二日間の戦い 第三回、世界会議 5
「そして、第三回目の総大将、ヴァルター将軍」
「は、はい」
ヴァルター将軍が、隣のロド軍師に一度視線を送ってから、グラーダ三世を見つめる。
「あの采配は卿のものでは無いのだろう?もしやロド師のものではないですかな?」
グラーダ三世はロド軍師に対して、丁寧な口を利く。これはグラーダ三世が成人する前の、武者修行の旅の最中に、ロド軍師に師事した事があったからである。
すると、ロド軍師が穏やかに笑う。
「いえいえ。あの策は我が弟子が考案した物です。まだ未熟な策ではございましたが、それなりに役には立ったようですな」
その言葉にグラーダ三世は素直に驚愕の表情を見せる。驚きの理由は複数あった。
まずは、「敗者軍師」の汚名を甘受して隠棲したロド・シューベルが、かつての師匠が、また弟子を取ったと言う事。そして、その弟子が立てた作戦だったと言う事である。
ロド軍師の性格からすると、弟子の案に対して、何か手助けや助言などしなかったであろう事は、グラーダ三世には容易に想像が付く。
「これは、素直に敬服する。その弟子を紹介していただきたい」
グラーダ三世が言うと、ロド軍師は小さく頷いた。
「では、後ほどお引き合わせしましょう。お目汚しになる事を先に詫びておきますわい」
グラーダ三世は頷き、再び視線をヴァルター将軍に向ける。
「して、その策を素直に受けたのだな?」
グラーダ三世の問に、ヴァルター将軍は頷く。
「はい。お恥ずかしながら、それ以上の策が思いつきませんでした」
「いや。それこそが将たる資質。良き策を良く用い、悪しき策を退ける。その眼と、胆力。卿が総大将で無かったら、決して用いられなかったであろう策である。見事であった」
グラーダ三世の評価は、アインザーク国王の評価と同じである。それ故に、アインザーク国王は、ヴァルター将軍に苦笑したのである。「実に将軍らしい」と。
最後に、エルカーサ国のマヌエル大将軍にグラーダ三世は視線を送る。
「実は、やや卿の置かれている立場は、現在複雑なのだ。だが、今はその事は置いておこう。何より、卿は・・・・・・どうも何も知らずにこの場に居るようだしな」
言い終えて、グラーダ三世は「クックックッ」と笑う。マヌエル大将軍は、戸惑うばかりである。
「まあ良い。第四回目の昨日の演習の総大将、マヌエル大将軍。私は、昨日、開戦から卿の策に対して失望と怒りを持っていた。だが、終わってから考え直した。確かに結果からすると下策に下策を重ねたな。
だが、考え方を変えてみれば、それは新しい策は無いか、より良い策は無いかと、貪欲に試した結果であると判断した。
これが実戦であったならば許されぬ失敗だが、今回は演習である。卿はそれを考えに入れた上で、前回の策を自分なりに再構築して、積極的に試験した。それによって得られた教訓は少なくない。その貪欲さもまた、将軍の資質である。無論、ただ無謀をすれば良い訳ではないので、次回はもう少し丁寧に作戦を練る事を期待しよう」
「は、ははぁ!!有り難き金言!!」
マヌエル大将軍は、平伏せんが勢いで頭を下げた。
「長くなったが、まとめると、今回の演習では、各回、それぞれの役割を全うし、様々な戦訓を得る事に成功した。それ故に想像以上に有意義な演習となった事を総評とする。以上だ」
そう言うと、グラーダ三世は自席に戻った。
その後、総大将を出した各国の代表者から一言ずつ評価の言葉を貰ったが、4人の総大将は、皆、グラーダ三世の有り様に感動し、敬服した。出来れば、グラーダ三世の元で軍を率いたいとさえ思ってしまっていた。
グラーダ三世は、暴君の様に世界中に印象づけられているが、その実、良く話を聞き、それぞれの人がその能力を生かせるように根気強く導くやり方を実践している。
そして、良い点があればしっかり評価し誉める。
失敗によって罰する場合でも、処罰の対象者の周辺の人々への影響も考慮する。
さらには悪名をわざと利用して、自らが悪役を演じる事も厭わない。
それがわかっている人たちは、グラーダ三世に心酔していくのだ。
「実に恐ろしき人たらしの名君か」
この会議の後に、四大将が酒を酌み交わした時の会話である。
「否である。ただの一言で魂を鷲掴みにしたのだ。あれはまさしく暴君である」
議題は進み、前回の世界会議での決定事項の再確認と、新たに変更や、修正された箇所の報告、それと、各国の予算割り当てなど報告された。
そして、再びリンス女史がグラーダ三世を指名する。
報告が続いたので、かなり飽きてきて、眠そうな態度であった。
議台に立ったグラーダ三世が、発言の前に深呼吸をひとつした。
緊張した様子のグラーダ三世など、皆が初めて見る。それだけ、今から話される内容が恐ろしい物であるのだと皆が悟った。




