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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十五巻 紫竜討伐
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紫竜討伐  討伐の決意 6

「それで、イリアさん。脱出希望者はどのくらいいるんですか?」

 問われて、イリアが表情を曇らせる。

「それが・・・・・・20人弱です」

「少なっっ!!??」

 エレナが驚きの声を出す。

「あ、でも、今の条件を聞いたら、もっと希望者増えるんじゃ無いっすか?」

 確かに今までは死の危険を伴っての脱出だった。だが、今回は危険無く脱出、解放してもらえる。それならばと希望する者も増えるのでは無いだろうか。

 しかし、イリアの反応は悪い。

「・・・・・・いえ。増えてもその人数は10人に満たないかと」

 イリアの発言に、リパックが言う。

「分かるよ~。ここって本当に居心地が良いし、快適だし、何不自由なく暮らせるもん。怪我も病気もすぐ治してくれるし、娯楽もある。だいたい、ここにいる連中の多くは生け贄にされたり、売られたり、家庭的に恵まれていなかったりと、外の世界に良い思い出の無い奴が多いんだよ」

 中にはイリアやバーバラのように、運悪く連れ去られた者もいるが、それでもここでの生活の快適さを味わったら、外の世界に出て、住む場所や、毎日の食事、仕事などの心配をしてまで行きたいとは思わないだろう。 

「かくいうボクも残留組だもん」

 そういうリパックに、リラが悲しげな視線を送る。

「ああ。今は差別がなくなってるそうだけど、ボクが外にいた時は、ハーフ・フットは迫害されていたんだ。獣人国でしか堂々と外を歩けないような生活だったんだ。盗んでも無いのに、盗人だっていって、捕まったら即死刑。そんな時代を生きてきたんだ。今更外に行きたいとは思わないよ」

 確かにそうだ。センス・シアを捕まえても、拘束する術は無い。牢獄は意味が無い。閉じ込めていても、いつの間にかいなくなっているのがセンス・シアだ。だから、釈放か死刑しかなかったそうだ。

 そんな時代しか知らないのなら、ここにいたがっても不思議では無い。

 リパックが魔法使いでは無い事は、この時にはリラたちも知っている。そんなリパックが四蓮華として大手を振っていたのは、目端が利く事をイリアに重宝されてのことだった。


「分かったわ。もちろん無理強いはしないわ」

 リラは頷くとイリアに言う。

「では、出発は明日の7時にします。それまでに、改めて希望者を確認して準備を進めておいてください」

 リラに言われて、イリアが頭を下げる。

「承知しました」

 イリアは四連華を連れて館に戻っていった。



「では、他にご用が無ければ、わたくしはこれで」

 ニーチェも立ち上がるが、リラが止める。

「ねえ、ニーチェ。あなたはアレがなんだか分かる?」

 リラは館の上に浮かぶエアを指さした。

 ニーチェは事もなげに答える。

「あれも精霊でございます。この周辺全体の空調をしております。光量もあれが調節しております」

「あれは超位精霊エアよね?」

 そう問われて、ニーチェは一瞬考える。

「・・・・・・ああ。そういうことでございますか。ハイエルフは生きたあれを超位精霊と言っているのでしたね」

 ニーチェは淡々と説明する。

「ハイエルフにしてみれば超位精霊でも、創世竜にとっては、自分の体のごく一部、もしくは、あふれ出たざんの様な物です。そもそも、この世界の精霊の全ては、生きていようと、生きていなかろうと、創世竜の残滓に過ぎません。ハイエルフたちは、それを利用させて貰っているだけなのです」

 初めて知る事実だが、それなら、創世竜の真の力というのはどれほどの物なのだろうか?もはや想像も付かない。

「それと、多分ハイエルフたちは知らないでしょうが、超位精霊?それに類する存在はもう一つあります」

「え?そうなの?」

 ニーチェは頷く。

「『ガイア』。地の精霊です」

 リラは思わず息をのむ。

「詳しいっすね~」

 多分内容を理解していないであろうエレナが感心して言う。

「そ、それは、紫竜様からお聞きしておりますし、この地にも生きてはおりませんがガイアがいて、それが地形を創ったり、火山をコントロールしておりますから」

 照れたのか、慌てて早口でそう言うと、モゴモゴと口ごもった。

「そ、それでは・・・・・・」

 今度こそニーチェはあたふたと館に帰っていった。

 が・・・・・・。

「あ、そうだニーチェ?」

 リラが言うと、ドスッと音がして、東屋の柱にニーチェがぶつかる。

 走っている時に、急に呼ばれたので、東屋に出現して、勢い止まらずぶつかったのだ。

「あ、ごめんなさい!大丈夫?」

 柱にぶつかって仰向けに倒れたニーチェを、リラが慌てて抱き起こす。

「ひ、ひい!!大丈夫でございます!!」

 ニーチェは慌てて飛び退る。

「それにしても、ずいぶんななさりようで・・・・・・」

 ブツブツと言う。

「あれ~~?リラさんに呼ばれたんだから嬉しいはずっすよね~?」

 エレナがニヤニヤ笑う。

「はっ!?も、もちろんでございます。わざわざお呼びいただき恐縮です!!」

 ニーチェは慌てて姿勢を正す。

「こら、エレナ。ニーチェをからかわないの!」

 言われてエレナはペロリと舌を出す。

「いえ!私が言ったのは、リラ様が私如きを抱き起こそうとなさるから、驚いてしまったのです!!」

 ニーチェは必死に言い訳をするが、リラが苦笑して止める。

「ごめんなさい。あなたも明日の7時に出発するので、大丈夫か確認し忘れていただけなんです」

 ニーチェは、取り繕うように落ち着いた態度でうやうやしく礼をする。

「もちろんでございます。皆様を山の外までお送りいたしますゆえ、ご安心くださいませ」

 そして、今度こそ館の中に入っていった。


「なんだか、トントン拍子に事が進みますね」

 エレナの言葉にリラも頷く。

「結局、紫竜は本当は何がしたかったのかしら」

 ふと、これまで孤独だったコッコの事を思い出さずに入れなかった。 




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