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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十四巻 二日間の戦い
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二日間の戦い  戦闘、戦闘、戦闘 6

 大合同軍事演習は、最終局面に移っていた。

 と言っても、開始から一時間しか経っていない。

「おいおい。このままじゃ俺たちの出番は無いんじゃないか?」

 オグマが馬上で呻る。

 その横でキースが呆れたような顔をする。

「そうかも知れないが、何でお前がここにいる?俺の順番のはずだが?」

「兄者とて、先の戦いに勝手に参戦したでは無いか。細かい事は気にするな!」

「むう。だが、殿の許可は取ったのか?」

 キースが窘めるが、自分も前回許可を取らずに行動している。

「内緒だ。その方が殿の意表を突けるかもしれんだろ?」

 オグマは自信ありそうに言うが、前回のキースの参戦も、たいして意表を突いていなかった気がする。

 それに、オグマが危惧するように、すでに大勢たいせいは決しており、ここからオグマたちのいる桜火騎士団の出番はなさそうだった。

 エルカーサ国のマヌエル総大将は、グラーダ軍の攻撃力の高さを見込んで、(とど)めの局面で使用する鉄槌として後方に配置していた。すでに前線も中盤も壊滅した状態で、今更後詰めの軍を動かす意味など無い。

 今も戦闘が続いているのは、第一に、グラーダ三世が存分に被害を与えようとして暴れているからであるが、第二には、総大将のいるエルカーサ軍も中堅で壊滅しているためである。誰も撤退の命令が下せなくなっているのだ。

「・・・・・・戦いたくはあるが」

 オグマが口ごもる。

「そうだな。ここで突貫したら、殿はメチャクチャ怒るだろうなぁ~~」

 無能と無謀をグラーダ三世に見せる訳にはいかない。

「お二方が納得してくれたなら、我等桜火騎士団は後退を始めますぞ」

 苦笑しながらホルガー将軍が2人に承諾を求める。

「・・・・・・あい分かった」 

 キースが不承不承承知する。



◇    ◇



 所変わって、ここはエルカーサ国を盟主として集まった反逆連合軍が布陣するザネク国のイシュファード要塞前面。

 75万の超大軍勢が、数百メートルまで迫ったグラーダ国との国境に向かって、ゆっくりと進軍しているところである。

 

 その頃には、すでに大合同軍事訓練の結果が総大将をしているマルーオ・ディエッタ大元帥の耳にも届いていた。

 ディエッタ大元帥は大量の冷や汗と、ねじ切れそうな胃の痛みに耐えながら、辛うじて全軍を前進させていた。

『良いのか?本当に良いのか?今ならまだ間に合うかもしれん。国境を越えたら、本当に取り返しの付かない事になるぞ・・・・・・』

 目の前に迫る国境の標識。

 そして、それを挟んだ先に展開しているのはグラーダ国軍の「一位」、堅雄ガルナッシュの軍団である。

 その軍団は、75万の大軍勢が迫ってきているというのに、のんびりと地面に座ってお茶を飲んだり、馬にブラッシングをしたりしてくつろいでいる様に見える。

 その背後に、何やら恐ろしげな荷車がチラチラといくつも見えているし、その荷車だけが、さっきから微妙に移動を繰り返している。

 荷車には、布が掛けられた何かの荷物が載せられているが、あれは間違いなくとんでもない威力を持った、グラーダ国の新兵器なのだろう。なんと言っても、グラーダ国には世界最高の研究機関であるアカデミーがある上に、最近ではハイエルフとも交流を持っているとか・・・・・・。

 だからこその余裕で、のんびり構えて、我等が射程に入るのを待っているのだ。


『この場での勝利さえも危ういと言うのか?』

 ディエッタ大元帥は疑心暗鬼が止まらない。

 ディエッタ大元帥も軍人である。

 己の命であれば惜しまない。だが、これ程の軍隊の兵士たちの命、他国の軍の命も預かっている。

 自国の運命も、参加国の運命も、自らの両肩に掛かっている。

 しかも、最終的には惨敗する事が決定した戦いなのだ。

 国境を越えたら、全ての参加国の運命が決してしまう。

 己の名誉と命を賭けて、ここで止まるべきなのではないか?

 理性ではそうせよと告げている。感情でもそれは同様だった。名誉であれば、このまま突入した場合、歴史的には愚かな大元帥として後世まで笑いぐさとなり、その名は泥にまみれるであろう。

 命であっても、どのみち助からないのだ。


 だが、ここまで来て圧倒的な少数の兵に臆して、この大軍勢を止める事が出来るとは思えない。例え、一国であっても、一兵であってもグラーダ国に入ってしまえば、全てが終わる。

 全軍が戦闘を諦めるような事が起こらない限り、いや、少しでも躊躇するような事が起こらない限りは無理だろう。


 要は、少しでも躊躇するような何かが起きて欲しいのだ。

 にもかかわらず。グラーダ軍は完全に油断しきっていて、こちらを刺激してこない。

 戦闘を中止するきっかけをくれないのだ。


 周囲を見まわすと、ディエッタ大元帥のように青い顔をして迷っている将軍も少なくないが、疑心暗鬼ながら、圧倒的な少数を目の前に、一戦場での勝利に目が眩んだ様子の将軍もいる。

 多分ここで止めても、彼らだけで国境を越えてしまう事は明らかである。

 そうなったら、参加国全てが同罪である。であるならば、億に一つの可能性に掛けるしか無いのだろうか・・・・・・。



 ジリジリと国境が近づいてくる。

 

 その時である。

 どこからか、賑やかな太鼓の音や、笛の音が聞こえてきた。

 75万の軍勢の足音が響く中でもしっかり耳に届くからには、太鼓の数も、笛の数もかなり多いのだろう。

 音は、国境向こうの南にある、街道から聞こえてくる。

 ちょうど林が道を遮っていて見えないが、少しすると、林の端から、ゾロゾロと人がやってくるのが見えた。

 やってくる人たちは、皆徒歩で、一切の武器、防具を身につけていないので、集団旅行でもしているかのようだ。楽しげに、音楽を演奏しながら、それに合わせて踊ったりしながら北上してくる。

 このまま北上すると、ちょうどグラーダ軍と反逆連合軍との間に入り込む形となる。



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