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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十五巻 紫竜討伐
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紫竜討伐  至高のメイド 2

 あまりにも出来の良いメイドである。

 グレイマンは、一時の研修で手放さなければいけないことを、心から残念に思う。出来れば、このままメイドとして働いて欲しいし、すぐにでもメイド長になって欲しい。ゆくゆくはメイド総監になってもらいたい人材だった。

 

 つい熱が入って、王女である事を失念し、厳しい仕事を頼んでしまう事があったり、厳しい指導をしてしまうこともあったが、いずれもアクシスは、嫌な顔1つせず取り組み、厳しい採点をしたとしても、充分合格点を出してしまう。

 同じメイド仲間からも、メルスィンのペンダートン家に送らずに、このままこのペンダートン邸で働けるようにして欲しいと嘆願の声が上がるのも納得するしかない。

 実はヨーメイは王女なのだとメイド達が知ったらどんな顔をするだろうか?

 そう思いつつも、グレイマン自身が、知っていてさえ他人からそうだと言われたら、相当間抜けな表情になるだろうと自覚していた。



 グレイマンが肝を冷やしたのは、突然カシムが館に出現した時の事だった。

 ヨーメイの正体が、他に露見しないだろうかとハラハラした。それと同時に、この優秀なメイドが、いよいよ王女に戻ってこの館からいなくなるのではとも思った。

 だが、常々本人も言っていたが、カシムと一緒にいるアクシスを見ると、本当にアクシスがカシムの事を愛しているのだとすぐにわかった。カシムのために、これ程のメイドとしての働きが出来るのだ。

 アクシスは王位などには微塵も未練は無いのだろう。

 ならば、カシムと結婚したら、あっさり王家を離れるかも知れない。そして、このペンダートン家の本邸で過ごすのかも知れない。

 グレイマンは、それを心から願った。

 この人になら、ペンダートン家の人たちに対するのと同等の敬意と忠誠を誓える。


 グレイマンが危惧したような事にはならず、カシムはすぐさま出発し、アクシスもそれを見送った。

 思わずホッとした事に、グレイマン自身が驚く。




 カシムと入れ違いに、翌日には新しいメイドがメルスィンのペンダートン家から送られてきた。これは、カシムからの口利きで、メルスィンのペンダートン家に訪れた者だった。

 奇しくも、アクシスの偽りの身分と同じように、いずれはメルスィンのペンダートン別邸で働く可能性もあるので、それまでの研修として本邸で働くのだという。

 現在はメルスィンのペンダートン別邸には、充分すぎる人員がいるので、空きが出るまでここで住み込みで働く事になるそうだ。

 カシム直々の口利きだと言う事で、これまた特別な配慮を要する事になる。

 何から何までアクシスの設定と同じ状況に、紹介状を読んだグレイマンは複雑な苦笑を浮かべた。


 その新人メイドの名前はメアリ・アン・クリュート。

 経緯は分からないが、第一印象としては、身分の高い貴族で、人柄も良さそうである。芯の強さと、思いやりある人物に思えた。

 また、ペンダートン家に、特にカシムに対しての恩義を感じているそうで、アクシス同様、懸命に尽くしたいと願っているそうだ。

 メイドになりたいと言う事なので、単純に恋心では無いだろうが、好意を持っているのは確かだと思う。

 主人たちの男女関係に関しては、グレイマンは関与しないし、思うところは無い。恋人や愛人など、いくらいても良いのではないかとさえ思っている。

 ただ、今のところペンダートン家はそうした色好きの話しは無い。不思議に思うし惜しくもある。

 ペンダートン家の繁栄のためには、子孫は多くても困らないだろう。家督相続さえ順調なら、それで良いはずだ。


「分かりました、メアリさん。あなたの身柄はわたくしが預からせていただきます」

 緊張した面持ちで、グレイマンが紹介状を読み終えた後の、しばらくの沈黙時間を待っていたメアリが、安堵の表情を見せる。

『器量も良い。カシム様でなくとも、二人の兄君たちのどちらかとでも結婚、ないし、妾にでもなってくれれば良いのだが』

 そんな事を思案したが、グレイマンはせっかくなので、この新人メイドの指導、世話を、アクシスに任せることにしてみる。

 これも、グレイマンがアクシスを「ヨーメイ」として、メイド長にしたい思いから、ほぼ無意識に決定した人選だった。




 アクシスは、メアリを預かると、グレイマンがしたように、初日に館を案内したりしなかった。

 まずは、滞在する部屋に案内し、ゆっくり休息を取らせる。お茶や、菓子を用意し、少し話しをしてから一人になる時間を与えた。

 その後、食堂や風呂などに案内し、メイド達にメアリを紹介して回った。

 おかげで、メアリは休息も取れて、これから働く仲間たちとも、良い状態でゆっくり挨拶することが出来た。

 アクシスの配慮によって、緊張もほぐれて初日を過ごすことが出来た。

 

 翌日には、手近な部屋の掃除や、食堂の手伝いなどを経験させた。

 メアリも物覚えが早く、すぐに一通りの仕事が出来るようになった。



 グレイマンはアクシスの仕事に非常に満足すると共に、新たな人材に期待を大きくする。しかも、今度の新人はアクシスほどには優秀では無いが、すぐにいなくなる訳では無い。事と次第によっては、このままここで働き続けるかも知れないのだ。大事に育てる必要がある。



「ヨーメイ先輩の教え方が上手なのですわ」

 同僚のメイドに誉められたメアリが、嬉しそうにアクシスを見る。メアリにしてみれば年下のアクシスだが、すっかりアクシスに懐いている。

「いえいえ。メアリ様が一生懸命仕事をなさっているだけですわ」

 アクシスもニコニコ答える。


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