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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十四巻 二日間の戦い
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二日間の戦い  第三回、世界会議 1

 時は変わらず12月21日。

 時間は8時。

 場所はグラーダ国最南東の町ピネカ。


 カシムの奮戦に刺激された街道守備隊と、冒険者たちは、町の防衛から一転して防壁の外に打って出た。

 そもそも、すでに防壁は意味を成さず、町の中にもモンスター軍が侵入して来始めていた。

 住民はすでに一カ所に避難している。そこを最終防衛ラインとして、戦える住人が守備して、他の戦力は町の外に沢山居るモンスター軍本隊を叩く行動に出たのだ。


「ペンダートンに続け!!!」

「竜騎士の加護の元!!!」

「カシムに!!」

「カシムに!!」

 兵士も、冒険者たちも、口々に叫びながら、モンスター軍の中に突撃していく。


 カシムはそれを見て、危険な圧蹴の連続使用をやめて、合流する。

「さすが竜の団!!魔王退治は嘘では無かったようですね!!」

 ドワイトがすぐに駈け寄ってきて、カシムを援護しながら笑う。

 カシムは「魔王退治」と聞いて、一瞬顔をしかめる。「ウンコの英雄」の記事は訂正されて、真の魔王退治の功労者とされたが、おかげで再び「ウンコの英雄」としばらく言われていた。

 どうせなら新しい称号「魔神殺し」で呼ばれたかった。こっちは間違い無く自分の力で勝ち取った称号だ。


 そんなカシムの心境に、ドワイトは当然気付かない。

「今のカシム殿は、祖父である白銀の騎士の姿に重なりますぞ!!」

 それは流石に言い過ぎだとは思うが、悪い気はしなかった。カシムにとっても白銀の騎士は憧れの存在である。

「回復魔導師を!」

 カシムが叫ぶ。

「どこかお怪我でも?」

 見たところ無傷なカシムに、ドワイトは尋ねる。

「ちょっと無理をしている」

 圧蹴の連続使用は、知らぬ間にダメージを蓄積している。昨日の失敗で、限界が近い事をカシムは把握していた。

 肉体の限界が来る前に、しっかり回復しておかなければ危険である。

「では一度町にお戻り下さい!その間、我々が支えます」

「頼む」

 それだけ言うと、再び圧蹴して、閃光を発しながら町に戻っていった。

 


 カシムは途中で町に入り込んでいるモンスターを切り捨てながら最終防衛ラインの町長の邸宅に向かう。

 町長の邸宅はかなり豪華で、背は低いが石造りの壁が四方を囲んでいた。

 背の低いゴブリン程度なら、背の低い壁でも、充分役に立つ。

 コボルトや、トロルが来たら流石にひとたまりも無い。

「トロルを倒すのが優先だな」

 空を飛んでいるハーピィーは、今は無視する事にする。とは言え、唾だけは細心の注意を払って避けなければシャレにならない。

「ご苦労様です!」

 邸宅に着くと、守備をしていた住人が、すぐに門を開けてくれた。

 敷地内には所狭しと町民や、この街に滞在していた人たちが座り込んでいた。

 その中で、昨日治療してくれた金リボン持ちの回復魔導師のセンス・シアの男性が人を避けながら駈け寄ってきてくれた。

「お兄ちゃん、また怪我したのかい?」

 絶対にカシムより年上であろう幼子が、カシムの足にとびついてくる。それだけ見れば、あどけないのだが、相手はセンス・シアだからたちが悪い。

 足にしがみついて腰をカクカク振って爆笑する。

「お兄ちゃん変態だね~~~!!」

『変態はお前らだ』

 そう思ったが、カシムは治療を頼む。


 金リボン持ちの回復魔導師は、最高位の称号だけあって、圧蹴で身体内に蓄積されたダメージも、疲労も、すっかり治してくれた。

 カシムはお礼に最高級のマナポーションを渡す。

「うわ~~~!これはキマるぞ~~~!!」

 怪しげな事を言いながら、センス・シアは笑った。



 回復すると、カシムはすぐに攻勢に出る。

 まずはトロルの殲滅だ。町の施設への被害を抑えるには、まずはトロルを殲滅し、次に後方に居るゴブリンロードを倒す事だ。

 ゴブリンロードさえ倒せば、恐らくモンスター軍は、集団としての統制は取れなくなる。そうなれば、余所に行ってしまうモンスターも居るだろうが、少なくともこの町は救われる。

 残党狩りは、それこそ、他の冒険者や、街道警備隊に任せられる。


 トロルの集団は、町の北西にいる。

 再び閃光と化したカシムは複雑な軌跡を描きながら、モンスター軍の真っ只中を駆け抜けて、トロルに肉薄する。

 そこで、敢えて圧蹴をやめてトロルと対峙する。

 突然目の前に出現したカシムに対してのトロルの反応は遅い。

 少し戸惑った末に、ようやく巨大な鉄の斧を振り上げてカシム目がけて振り降ろした。

 カシムはその斧を竜牙剣で受け止めて、まるで斧が紙であるかのように真っ二つに切断して見せた。

 そして、トロルの腕を踏み台にして飛び上がり、頭頂部から股下まで、一気に切り下ろす。返り血を浴びないようにすぐに跳び退ると、トロルも斧同様に、綺麗に真っ二つに切断されて2つの地響きと共に地面に崩れ落ちる。


 この一連の戦いを見た兵士や冒険者たちは、勇気付けられて雄叫びを上げる。

「うおおおおおおおおおおっっ!!!」

「カシムに続け!!」

「カシムに続け!!!」

 

 カシムは更にもう一体トロルを倒すが、その時後方に居たゴブリンロードの部隊が撤退する動きを見せた。

 その為、残りのトロルを冒険者たちに任せて、ドワイトたち街道警備隊と共に、ゴブリンロードの部隊を追う。

 カシムはすぐにゴブリンロードの部隊に追いつき、その気になれば、投擲一閃でゴブリンロードを倒す事も出来たが、ある程度部隊が纏まっている内にモンスターの数を減らす必要があるため、徐々に戦力を削いでいく作戦に出た。



 ピネカの町の戦いは、そうして12月21日の正午まで続いて、ゴブリンロードの討伐で、一応の幕を閉じた。

 その頃になって、ようやく街道守備隊の援軍が300騎到着した。

 そこで、カシムはモンスターの残党狩りを街道警備隊に任せて町に帰還する。

 そして、再び回復魔法を掛けて貰うと、休む間もなく、閃光と化してイーラ村を目指して走り出した。


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