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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十四巻 二日間の戦い
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二日間の戦い  二日目の終了 4

 12月21日。22時50分。

 俺はピネカの町から限界を超えないように注意しながら圧蹴を繰り返して、時に休んで、時に歩いて、走って、ようやくイーラ村に到着した。250キロの距離を半日で走ってきた事になる。回復ポーションも、体力回復ポーションも、かなり消費してしまった。

 それでもさすがにクタクタである。

 

 村の門を護る村人は、俺を見るとこんな時間なのにすぐに門を開けてくれた。

 この頃はモンスターが増えているので、この村の人たちも武装して数カ所夜番を立てているようだ。

 この村を初めて訪れてから、まだ一年経っていないというのに、世界の様相はかなり変わってしまったように思う。皆がピリピリして、不安を抱いて生活しているようだ。

 暗黒の時代の到来を、誰もが予感しているのだろうか。

「カシム様!ようこそおいでくださいました!」

 見張りの村人が、嬉しそうに声を掛けてくれる。

「夜分に済みません。ヒシムさんに用があって来ました」

 俺がそう告げると、村人は笑顔で、「どうぞどうぞ」と答えてくれる。

 俺はこの人たちの生活を守るためにも、竜騎士にならねばならない。

 それは俺の覚悟だ。

 だが、紫竜に対して、俺はどう決断を下すか、その時まで分からない。


 だが、今はとにかく急がなければいけない。

 村の奥に一軒離れた家がある。そこがミルの実家であり、そこにミルの両親が住んでいる。

 やや気は乗らないが、背に腹は代えられないので、その家に急ぐ。

 村の中の、本当に一軒だけ離れた木立の中にその家がある。

 

 家に近づくと「そこで止まれ」と声が掛かる。

 家の屋根を見上げると、そこに1人の男が立っていた。

 さすがはハイエルフだ。俺の接近にはとっくに気付いていたようだ。

「俺です」

 そう言うと、男が屋根から音も無く飛び降りてきた。ハイエルフならではの身のこなしは、見とれてしまう程だった。

 だが、その男、全身派手な黄色い・・・・・・パジャマを着ていた。しかも同じく黄色いナイトキャップも被っている。

「何だ、カシム殿ではないでござるか。またしても拙者の尽力を所望なさるか?」

 ニヤニヤ笑う目の前のハイエルフ、ミルの父親ヒシムを見ると、なんとなく腹が立つ。美形の顔を醜く歪めて、いやらしく笑ってやがる。

 

 くっ。だが、今はごちゃごちゃやっている暇は無い。

「ヒシムさん。大至急俺を『暁明の里』に案内してほしい」

 前にも行ったエルフの大森林だが、やはり案内が無ければ暁明の里にたどり着く事は出来ないだろう。里にさえたどり着けば、この男の世話にはならない。

「いやでござるよ~~」

 即答だった。しかもご丁寧に舌まで出してやがる。マジでこいつガキだな・・・・・・。

 ミルはあんなに良い子なのに、この父親はなんて最低野郎なんだろう。母親もちょっとどころで無く変わっている。

 ミルはあんなに良い子なのに。まあ、軽い奇跡だな。

「それより拙者の愛娘はおらんでござるか?きっと父に会いたいと寂しがっているのでござろう?」

「それは旅の間、一度も聞いた事が無いセリフですな」

 つい言い返してやった。紛れもない事実を。

「嘘だ!こいつ嘘ついてやがる!!」

 ヒシムはムキになって地団駄を踏む。

 すると、ドアからミルの母親ネイルーラさんが出てくる。

 良かった。紫のパジャマだったら気が狂いそうだったが、普通の服を着ていた。

「あら?」

 小さい声で言うと、すぐにヒシムのそばに走り寄って、ひそひそとヒシムに耳打ちする。

 ちょっと慣れて話してくれるようになったはずなのに、相変わらず人見知りが激しい。

「え?お客さんだって?とんでもない!?こいつをウチに上げるつもりなんて無いよ~」

 何を言われたのかよく分かる。そして、ヒシムの性格の残念さも分かる。

「『ござる』が抜けてるな~」

 素の口調になっている事を指摘してやった。まあ、いちいち突っかかる俺も大概だと思うが・・・・・・。

「う、うるさいでござる!!お主、子どもか?!」

 すぐにヒシムも噛み付き返してくる。


 だが、今はそれどころじゃ無い。

「良いからすぐに案内して貰おう!今度はおふざけ無しだ!あんたの娘の命も掛かっているんだ!急いで俺を里まで案内してくれ!あんたが嫌ならネイルーラさんでも一向に構わない」

 イライラして怒鳴ってしまった。

 一瞬驚いたヒシムだが、すぐにムキになった。

「はっ?何を言って」

「カシムさん!今のはどういう意味ですか!?」

 ネイルーラさんが大きな声を出して俺に詰めかかる。

「すみません。紫竜と遭遇中に、俺だけ転送されてグラーダ国に飛ばされました。だから、ミルたちがどうなっているのか、俺には分かりません。だからすぐに紫竜の棲み家に戻らなくてはいけないんです。その為に、ハイエルフに伝わる転送術で俺を運んでほしいんです」

 俺は端的に状況を説明する。

「何ですって?!分かりました!すぐに行きましょう!」

 ネイルーラさんがそのままの勢いで走り出そうとするのを、ヒシムが止める。

「分かった!僕が行く!この時間は森の外周部にナイトメアが出る。君はこっちで村を護ってくれ。今度は僕が最短で里まで案内する!」

 その言葉にネイルーラさんは頷く。

「少しだけ待ってくれ」

 そう言うと、ヒシムは慌てて家に飛び込む。さすがに黄色いパジャマでは行けないか。

 まあ、そのままで同行されたんじゃ、こっちの気が散る。


「カシムさん、どうかお願いします」

 ネイルーラさんは、そう言うと、素早く回復魔法と移動速度向上の魔法を掛けてくれる。他にも暗視魔法とよく分からない補助(?)、もしくは防御(?)魔法を掛けてくれたようだ。

 分からないなりに、大分体が楽になった。

 ただ、疲労からの眠気ばかりはどうにもならない。ハイエルフは眠る必要が無い種族だから、眠気回復魔法などは無いのだろう。

 エルフの大森林に入ると、問答無用で眠らされてしまうから、この状態はかなり不安だ。だが、前回順応したんだから、まだその効果が残っていると信じよう。

 


 数分の後、出てきたヒシムは、あの黄色い変な服を着ていた・・・・・・。

 ああ、頭痛い。

「待たせたでござる!いざ迅速に里に参ろうぞ!」

 そう言うや、俺が付いてくるかを確認する事無く、全速で走り出す。

 さすがに速いが、時々圧蹴(光らない程度の)を交えると、難なく付いていく事が出来る。

 それを見て、一瞬嫌そうな顔をするヒシム。お前、何のために行くのかちゃんと分かっているんだろうな?時間さえあれば小一時間ほど説教したい。

 俺たちは、村の柵をひとっ飛びで跳び越えると、西にあるエルフの大森林に向かって、矢のように突き進んでいった。


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