二日間の戦い 第三回、世界会議 1
時は変わらず12月21日。
時間は8時。
場所はグラーダ国最南東の町ピネカ。
カシムの奮戦に刺激された街道守備隊と、冒険者たちは、町の防衛から一転して防壁の外に打って出た。
そもそも、すでに防壁は意味を成さず、町の中にもモンスター軍が侵入して来始めていた。
住民はすでに一カ所に避難している。そこを最終防衛ラインとして、戦える住人が守備して、他の戦力は町の外に沢山居るモンスター軍本隊を叩く行動に出たのだ。
「ペンダートンに続け!!!」
「竜騎士の加護の元!!!」
「カシムに!!」
「カシムに!!」
兵士も、冒険者たちも、口々に叫びながら、モンスター軍の中に突撃していく。
カシムはそれを見て、危険な圧蹴の連続使用をやめて、合流する。
「さすが竜の団!!魔王退治は嘘では無かったようですね!!」
ドワイトがすぐに駈け寄ってきて、カシムを援護しながら笑う。
カシムは「魔王退治」と聞いて、一瞬顔をしかめる。「ウンコの英雄」の記事は訂正されて、真の魔王退治の功労者とされたが、おかげで再び「ウンコの英雄」としばらく言われていた。
どうせなら新しい称号「魔神殺し」で呼ばれたかった。こっちは間違い無く自分の力で勝ち取った称号だ。
そんなカシムの心境に、ドワイトは当然気付かない。
「今のカシム殿は、祖父である白銀の騎士の姿に重なりますぞ!!」
それは流石に言い過ぎだとは思うが、悪い気はしなかった。カシムにとっても白銀の騎士は憧れの存在である。
「回復魔導師を!」
カシムが叫ぶ。
「どこかお怪我でも?」
見たところ無傷なカシムに、ドワイトは尋ねる。
「ちょっと無理をしている」
圧蹴の連続使用は、知らぬ間にダメージを蓄積している。昨日の失敗で、限界が近い事をカシムは把握していた。
肉体の限界が来る前に、しっかり回復しておかなければ危険である。
「では一度町にお戻り下さい!その間、我々が支えます」
「頼む」
それだけ言うと、再び圧蹴して、閃光を発しながら町に戻っていった。
カシムは途中で町に入り込んでいるモンスターを切り捨てながら最終防衛ラインの町長の邸宅に向かう。
町長の邸宅はかなり豪華で、背は低いが石造りの壁が四方を囲んでいた。
背の低いゴブリン程度なら、背の低い壁でも、充分役に立つ。
コボルトや、トロルが来たら流石にひとたまりも無い。
「トロルを倒すのが優先だな」
空を飛んでいるハーピィーは、今は無視する事にする。とは言え、唾だけは細心の注意を払って避けなければシャレにならない。
「ご苦労様です!」
邸宅に着くと、守備をしていた住人が、すぐに門を開けてくれた。
敷地内には所狭しと町民や、この街に滞在していた人たちが座り込んでいた。
その中で、昨日治療してくれた金リボン持ちの回復魔導師のセンス・シアの男性が人を避けながら駈け寄ってきてくれた。
「お兄ちゃん、また怪我したのかい?」
絶対にカシムより年上であろう幼子が、カシムの足にとびついてくる。それだけ見れば、あどけないのだが、相手はセンス・シアだからたちが悪い。
足にしがみついて腰をカクカク振って爆笑する。
「お兄ちゃん変態だね~~~!!」
『変態はお前らだ』
そう思ったが、カシムは治療を頼む。
金リボン持ちの回復魔導師は、最高位の称号だけあって、圧蹴で身体内に蓄積されたダメージも、疲労も、すっかり治してくれた。
カシムはお礼に最高級のマナポーションを渡す。
「うわ~~~!これはキマるぞ~~~!!」
怪しげな事を言いながら、センス・シアは笑った。
回復すると、カシムはすぐに攻勢に出る。
まずはトロルの殲滅だ。町の施設への被害を抑えるには、まずはトロルを殲滅し、次に後方に居るゴブリンロードを倒す事だ。
ゴブリンロードさえ倒せば、恐らくモンスター軍は、集団としての統制は取れなくなる。そうなれば、余所に行ってしまうモンスターも居るだろうが、少なくともこの町は救われる。
残党狩りは、それこそ、他の冒険者や、街道警備隊に任せられる。
トロルの集団は、町の北西にいる。
再び閃光と化したカシムは複雑な軌跡を描きながら、モンスター軍の真っ只中を駆け抜けて、トロルに肉薄する。
そこで、敢えて圧蹴をやめてトロルと対峙する。
突然目の前に出現したカシムに対してのトロルの反応は遅い。
少し戸惑った末に、ようやく巨大な鉄の斧を振り上げてカシム目がけて振り降ろした。
カシムはその斧を竜牙剣で受け止めて、まるで斧が紙であるかのように真っ二つに切断して見せた。
そして、トロルの腕を踏み台にして飛び上がり、頭頂部から股下まで、一気に切り下ろす。返り血を浴びないようにすぐに跳び退ると、トロルも斧同様に、綺麗に真っ二つに切断されて2つの地響きと共に地面に崩れ落ちる。
この一連の戦いを見た兵士や冒険者たちは、勇気付けられて雄叫びを上げる。
「うおおおおおおおおおおっっ!!!」
「カシムに続け!!」
「カシムに続け!!!」
カシムは更にもう一体トロルを倒すが、その時後方に居たゴブリンロードの部隊が撤退する動きを見せた。
その為、残りのトロルを冒険者たちに任せて、ドワイトたち街道警備隊と共に、ゴブリンロードの部隊を追う。
カシムはすぐにゴブリンロードの部隊に追いつき、その気になれば、投擲一閃でゴブリンロードを倒す事も出来たが、ある程度部隊が纏まっている内にモンスターの数を減らす必要があるため、徐々に戦力を削いでいく作戦に出た。
ピネカの町の戦いは、そうして12月21日の正午まで続いて、ゴブリンロードの討伐で、一応の幕を閉じた。
その頃になって、ようやく街道守備隊の援軍が300騎到着した。
そこで、カシムはモンスターの残党狩りを街道警備隊に任せて町に帰還する。
そして、再び回復魔法を掛けて貰うと、休む間もなく、閃光と化してイーラ村を目指して走り出した。




