紫竜討伐 武器語り再び 9
俺たちはリラックス出来る室内着だが、一応いつでもすぐに武装出来る状態ではある。剣も椅子に掛けているしな。冒険者としてのたしなみだ。まあ、俺はファーンに教えて貰ったんだがな。
「なんじゃ!?張り合いが無い!!」
コッコはアールに憤慨する。だが、アールは真面目な表情でコッコを見つめる。
「いえ。何と言うか、コッコさんが兄様の妹なら、私にとっても妹になる訳ですもの。可愛らしく思い、愛おしく思えます」
いや。真面目な顔では無い。アールは実は興奮している。
「わ、私もコッコさんを可愛がりたい・・・・・・」
手がワキワキしている。こう見えてアールは可愛い系が好きなのか?!そして、さすがは兄妹。気が合う。
「そうだ!!コッコは俺たちの可愛い妹だ!!アールもコッコを可愛がって良いぞ!!」
「ちょっ、馬鹿者!!勝手に、あああああ~~~!!」
俺はコッコを俺から引っぺがしてアールに渡すと、アールが夢中になって抱きしめて頬ずりをする。
「おい。アールも酔ってんじゃねぇのか?」
ファーンのツッコミは、やはり無視する。
「それはそうと、気になっていたんだけどニーチェ?」
「む?なんだ?」
目元を拭いながらニーチェが顔を俺に向ける。ドヨンと曇った目をしている。
「お前、このまま緑竜まで付き合ってくれるそうだけど、お前の館、『花園館』の方は大丈夫なのか?」
俺が尋ねると、アールに抱えられたコッコが言う。
「ワシら創世竜には、相性という物がある。赤竜が紫竜の攻撃を無効化出来る様に、緑竜に対しては、紫竜は強い攻撃力を持つんじゃ。緑竜の様子がおかしいなら、コイツが何とかするのが本来の役割じゃ」
そんな役割があるのか。
「ちなみにワシは、誰とも相性で不利になることが無い!だから最強なのじゃ!!」
最強は赤竜だって話しだぞ。
「そのかわり、地獄を監視する役割を持っている」
なるほど。
「穴だらけの監視だがな」
極小の声でニーチェが呟いた。幸いコッコの耳には届かなかった。
「それで、館の方は?」
俺が再び尋ねる。話しによれば、あそこにはまだまだ沢山の女性たちが、望んでそこで暮らしているそうだ。快適な生活を守るためにニーチェは働いていたというじゃないか。だったら、今は残った女性たちが不便な思いをしているんじゃ無いのか?
「それなら問題ない。わたくしの影を置いて来ている。お嬢様方はわたくしが不在である事にも気付かぬであろう。それに、あの館の機能は、精霊たちだけで充分賄えるのだ。・・・・・・つまり、わたくしなど、居ても居なくても同じなのだ」
自分で言っておいて、ニーチェがメソメソ泣き始めた。
「だ~~いじょうぶっす!!ニーチェが居たからあたしたちもあそこで助けられてたんだから、もっと自信をもってくださいっすよ!!」
笑い上戸のエレナがニーチェを上手く慰めてくれている。
「それとは別に、コッコやニーチェが緑竜に近付いたら、警戒して出てこなくなったりはしないのか?」
創世竜は自分の領域に入った人間は、すぐに察知する。それと同じで、同じ創世竜のような力を持った者が側に居たら気付くんじゃないのか?
「あ~~~。それは無い」
すっかりアールの腕の中で落ち着いたコッコが言う。
「ワシ等は、互いに互いを察知出来ぬ。監視されていたら気分が悪かろう。それ故に、互いに察知出来ぬし、監視出来ぬように決まっている。実際に、お主等の側に居た紫竜にさえ、ワシは目視するまで気付かなかったんじゃ」
確かにそうだ。お互いに驚いていたもんな。
「それを利用して、黒竜は人の住みかに侵入して宝を盗んでいるんだ。カシムに渡した赤竜の鱗だって、どうせ寝ている赤竜からこっそりむしり取ったに違いない」
ニーチェが告げ口をする。
「もうこれからはせんわ!!ムカつくのう!!」
そう言いながら、コッコはアールの膝から飛び降りてニーチェを殴りに行く。
「ぎゃああああっ!!ごめんなさい、ごめんなさい!!」
ニーチェのこの反応は、相性じゃ無く、すっかり条件反射だな。
大騒ぎになると苦情を言われそうなので、殴りかかる前に、俺がコッコをヒョイと捕まえて、また俺の膝に乗せて頭を撫でる。
「コッコは偉いな。俺との約束以上のことを守ってくれてるんだもんな」
それで思い出した。
「あ、そうだ。誓約!」
「む?」
すっかり大人しくなったコッコを、アールが静かにかっさらっていった。結構マジで可愛がってるな。
「コッコがしてくれた誓約だけどさ。あれ、もうちょっと条件を緩和出来ないかな?」
他国に宝を強奪に行くことを止めると同時に、俺とファーンとリラさんとミルが、不当に拘束された場合は、黒竜が報復することになっている。
元々は、「俺が生きている限りは」と言う事にしたかったようだけど、色々あって内容を変更した。
でも、今の条件でも、状況によって不都合が生じるし、俺たちに危害を加えられないようにする意味合いとしては薄い。
おまけに報復というのが、多分国ごと焼き尽くす系だろうから、逆に俺たちが気を付けないといけない。
「不当に拘束」のとらえ方も曖昧だ。
俺がそれを説明すると、コッコが呻る。
「ふ~~む。なるほどのう。結構面倒なんじゃな」
俺も呻ってしまう。
助け船を出したのはリラさんだ。
「私、考えていたんですけど」
全員の視線がリラさんに集中した。
「カシム君の竜騎士探索行を助けろ。そして、聖魔大戦を勝利することが出来たら、しばらくの間は宝を奪いに行かないってすればどうですか?これなら、カシム君しか、竜騎士になる可能性がある人はいないと知らせられるし、誓約内容自体を公にも出来るんじゃないかしら?」
俺は感心してため息が出る。
「なるほど。それなら、俺を邪魔したりはしないよな」
「だが、『カシムの助け』と言う部分が曖昧だ。俺たちはカシムが変な要求はしないことを知って居るが、知らなければ、とんでもない『助け』を要求されると疑心暗鬼になるだろう」
ランダが即座に提案の問題点を付く。なるほど。それもそうだ。
「確かにそうね」
リラさんも残念そうに首を振る。
「いや。基本的にはそれで良い。後は文言の問題だ」
そうして、しばらくあれこれ考え合った。




