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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十五巻 紫竜討伐
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紫竜討伐  武器語り再び 6

 俺たちは、支払いを済ませて(結局全部ペンダートン家請求にしてしまった)店を出た。

 アールは新しい武器を布に包んで貰って、大事そうに持って俺の隣を歩く。

「アール。俺はお前の前で格好つけたいんだ。まあ、俺の力じゃ無いけど、それでも俺からの気持ちだと思って受け取ってくれ。それに強い武器で俺を助けて欲しいし、お前に生き抜いて欲しいんだ」

 俺が言うと、アールはそれでも申し訳なさそうにしながら、小さく頷いた。

「はい。命に替えて・・・・・・では無く、一緒に生き抜きたいです」

 俺はアールの頭を撫でてやる。

「それなら武器だけでは無く、防具も整えた方が良いのではないか?」

 ラゴラが皮肉っぽい目で、俺の防具を見る。それは言えてる。防具に関しては、いつまで経っても、適当な物ばかり買っている。

「ラゴラは防具にも詳しいのか?」

 俺が尋ねると、ラゴラは肩をすくめる。

「私は整理して拘る蒐集家だぞ。防具まではまだ手が回っておらん」

「確かに。防具に関しては整理して拘るにはあまりにも範囲が広いし定義も曖昧だ」

 俺とラゴラが笑い合う。



 少し歩いたところで、ラゴラが俺たちに言う。

「では、私はまた武器を探しに行く。またどこかで会おう。私は顔を覚えるのは苦手だが、カシムとアールの名前はしっかり覚えている」

 手を振って行こうとするので、俺はあわててラゴラを止めた。

「ラゴラ。1つ頼みがある」

 去りかけたラゴラが足を止める。

「なんだ?」

「一度俺と手合わせをして欲しい。・・・・・・と言うか、1つご指導いただきたい」

 俺が頭を下げると、慌ててアールも頭を下げた。

「ふぅむ。指導か・・・・・・。カシムの腕前も相当だと見受けるが?」

 ラゴラが顎に手をやって、少し考え込む。

「いや。俺よりもラゴラの方がずっと強い。しかも、見たことがないほど静かで美しい剣さばきだ。根本的に俺の剣とは違う。だから、もう一度見てみたいし、出来れば剣を交えてみたいんだ」

 俺が必死に頼むと、ラゴラは頷いた。

「まあ、よかろう。カシムの頼みだし、私も少し楽しそうだと思う。だが、町中では迷惑になるから移動しよう」

「そうか!有り難い!」

 近くに広場なり公園なりがあれば、そこで手合わせをしよう。



 俺はウキウキしながらラゴラと共に歩く。

 だが、少しも歩かないうちに、ラゴラが足を止めた。

「カシムよ。ちょうど良い物がある」

 ラゴラがニヤリと笑って顎で示したのは、瓶を売っている店だ。

 その店先に二抱えもある大きなかめが置いてある。庭に置くための瓶だ。

「?」

 それがどうしたのだろうか?そう思っていると、ラゴラはスッと店の主人のところに行って何やら話している。


「話が纏まったぞ。武器は剣では無く、棒を使おう。妹御。2本棒を貸してくれぬか?」

 そう言うと、アールはさっき買った長刀の柄を2本取り出してラゴラに手渡した。その内の1本をラゴラは俺に渡す。

 ここで始めるのか?


 俺が戸惑っていると、店の主人が大きな声を張り上げた。

「さあさあ、通りを行く皆さん!これから我が家の瓶の上等さを、こちらの剣士さんたちが証明して下さる!!」

 は?どういう事?

「この瓶の上で、二人の剣士さんたちが立ち合います!!いかに大きな瓶とはいえ、大人二人が立ち回りを繰り広げるんだ!瓶は揺れる!!」

 そう言って、店主が大きな瓶をグイっと押すと、底面が小さい大きな瓶は、ぐらりと傾く。それを店主が抑えて戻す。

「中に水が入っていない瓶は、この通り簡単に傾きます」

 さすがに簡単ではない力で押してはいたが、それでも、瓶の縁に大人が立つのは至難の業のはず。と言うか、普通に考えれば出来ないと考えるだろう。

「それに耐えられれば、ウチの瓶は、とても丈夫ということだ!!万一破損させても、お題は剣士様持ち!!実にお得な出し物だ!さあさあ、どなた様も見物していきやがれ!!」

 理屈は通っていないが、面白そうだし、店の宣伝になるだろうと店主は瓶を貸してくれるようだ。店が注目されれば、それだけで店主にとっては損はない。


「さあ、参ろうぞ」

 まるで体重を感じさせないように、ラゴラがふわりと跳躍して、瓶の縁に立つ。

 瓶はわずかなりとも傾いたりしない。

 周囲に集まってきたやじ馬たちがどよめき声をあげる。

「『浮身ふしん』か……。そこまで得意じゃないんだよな」

 ぼやきつつも、俺はラゴラの身のこなしに鳥肌が立つ。

 天然自然てんねんじねんの美しさが、そこにあった。


 「浮身」は、高い体幹力とバランス能力、そして柔軟性が求められるが、その神髄は精神論である。「静心水紋」の境地が必須である。いや、「静心無紋」とでも言うべきかもしれない。穏やかな心で、一切の波紋を立てない境地。

 今のラゴラの用に、天然自然てんねんじねんに溶け込むような状態である。

 「浮身」を修めれば、水に浮く竹竿の上に立つことができる。極めれば川に浮かんで流れる木の枝や、果ては葉っぱに立って、川下りすることも可能だ。

 嘘みたいな話だが、祖父がやって見せてくれたので、事実だ。


「ラゴラ。背中の荷物を降ろさなくてもいいのか?」

 そう言いながら、俺は瓶の縁に飛び乗った。俺が飛び乗った時に、瓶が一瞬揺れる。揺れる瓶の上でも、ラゴラは小揺るぎもしない。

「このくらいは問題なかろう」

 ラゴラは余裕を見せる。そして、ゆっくり棒を下に構える。

 構えているのだが、とても防御しているようには見えず、全身ががら空きに見える。だが、その実、全く隙など無い。

「さあ、よ」

 行くさ!!せっかく胸を貸してくれるのだから、隙が無いからと、何もしないでいてはあまりにも勿体ない。


 俺は敢えて棒を構えている下段を攻撃する。構えていないように見えるが、やはり悪い足場だ。そこを攻撃させないための構えだ。……と言うのがセオリーなだけで、俺自身はそんなことはないと確信している。それでもセオリーで攻めてみた。どう返されるのかが楽しみだったからだ。


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