紫竜討伐 アモアモ・タラ・ドースィー 2
「本当に無口な奴じゃのう」
コッコが感心するような、呆れたような顔をして俺に言う。
「でも、滅茶苦茶熱い男なんだぜ。俺をかばって白竜の炎を浴びるような奴なんだ。信用するに十分すぎないか?」
俺が出会った時の事を話すと、コッコは満足そうに頷く。
「うむ。そうで無ければカシムの仲間とは言えんな」
その理屈で言えば、エレナはどうなるんだ?あいつ、絶対に俺の事はかばわないだろうな・・・・・・。まあ、その分他の女性陣の事なら命がけで助けるから良いか。
それから、かいつまんでこれまでの事と、コッコとニーチェの事を話す。
「うむ。承知した」
全部話し終わって、出てきた感想はそれだけだったので、さすがに苦笑した。
「む。貴様は今の話し、信じておらんのでは無いか?」
ニーチェが憤慨して言う。
「いや。正直に言えば、気持ちは混乱している。理解不能だと感じている。だが、カシムが言うなら、それは真実だ。この男はこういった話しで嘘は言わない。だから頭で理解した」
「う・・・・・・むう。そうか」
ランダの淡々とした説明に、さすがにニーチェも、何も言えなくなる。
「本当にクールな奴じゃな」
これにはコッコも唖然としていた。俺は苦笑するしか無かった。
「じゃあ、今度はランダの話しも聞かせてくれよ」
「分かった。少し長くなるぞ」
そう言って話し出したランダだが、時間にして30分程度だ。
ランダにしたら、かなり頑張ってしゃべっただろうが、端的に報告しすぎるので、わかりやすかったが、つい色々質問してしまった。
こう、情景とか、感情とかも含めて知りたいじゃん?
で、まあ驚いたのは、宿屋にあった「ルシオール」の肖像画と、リザリエ様のサインだな。
いよいよ例の深淵の魔王の出現が近くなってきた事を感じざるを得ない。
その時、世界がどう変わるのか、誰も予想が付かないんだ。それは、あのグラーダ国王でさえそうなんだ。
話しを聞き終えたニーチェが目頭を押さえている。
「どうした、ニーチェ?」
俺が尋ねると、ニーチェは目頭を押さえたまま頭を振った。
「わたくしはこの男を少し誤解していた」
「まあ、誤解されやすい性格だよな」
俺は肩を竦める。ランダが困ったように口をへの字に結ぶ。
「いや。わたくし、その男がかなり見た目が良いので、てっきり女性たちを片っ端から口説くような破廉恥な奴だと思っていたのだ。しかし、話を聞けば、ただ1人の女性を愛して懸命に探し回っているとの事では無いか。これはただ感動するほか無い。見直したところなのだ・・・・・・」
ああーーーー。ニーチェの男への偏見がエレナ並みにひどい。
だからエレナとニーチェは仲が良いんだな・・・・・・。
俺はリラさんと目が合って、2人でクスクス笑った。
「ともかく、明るい発見が出来て良かったじゃ無いか、ランダ」
俺が言うと、ようやくランダも笑顔を見せる。
「ああ。カシムのおかげだ。礼を言う」
全く律儀な奴だ。俺は何もしていないのにな。
しかし、ここで合流できたのは、本当にありがたい。
何でも俺がトリスタンにいると踏んで、トリスタンに急いで向かっている途中だったそうだ。
危うくすれ違いになるところだった訳だ。
12月32日。直線距離は近いが、その割には時間を掛けて、俺たちはタラの街に着いた。
それは、地形の問題である。
南からタラの街に入る分は、それほど困らないが、北からだと、山があり、谷があり、川があり。橋までもグルリと回り込まなければならない。
エレナのように飛んでいけるなら、すぐなんだが。
また、上り坂でもあるので、馬を休ませながら行く必要があった。
そんな道のりのせいもあり、晦日の到着となった。
「じゃあ、ちょっと確認してくるから待っててくれ」
俺は、馬を下りて、冒険者ギルドの建物に入る。ここの伝言板でどの宿にファーンがいるのか分かる様にしている。
「アモアモ・タラ・ドースィー!!」
滅茶苦茶明るい声で、受付の人が右手を顎の下で地面と水平に左右に動かす。
街に入ってから、もう何度もこの挨拶を受けている。
元々のこの地方の古い言葉で、「ようこそタラの街へ~」て事らしい。あのポーズも友好のサインだそうだ。
「ああ。こんにちは・・・・・・」
同じ挨拶はちょっと恥ずかしくて出来ないから、無難に挨拶すると、受付に会釈して、伝言板に向かう。
ああ、あった。「ハタ屋」か・・・・・・。
一番の観光地である湯畑からは少し山側に行くんだな。了解した。
冒険者ギルドには、明日来ないといけないな。
俺は明日の10時に司書様を予約した。
さすがに明日は大晦日だけに、出勤している司書様は2人だったから、「空いている方を」とだけ言ってお願いした。
さすがにもう、司書様関係で醜態さらしたくないから、こだわらず頼んでおいた。
これから向かうトリスタン連邦国は、20から50の小国に分かれて、常にどこかが戦争している戦国地帯だ。
平地のすくない土地で、無数の国が出来たり滅んだりしている。
そんな地域なので、冒険者ギルドはトリスタン地方入り口のグラーダ直轄地に一カ所しか無い。
そこに行くか分からないので、今のうちに最寄りの街であるタラの街で情報を仕入れておいた方が良いと判断しての事だ。
「お待たせ。場所が分かったから、行ってみよう」
ギルドから出て、街を行く。ギルドの前が湯畑なので、ここには多くの人が、湧き出た源泉が木製の樋を巡って流れていく様を見物していた。
待っている間に、リラさんとミルとコッコも見に行っていたようだった。
「湯気がモワァァ~~~って上がっててすごいね~!」
ミルが嬉しそうに話す。
「ここの温泉は熱いところが多いらしいから、ミルは大丈夫か?」
かくいう俺もぬる湯が好きだ。
「うん。・・・・・・う~ん。どうかなぁ・・・・・・」
「ワシも頑張るぞ!ミルも頑張るのじゃ!」
小さいコッコがミルを励ます。
「うん!頑張ってみる!」
可愛いものだ。




