二日間の戦い 第三回、世界会議 4
そして、リンス女史が議事を進める。
「では、グレンネック国のゴルダート十四世」
指名されて立ち上がったグレンネック国王は、紹介の仕方が無礼であると、ブツブツ文句を言っていたが、グラーダ三世が文句を言わなかったので、リンス女史を非難する事が出来なかった。
それでも議台に上がると、嬉しそうに発言を開始した。
「ええ~~~。各国の代表者の諸君。我が偉大なる歴史あるグレンネックに足を運んで貰った事は嬉しく思う。是非我が国の歴史と文化から様々な事を学んでいって欲しい。本来であれば宮殿にて諸君等を歓待したかったのだが、如何せん、演習直後に会議を行う日程となっていたため、こんなつまらぬ場所で行わざるを得なかった事、誠に残念である。そして、我が国の伝統的な料理の数々を振る舞う予定であった。その為に国中の料理人を招集して、一ヶ月の祝宴を開く事が我が望みであった事は、ここに示しておかねばならない。なんと言っても我が国の料理は世界で最も種類が多く、地域によって扱われる調味料、食材、さらに調理器具も違っている。特にワシの好物は『ゼルファー・タート』。牛肉の赤身をワインのソースで柔らか~~く煮込んだ料理である。それに良く合うルヴァンス地方の赤ワイン。だが、この様な場所では、そこまでの歓待が出来ないのが無念である。であるから、会議終了後には是非とも王都まで足を運んでいただきたいと願っている。さらに我が国では」
「長い」
「ゴルダート十四世。ありがとうございました」
グラーダ三世の一言に、被せるようにリンス女子が反応して、強引に議題を進める。
まだまだ発言したかったグレンネック国王は、憮然とした表情で口を閉じて、肩を怒らせながら、ドタドタと自席に戻った。
もっとも、放っておけば、これから一時間以上グレンネック国を賛美する話しを聞かされる事になっていただろう。
「では、演習の総評を。グラーダ三世」
リンス女史に指名されて、再びグラーダ三世が議台に立つ。
「では、改めて、大合同軍事演習の総評を行う」
グラーダ三世の発言に、将軍たちの顔に緊張が走る。
「最初に結論から言うと、私自身は、今回の演習での各将軍たちの奮闘に大変満足している。実に素晴らしい働きをそれぞれ見せていただいた。流石、各国を代表する名将たちであった」
手放しで誉められた事に、将軍たちは驚きの色を隠せない。
手が上がる。
「はい。え~~と、そこの将軍」
リンス女史に指を刺されたのは、クルエルナ国のロジョラ上級大将だった。リンス女史は、どの将軍がどこの国の誰かを覚えていない上に、手元の席次表を確認する手間を惜しんだ。
「私はクルエルナ国のマルコ・ロジョラです」
各国の代表者も居るので、まず名乗ってからロジョラ上級大将が立ち上がった。表情は極めて渋い。怒りと悔しさをかみ殺している。
「グラーダ陛下のお言葉には、いささか承服致しかねる。無論誉めて貰ったとは受け止めているが、僅か3人の敵に対して、我等65万の軍団は、為す術無く翻弄されて、弄ばれただけである。私自身、何か成し得た気などまるで無い。出来ればグラーダ陛下のお心の内をお教え願いたい」
言うなり、ロジョラ上級大将は腕を組んでドッカと座る。
「グラーダ三世」
発言を促されたグラーダ三世は、やや苦笑しながらも、ロジョラ上級大将の鋭い視線を真っ正面から受け止めると、小さく頷いた。
「無論話そう。
私が今回の演習で諸君等に期待していた事は、ただ1つだった。それは、『魔王の脅威』の体感である。それには私1人では役者不足であったため、アポロン様とエクセル様にもご協力いただいた。だが、実際の魔王は、この3人の力を合わせたよりも遥かに強力だと思って貰いたい。故に、まずは絶望を世界各国が、共通認識として持っていて貰いたかったのだ。分かるか?本来であれば、我等は諸君等に絶望的な戦闘力の差を見せつける事が第一の目標だったのだ。
だが、実際はどうだ?心折れる事無く、第四回の演習まで戦い抜いてくれた。これは思わぬ誤算だった」
周囲がざわつく。「魔王」の力が、それ程までだとは、以前にも聞いていたが、実際にはイメージ出来ていなかった事に気付いたからである。そして、そんな魔王が、地獄には数十万、数百万は最低でもいるらしい。
「ふむ。衝撃を受けるのが早かったか?だが、後に話す衝撃は、更に驚愕する事実だと覚悟せよ」
グラーダ三世が笑う。これまではごく一部の人としか共有する事が叶わなかった秘密をいよいよ公然とする時が来たのだ。もう、1人でこの重圧と戦わなくて済むと思うと、早く全てを明らかにしたかった。それはグラーダ三世の偽らざる心境であった。
「話を戻そう。まずは第一回目の総大将、グレンネック国のグッド総帥」
グラーダ三世に呼ばれて、青い顔をしたまま背筋を伸ばす。
「総帥は、各国から寄せ集められた兵士を、よくぞ短期間で集団として機能出来るように持ってきた。これは私の予測の外であった。国や地域に関係なく、有機的に機能出来るよう編成し直して、実際に運用した手腕は見事であった」
「は、ははーー!!」
グッド総帥は、感極まって涙をこぼす。
「次に、第二回目の総大将、ロジョラ上級大将」
ロジョラ上級大将は、無言でグラーダ三世を見つめる。
「私は最初、卿を期待外れだったと思っていた。だが、第三回目の演習で、卿がいかに優れた人物であったかを知った。卿は、個人的な栄誉や、名誉、手柄を一切捨てて、合同軍全体の、そして、第四回までの演習全てを見据えて、己が最適と思う行動をした。恐らくは自身でも考え、実行してみたかった作戦があったはずだ。だが、自分の回を捨てて、その間第三回目の演習に費やすべく戦力を整えた。準備した。これは普通は出来る事ではない。
それ故に、一時とは言え、卿を見誤った私を許して欲しい」
そう言うと、グラーダ三世は実際にロジョラ上級大将に一礼する。
「む・・・・・・むう」
見る間にロジョラ上級大将の顔が上気する。咳払いなどするが、頬が痙攣しているので、嬉しさを堪えるのに努力しているのだろう。




