紫竜討伐 最強の暴君 6
「俺たちからは説明できないんだよ。何で付いてきてるのかも知らないし、話も通じないんだよ」
俺がエレナに説明する。
エレナは納得いかないらしく、ファーンやリラさんにも説明を求める。
だが、2人にも苦笑と首を振られて、「なんなんですか~~~」と呻いていた。
まあ、話があるなら向こうから接触してくるだろうし、用がなけりゃその内、お館に戻るだろう。残った女性たちの世話を焼かなきゃならないはずだからな。
それから3時間ほどした頃だった。
晴天だった空が、突然暗くなる。
ハッとして俺たちは空を見上げた。
「あ、あれは!!??」
俺は驚いて大きな声で叫んでしまった。
音もなく、風のゆらぎもなく、俺たちの上空100メートルほどのところを、巨大な黒い竜が通過したのである。
黒竜!?
何でこんなところに?
そう思ったが、俺は嬉しさが溢れた。
「黒竜!!」
会いたかった!本当に会いたかった!
すでに、とんでもない速度で南に向かって飛んで行っているが、俺はあらん限りの声を張り上げた。
「黒竜ーーーーーーーー!!!俺だーーーーー!カシムだぁぁぁーーーーー!!!」
普通は聞こえないだろうが、すぐに反応があった。
再び空に影が差し、見上げると、黒竜が上空で制止して巨大な目で地上の俺たちを見ていた。
「黒竜!!!」
『カ、カシム!?』
250メートルを超える巨体に、巨大な口から発せられた驚く黒竜の声は、大気を揺らして大地を揺るがせた。
馬たちが一斉に驚いてジタバタとするので、俺は馬から下りてなだめる。エレナは振り落とされそうになっていた。そもそも黒竜を見たのも初めてだろう。驚いて当たり前だな。
突然黒竜が消えた。
「黒竜?!」
驚いてみんなで空を見つめる。
「あれ?」
ミルが呟く。
「なんか降ってくる」
目をこらすと、確かに米粒みたいに小さい影が、徐々に大きくなって落ちてくる。
小さい何か生き物だ。あれは・・・・・・子犬?
俺は慌てて落ちてくる小さい子犬を受け止めようと、ワタワタする。
風に左右されながら、四肢を広げた子犬、あれはポメラニアンか?それがちぎれんばかりに尻尾を振りながら落ちてくるのだ。
俺は全技術を総動員させて、落下の衝撃を殺しながら子犬をキャッチする。
地面に仰向けに倒れながらキャッチに成功すると、その子犬は滅茶苦茶に興奮したように周囲を走り回りながら、千切れんばかりに尻尾を振っている。開いた口から舌がだらりと出て、「キャンキャン」ひたすら鳴いている。
この子犬・・・・・・黒竜だ。
「うわ!こいつ嬉ションしたぁ!!」
子犬は、走り回りながらおしっこをまき散らし、それが飛び散ってファーンの足に思いっきりひっかかっていた。
「落ち着けって、黒竜!俺も嬉しいから」
そう言いながら俺が両手を広げると、子犬が俺の胸に飛び込んできた。そして、抱っこされて嬉しそうにペロペロと俺の顔をなめる。
「あはははっ!可愛いぞ、コッコ!!」
子犬姿の黒竜を、俺もなで回す。
「ちょっと落ち着きなさい」
ヒョイッとリラさんにコッコを取られてしまった。
「今は犬なのは分かるし、それが可愛らしいのも事実だけど、あなた、黒竜よね?せめてコッコちゃんの姿になってもらえる?」
リラさんに言われて、子犬が一瞬シュンとしてから、姿が揺らいで人間の少女の姿になる。
「ぎゃああああっっ!なんすか?なんすかさっきから!!」
エレナが叫ぶが無視する。
現れた少女は、紛れもなくコッコで、またあの汚い黒い毛皮のような服、と言うかほとんど下着姿だった。靴も履いていない。
「カシムゥ!!会いたかったぞぉ!!」
そうして改めて俺に飛びついてきた。
「コッコォ!俺も会いたかったよ!」
俺とコッコはヒシッと抱き合う。
「みんなも元気だったかのう?!」
コッコがみんなを見回して、自分が知らない面子、アールとエレナがいる事にハタと気付く。
「あややややっ!?こやつらは誰じゃ?!」
「だ、誰はこっちのセリフなんですが!?」
エレナが完全に混乱して目を回しそうになっている。
「フフフ。コッコちゃんが自分からバラしちゃったんだから、私たちには責任ないわよね?」
リラさんがすかさず俺たちに非は無い事を伝える。
「あれから仲間が増えたんだ。アールとエレナだよ。よろしくな、コッコ」
しっかりと抱きしめながら俺は言う。
「コッコちゃ~~~ん!!」
ミルがコッコに飛びつく。
「おお~~~!ミルゥ!!会いたかったぞぉ!!」
コッコが俺の手から離れてミルと手を取り合って回り出す。テンションが高いな。そして、微笑ましい光景だ。
「オレもさ、会いたかったけど、ちょっと嬉ションはどうなの?」
濡れたズボンを見せながらファーンが言う。
すると、コッコは真っ赤になる。
「あ、あれは、演出じゃ!!犬ならするじゃろうが?!し、心配するな!多少匂うかも知れないが、結局はただの水じゃ!」
「いや。匂うんだったらそれションベンじゃん・・・・・・」
納得いかなそうにしているファーンは無視して、俺はコッコに尋ねる。
「それよりコッコはどうしてこんな所にいるんだ?」
俺が尋ねると、コッコが俺に向かってビシリと指を突きつける。
「カシム!お前の所為じゃ!!お前と会えんストレスが限界まで溜まったから、その発散のためにここまで来たんじゃ!!しかし、まさかここでお主らに会えるとは思わんかった!!」
コッコは滅茶苦茶ニコニコしている。
「ストレス発散って?」
ミルが尋ねると、コッコは得意そうに細い腕に力こぶを作る風にしてみせる。
「この先にのう」
コッコが南を指さす。俺たちが来た方向だ。
「紫竜が棲んでおるのじゃ!そいつをぶん殴って遊ぶんじゃ!!」
「ヒッ!!ヒィ!!」
小さな悲鳴にコッコも俺たちも、声の方を見る。




