二日間の戦い 戦闘、戦闘、戦闘 1
12月20日。9時30分。
グレンネック国の南の都市ギスクから、北に40キロ地点に広がるレートロン平原で、第4回の演習が始まった。
「来たぞ!今回こそ、我等の勝利だ!!」
エルカーサ国の大将軍ユリウス・マヌエルが叫ぶ。
最終演習の総大将は、このマヌエルが執る。
各国から、国王や、大臣等の偉い身分の者たちが集まって、ずっと後方で演習を見学しているのだ。
マヌエルは単純に張り切る。それをプレッシャーと感じない分、かなり神経は太い人物だと言える。
「障害物が増えたな」
レートロン平原に入ってすぐにグラーダ三世が呟く。
「隠す気が無いのか?」
エクセルがニヤニヤしながら言う。
「前回の奇策が通じると思うのか?」
アポロンがため息を付く。
「アポロンよ。今回も我等は直進の力攻めだ。前回の策についても知らない物として当たる」
グラーダ三世が振り返って言う。
「アルバスよ・・・・・・。力の消耗は好まぬのだがな」
アポロンは苦笑する。かなり表情が柔らかくなった。
「しかしアポロン。見たところ、前回よりもお主の力は増している様に見えるが?」
エクセルが指摘する。
その通りで、この演習で無双の強さを振りまく3人に対して、65万の兵士たちは強い畏敬の念を抱いている。その思いは、演習の報告を聞いた各国の人々も同様だった。
自然とアポロン神殿に多額の寄付金が贈られる様になり、総じて、アポロンの力は、消耗分を上回る魔力の回収が出来る様になっている。
「神というのは、がんばればがんばるほど弱くなるが、この様に楽をしていれば勝手に強くなれるのだ。いずれは2人よりも強くなるやも知れんなぁ~」
アポロンがニヤニヤ笑って言う。
すると、それを聞いたエクセルが笑い返す。
「グラーダ三世よ、聞いたか?この御仁はこれまで楽していたそうだ。であれば、今回はしっかり働いて貰い、我等が楽をしよう」
「ふっふっふっ。アポロンよ。礼を言っておこう」
グラーダ三世も笑う。
「・・・・・・くぅ」
3人は、まるでピクニックでもしに来たかのように、平然と会話を楽しみながら戦場の中心にまで入り込んだ。
その時、背後の地面の下から、歩兵集団が現れ、3人に殺到してきた。
「な、何?!」
グラーダ三世が驚く。
「こ、これは」
エクセルも戸惑い、アポロンも渋い表情を浮かべる。
「うおおおおおおおおっっ!!!!」
背後に掘られた塹壕から、次々と兵士たちが出現して3人に雄叫びを上げながら突っ込んでくる。
それを驚きと共に見ていたグラーダ三世の表情がみるみる怒りの形相に変わる。
「まさか、前回と同じ戦法で、しかも機動力に劣る歩兵を使うだとぉ~~~!!!」
歩兵たちが3人に届く遥か手前で、グラーダ三世の闘気の一撃が数千の兵士を吹き飛ばした。
「悪し!!悪し悪し悪し悪しぃぃぃっっ!!!!」
グラーダ三世は、容赦なく歩兵を吹き飛ばしていく。 その横でエクセルが土の精霊魔法を使って、塹壕を埋めてしまう。
「これは軽くお灸を据えるかな」
アポロンも呆れたように手を上げて上空に巨大な火球を生じさせる。そして、それが極小に弾けて、周囲から殺到する、またはすでに倒れている者に降り注ぐ。
「ぎゃあ!!」
「あちちっ!!」
アポロンにしては非常に攻撃力の低い魔法で、極小の炎に触れた者は、軽いやけどを負う程度のダメージだった。
歩兵の次は正面に前回作られた隘路から騎馬軍団が殺到してくる。
同時に飛行部隊も飛び上がる。
「何だ、このただの力業は・・・・・・」
エクセルがため息を付く。
「死にたいらしいな・・・・・・」
障害物に隠れての、ただの物量作戦である。
普通の戦闘であれば数は力である。充分有効な手とも言えるが、対魔王戦では、それがいかに無謀な事か、第一回、第二回の演習で充分知らしめたはずである。
にもかかわらず、この体たらく。
グラーダ三世は怒りの感情をむき出しにしていた。
それだけで地面が揺れた。地面が割れた。凄まじい風が吹き荒れる。
これまで隠していた闘神王の本当の力が、一瞬発揮された。
怒気だけで吹き飛ぶ兵士たちを見て、ようやくグラーダ三世は自制心を取り戻す。
「アルバスよ。まあ、稚児の戯れ事と許してやれ。見所が無い訳では無かろう」
アポロンが思わずなだめる。
「う、うむ、そうだな。これも演習の目的の一つだ。・・・・・・ただし、今日は徹底的にやられて貰おう」
そう言うと、グラーダ三世は禍々しい鎧兜の姿で、毛皮のマントを翻しながら迫って来る連合軍に突進していった。




