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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十四巻 二日間の戦い
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二日間の戦い  戦闘、戦闘、戦闘 2

 12月20日、10時00分。

 飛び去っていった紫竜を、ファーンは呆然と見つめる事しか出来なかった。

「ど、どうしよう?!リラとファーンが捕まっちゃったよぉ!!」

 ミルが叫ぶ。

「に、兄様が・・・・・・」

 アールは力なく地面に膝を付く。

「くそ。・・・・・・どうすれば良いんだよ」

 ファーンは頭を抱える。何をどうしたら良いのか、さっぱり分からない。

 リラとエレナを助けに行くべきか。カシムを探した方が良いのか。逃げ帰った方が良いのか。

 今までもパーティーの方針に決定を下す事はあった。だが、その時には、カシムが全体の指揮を執ってくれていたり、カシム不在の時はリラが助け船を出してくれていた。

 明確に決まっている訳では無いが、ファーンはサブリーダーの立ち位置である。

 こんな時にこそ、自分が明確に判断しなければならない。

 気持ちとしては、すぐにでもリラとエレナを助けに行きたい。

「だけど・・・・・・」

 このメンバーで紫竜の住処に突入するのはあまりにも無謀である。ファーンだけならともかく、ミルとアールを無駄に死なせてしまう。

 カシムがどこに行ったか分からないが、必ずここに戻って来るはずだ。

 その時に誰もいなくなっていたらどうなる?ミルとアールが欠けていたらどうなる?

 あいつの悲しみと苦しみは計り知れないだろう。それはダメだ。それは許せない。


「ミル、アール。撤退だ」

 ファーンは決断を下す。

「え?でもリラとエレナは?!」

 ミルが叫ぶ。

 アールは無表情でファーンを見上げる。ただ、その焦点が合っていない。見た目だけじゃ分からない程の恐怖と苦痛を、今アールは味わっているのだろう。今にも自決しそうな雰囲気が漂っている。

「分かってる。だけど、多分2人は当面は無事なはずだ」

 ファーンは頭をフル回転させながら答える。本当はファーン自身、かなりパニックになっているのにである。

「紫竜の言葉が、イマイチ腑に落ちない。あと、何とは言えないけど、何か違和感があるんだ」

 本当に根拠はそれだけである。何かが奥歯に挟まっているような微妙な違和感。

「それとだ、アール。カシムは必ずオレたちの元に帰ってくる。その為にも、オレたちは一度撤退しないといけない。カシムと再会する為だ。お前はカシムともう一度会いたくないのか?」

 ファーンの言葉に、アールの目の焦点が合う。目に力が戻る。

「あ、会いたいです!会いたいです!会いたいです!!」

「よし!じゃあ、ミル、アール。まずはどんな事があってもジト村に戻るぞ。話しはそれからだ」

 ファーンは強引に話をまとめると、マントを大きく膨らまして、毒の靄が立ちこめるエリアに歩き出す。

 ミルはアールを助け起こすと、2人で手を繋いでファーンを追った。



◇     ◇



 処刑海岸では、激しい戦闘が行われている。

 処刑海岸の沿岸も、アール海の南部なので、場所によって程度の差はあれども、十数キロにも渡っての遠浅である。

 通常ならば戦艦の様な大型船は航行不可能である。

 だが、グラーダ狂王戦争後に、グラーダ三世自身の手で、アール海南部に航路を切り開いた。

 地理学者、漁師、海洋学者などに調査させた結果を元に、海底を大きく抉って地形を改造したのだ。

 そうした航路がいくつもあり、船はその航路のみを移動する。

 処刑海岸沿岸にも航路がある。

 戦艦が配置されているのは、その航路のみである。その為、遠海のように、大きく布陣は出来ていないし、縦横に動き回る事は出来ない。

 だが、相手は生身の魔神である。

 むしろ、広くて頑丈な護衛艦の甲板や、海中を戦場とした方が都合が良かった。

 また、今回の戦いで、青薔薇騎士団の護衛艦隊は全て破壊されても良いとの方針で準備が進められていた。


 それ故に、戦闘艦も突撃艦も、少しでも攻撃を受けそうになったら、すぐに護衛艦を盾とした。

 

 甲板の上では、青薔薇騎士団の兵士たちが全力で戦っている。

 一つの護衛艦に魔神を複数人集中させて、そこに集団魔法を叩き込んで、護衛艦もろとも破壊するような攻撃も、容赦なく実行されている。

 

 海中には、リザードマンの戦士が飛び込んで、水中戦を繰り広げていた。

 また、青薔薇騎士団には、少数だが、マーメイドの戦士も所属しており、こちらは完全に水中戦に特化した戦士だけに、数人がかりでだが、魔神とも充分に渡り合っていた。


 青薔薇騎士団の団長であるクリューガー将軍も、海中で死闘を繰り広げていた。

 愛用のトライデントは、麻痺の効果がある魔法道具の武器、つまりは「魔武具」である。聖剣や魔剣と違い、魔法道具である以上、その効果は絶大で、例え魔神であろうとも充分に効果を発揮する。

 クリューガー将軍が対峙しているのはソロンの配下である「アジ・ダハーカ」という3人の幹部の1人、二の頭イルルヤンである。

 この戦場に、一の頭、三の頭の姿は無いので、扉をくぐらずウラノス居城の地下室で水死したか、逃げ延びてソロンと共に帰ったか。

 

 いずれにせよ、魔神王の幹部が相手である。12将軍だとて、単騎では勝ち目は無い。副将のバックマンと、マーメイドの部隊長である、エナドと、新人ながら有能なメグが加勢する。

「撹乱するでぇ~~~!!」

 まだ幼さの残るマーメイドの女戦士メグが、間延びした口調で言うと、周囲に水魔法の盾を回転させながら、猛烈な勢いで泳いで、二の頭イルルヤンの周囲を旋回する。

「ワイも負けとれんなぁ~~~!!」

 こちらは熟練のマーメイドの男戦士エナドも張り切って水魔法の銛を複数自身の周囲に配置しながら、イルルヤンの周囲を、メグと2人で旋回する。

「あの速さは、我等には出せませんな」

 バックマンが感心する。

「油断するな。連携して奴を倒すぞ!!」

 そう言いながら、実に楽しそうにクリューガー将軍が、トライデント「河豚毒ふぐどく」を手に、本命となる攻撃をするためにイルルヤンに突進していく。


『アビス・フォールン!!!』


 重力の鎖で相手を縛り付ける魔法をイルルヤンに放つ。

「ふん。小賢しいわ!!」

 自らは空気の層に包まれていて、水中では満足に動く事が出来ていないが、空気の層に入ってきた重力の鎖を、魔力を込めた自らの拳で打ち砕く。

 そして、長い黒髪の中から、ずるりと長大な鎌を引きずり出し、周囲を旋回する2人のメーメイドに斬りかかる。

「死ね、魚類!!!」

「きゃああああっっ!!!」

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