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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十四巻 二日間の戦い
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二日間の戦い  12月21日 5

「ちょっと失礼します。私、その方にお話がありますので」

 リーザを見下ろして笑う女性たちに一言告げると、リラはリーザの手を取って立ち上がらせる。

「私たちも食事に来たところなの。良かったらご一緒しませんか?」

 リラは穏やかにリーザに語りかけると手を取ったまま、女性たちに目もくれずに歩き去る。

「ちょっと、あなた」

 言いかける女性に、リラの後ろから付いてきたエレナがジロリと睨んで黙らせる。

 一目見ただけで獣人族の戦士と分かる恰好をしているエレナに、ただの人間の年配の女性たちは反撃の糸口さえ見つけ出せず、小さく舌打ちをするのが精一杯だった。


 リラは戸惑うリーザの手を取ったまま、スルスルと長机の間を通り抜けて行く。

 それを周囲の女性たちは訝しげに眺める。途中で差し出される足があったが、優雅なステップでリラはその足を踏んづけていった。

「ぎゃっ!?」

 足を踏まれた女性が立ち上がって文句を言おうとしたが、その直後「ボキッ!」と音がして、リラの後ろから来たエレナに足の甲の骨を踏み砕かれて、声も出せずに悶絶、ついでに失禁した。  


「こっちが空いているわ」

 リラはリーザを誘導して、長机の列を抜けて、個別のテーブルが並ぶエリアに来た。

「あ、あの・・・・・・」

 リーザは戸惑いながら、ようやく声を発した。

「あなた、リーザさんね。私、ジト村であなたの事を聞きました。良かったら仲良くして下さい」

 リラは、穏やかにリーザに微笑みかける。

 リーザは、ジト村の名前が出た事で、ホッとしたような表情をする。

 この館には、十年に一度生け贄としてジト村から連れられてくるので、他にもジト村出身の人が居るだろうが、見たところ、リーザに手を差し伸べる人はいなかった。

 皆、自分がいじめのターゲットにされる事を避ける為に、関わらないか、自らもいじめる側に回るのである。


 新しく入ってきたリラは、どうも冒険者らしいし、獣人の戦士まで側に居るから手が出しづらいのだろう。その為、周囲の女性たちは、3人がどう動くのかを見守っている。


「ここが空いてますね。ここで食事にしましょう」

 リラはちょうど誰も座っていなかった4人掛けのテーブルの椅子に腰を降ろした。

「あ、あの、ここ」

 リーザの表情が見る間に青ざめる。

 だが、エレナもドカッと椅子に腰を降ろすと、にっこり笑う。

「いやー!ここは臭い婆さんばっかりでうんざりしていたんですが、リーザさんみたいな素敵な人が居るのを見て安心しましたよ~!」

 周囲にも聞こえる声で、エレナがあっけらかんと言う。悪気は無いらしいが、流石に言葉が過ぎる。リラが咎めるように口を尖らせる。

「エレナ!」

 リラに咎められて、エレナは慌てて口を押さえて、首をすくめる。

「えへへ~。すいません」

 2人のやり取りに対しても慌てるが、それ以上にリーザはこの席に2人が座っている事に対して恐怖している。

「あの!!」

 意を決したように、リーザが比較的大きな声を出す。

 だが、その時、別の方向からも2人に声が掛かった。


「あら?ここは私たちの席なのよ。何なの、あなたたち?」

 鼻につくような底意地の悪い口調である。

 見ると、エルフの女性が、薄緑の長衣を着て立っている。

 完全に見下すような見方でリラとエレナを見ている。冷たい眼差しと、不快そうに歪めた口の端。それでいて、エルフらしい優雅なたたずまいだった。

「うわ。エルフっぽいエルフの人来た!?」

 エレナが思わず呟く。

 エルフは高慢で他種族を見下す事が多い。

 エレナの呟きは、耳の良いエルフには当然聞こえているので、ジロリとエレナを睨む。睨まれると、エレナの闘争本能に火が付き、負けじと睨み返す。

 だが、どう見てもこのエルフは、高位の魔法使いである。

 若く見えるが、恐らく100歳は越えているだろう。

「何だよ。随分やる気のガキがいるじゃねぇか」

 エルフに続いてやって来たのは、背が高く、体格も良い女性で、年は40歳手前だが、凶暴な雰囲気を持っている。エルフに合わせて、オレンジ色の長衣を身に付けている。

 エレナはすぐにその女性が獣人だと見抜く。身のこなしから戦士で、今も鍛錬は欠かしていないのだろう。

 それでもエレナは負けじと睨み返す。エレナは現役の戦士である。

 

 リーザはその場にへたり込みそうになりながらも、震える足を懸命に踏ん張って耐えていた。

 リラは一見穏やかな笑顔ですまして座っている。

 エレナにしてみれば、目の前のエルフよりも、獣人の元戦士よりも、そんなリラの方がよっぽど恐ろしい。

『これはかなり怒ってるぞ~~~』


 次に長身の女性の足元に、幼い少女がやってくる。

「やだやだ。無知、無謀、不細工の三拍子揃ったお馬鹿さんは困った物だね~。あ、『馬鹿』を入れたら四拍子か!」

 センス・シアだろう。フワフワの巻き毛に、幼い見た目、よく見れば瞳孔が十字に切れている。

 センス・シアも幼い外見のまま、容姿がほとんど変わらない長命種である。もしかしたらエルフ同様100歳を越えているのかもしれない。ただし、このセンス・シアが魔法使いだというなら、ここに来てからの年数は30年を越えることはないだろう。なぜなら、魔法改革以前のセンス・シアは、魔法適性が非常に高いことを誰も知らなかったからである。


「さっさとそこを空けな!そこはあたいたち、『四連華しれんげ』の席なんだ!どかなければ痛い目見るだけじゃすまないよ~」

 センス・シアがニヤリと笑う。


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