したと言う事なのだろう。


「ふぅ~~~」

 不意にビュトーがため息を付く。

「もう、ビュトー!あなた体弱いんだから、無理しないで座りなさいよ!」

 疲れた様子のビュトーをシスが叱りつける。

「い、いえ。そういう訳には」

「あたしたちは、言わば幼なじみなんだから変に意地張らないでよ!」

 シスにそうまで言われても、ビュトーは

困った様に口をへの字に結ぶ。

「い、いえ。お言葉は有り難いのですが、これはわたくしの気持ち的なもので、何とも納得出来ないのです・・・・・・」

 シスは頬を膨らませる。イェークが相手だと、間違いなく癇癪を起こす前兆だ。

「じゃ、じゃあ、今日はここまでにしよう。俺たちも戦いで疲れているし、早く寝よう」

 イェークが助け船を出す。

「そうね。そうしましょ」

 シスも納得する。

「そうですね。じゃあ、明日にでもこの別邸に高座を設けさせましょう」

 ビュトーはそう言うと、一礼して部屋を後にする。


 トリスタンの流儀では、目上の者は一段でも高い位置に座る。

 同じ高さのところに胡座をかくのは、身分が同じ、または、より身分が高い者を前にした時である。

 この別邸には、高座がなかったので、ビュトーは座る訳にはいかなかったのである。

「カチコチにこだわってるな~」

 ショットが苦笑して立ち上がると、胸に手のひらを当ててから退室する。


 2人残された部屋に、シスのため息が流れる。

「ほんと。なんか疲れちゃったよ」

 それはそうだ。いきなり結婚しろと言われたり、弟の死は確実なものになったり、戦闘があったり。

 その上、戦の話しや権力闘争に巻き込まれそうな流れになっている。

 聞いているだけでイェークも疲れた。

 これなら、命懸けでダンジョンに潜っている方がずっと気楽だとさえ思える。


「じゃあ、また明日な」

 そう言うと、シスを残して、イェークはシスの部屋の隣に与えられた自室に戻って行った。



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