紫竜討伐 創世竜の秘密 1
「ええ~~。創世竜ってそんな感じなんですか~~?!」
リラさんに説明を受けて、エレナは頭を抱えた。
詳しく説明する機会がなかったアールにも聞いて貰ったが、アールは小さく頷いただけで、特に感想らしい事は言わなかった。
それよりアールが気にしたのは、「なんで黒竜が兄様の妹なのですか?」と言う事だったので、ファーンがそれについて説明を始めたところだ。
紫竜はと言うと、コッコが暴力を振るわないと言う事で、さっきの醜態など忘れてしまったかのように堂々と立っている。もう木立に隠れてもいない。
「カシム!あれからワシ、色々服買ったんじゃよ!ちょっと待っておれ~!」
コッコはそう言うと、茂みの向こうに走って行った。
「いつも見られておるが、直接じゃと恥ずかしいんじゃよ~~」
茂みに入る時に、舌を出しながら、ちょっと意味の分からない事を言っていたのが気になる。
だが、身だしなみは気にしているようで、以前のように髪はボサボサじゃないし、石けんの香りもした。感心、感心。
少し待つと、黒、銀、赤の縦縞のワンピースドレスを着たコッコが飛び出してきた。
赤い靴に赤いリボンも似合ってる。
「可愛い!可愛いぞぉ!!」
俺の目尻が下がってしまう。このまま社交界デビューさせたいくらい可愛らしい。
「じゃろう?!初めて着て見せるから新鮮じゃろう?」
「髪も自分で結んだのか?!上手じゃないか!!」
編み込みの三つ編みをしている。
「れ、練習したんじゃよぉ~。知っておるじゃろうに」
褒められて、コッコは真っ赤になって照れている。
「ええ?」
「とぼけるでない!ワシのやった右目、使っておるのじゃろう?使いまくっておるのじゃろう?!」
ああ。そういう事か。コッコは俺が義眼を使って、コッコの事を時々見ていると勘違いしているんだな・・・・・・。
それにしても、すごく得意そうにしている。これはこの右目が壊れていてコッコの事を見ていないとは言えない。
「ま、まあ。使ったよ~・・・・・・」
嘘では無い。よく分からない条件で機能しているものの、意図せずとは言え使った事は間違いない。
「コッコちゃん、可愛い~~!」
ミルが乱入して来て助かった。
「ふ。黒竜よ。お前は『コッコ』などと呼ばれているのか?」
紫竜が髪をかき上げて笑う。
「カシムが付けてくれたんじゃ。良いじゃろう?」
コッコが得意げに言うが、実はただの勘違いでコッコと呼び出したんだ。
「わたくしにはリラ様が『ニーチェ』と名前を付けてくださった」
紫竜が得意げに胸を張って言う。
「あれか?ニーチェって確か哲学者の名前だよな?」
説明が終わったファーンが、こっちにやって来て会話に加わる。
「え~と、たしか『働くべきか、働かざるべきか。それが問題だ』って言った奴」
俺は意外な知識に感心する。
「よく知ってたな。だが、正確に言えばニーチェは哲学者にして経済学者でもあったんだ。労働者と非労働者との割合で、社会全体の経済がどう変化するのかを研究したんだ。そして、食べるために働くのか、社会奉仕のために働くのか、働く事の意義をどう考えるかによって、効率と、人の感じられる幸福度を研究したんだ。そして、それらを総合して発したのが、今ファーンが言った『働くべきか、働かざるべきか。それが(人の心の幸福によってどちらがより重要か)問題だ』という一言につながったんだ」
「なるほど・・・・・・。深いな。オレはてっきり、『出来れば働きたくないんだけどなぁ』って感情の吐露かと思ったよ」
ファーンが感心する。
「なるほど。そんな立派な由来があったのですか。これは感謝するよりありませんね」
紫竜こと、ニーチェは感動したように目頭を押さえる。
「しかし、アレだな。創世竜が人間の姿になれる秘密って、知ってる奴が増えたけど、大丈夫なのか?」
俺が尋ねると、ニーチェもコッコも難しい顔をする。
「う~む。良くは無い。これまでワシの知る限りでは、これを知っておるのはお主らぐらいじゃ。個人的には良いのじゃが、他の創世竜がどう思うかわからん」
「特にあのいかれた赤竜はどう反応するか予想できませんね」
赤竜って、創世竜からもいかれ扱いされてるほど危険なのかよ・・・・・・。
「でもさ。俺の仲間って、今は別行動してるけど、他にもランダとマイネーって奴がいるんだ。多分隠し続けるのは無理そうだぞ?」
「それは女性ではあるまいな?!?」
途端にニーチェが俺に殺気を放って睨む。
「男だよ!2人とも男!!」
もう一方的な妬みはやめてくれ。
「何だ、それならば良い」
なんでお前に許可求めなきゃいけないんだよ・・・・・・。
「そいつらは信用できるのか?」
コッコが確認する。俺は即座に頷く事が出来る。
「出来る。ランダは白竜と会った竜の眷属で、とても無口で冷静な判断が出来る男だ。マイネーは獣人国の大族長で、信用も信頼も出来る大人物だ。間違いなく他に吹聴する様な奴らじゃ無い」
俺の言葉を聞いて、コッコが頷いた。
「ならば良かろう。ワシはカシムの言葉を信じる。そいつらには話しても良いと、ワシは認めよう。・・・・・・おい」
コッコに睨まれて、ニーチェが「ヒッ」と声を上げる。
「わ、わたくしも認める!認めようとも!」
「ああ。ありがとう。少し安心したよ。仲間と情報共有できないのは、結構大変なんだよな」
俺は胸をなで下ろした。




