表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十四巻 二日間の戦い
757/1036

二日間の戦い  処刑海岸の戦い 1

挿絵(By みてみん)



 紫竜と対峙していた時に、突然右目が熱くなり、痛みが走った。

 次の瞬間、俺が目にしたのは、アクシスだった。

「ア、アクシス?!」

 俺は思わず小さく呟く。

 それに気付いたアクシスが振り返る。

 アクシスも、突然俺が出現した事に驚く。


 だが、俺の驚きは、それだけではない。

 アクシスは、何故かメイド服を着て、雑巾で窓際に飾られている高価そうな花瓶を磨いていたのだ。

 突然の出来事にもそうだが、王女であるアクシスが、メイド服で下働きをしている事に、いっそう混乱した。

 とっさに幻覚魔法を掛けられたのだと判断したが、そこでアクシスが反応を示す。

「お、お兄様?!」

 瓶を磨いていたアクシスの栗色の髪の毛が、一瞬で黄金色に変わる。

 そして、俺目がけて飛び付いてこようとする。が、その弾みで、磨いていた瓶が台座から落ちる。

 それに気付いたアクシスは、とっさに瓶の下に滑り込んで、見事瓶を受け止める事に成功した。

「ふう。危なく嫁失格になるところでしたわ」

 ちょっと意味不明な事をつぶやくと、瓶を丁寧に台座に戻し、雑巾を台座に置くと、クルリと振り返り、再び俺にダッシュする。

「お兄様ぁぁぁぁーーーー!!!」

 反射的に受け止めると、アクシスは俺の胸に凄まじい頬ずりをする。

「お会いしたかったですわ!!お会いしたかったですわ!!!」

 「なぜ?」「どうしていきなり?」とかの疑問を放り投げて、無条件で俺に会えた事を喜ぶアクシスの、その反応と、受け止めたこの感触は、どうやら本物のアクシスのようだ。

 さらに、胸当てに「ゴッ」「ガツッ」と顔をぶつけまくって、鼻の頭やおでこなどが赤くなっているが、それを気にしない辺りもアクシスだ。

「ちょっと待て、アクシス」

 俺は強引にアクシスを俺から引き離す。


 「どうしていきなり?」の疑問には俺は答える事が出来る。

 ほぼ間違いなく、コッコに貰ったドラゴンドロップ製の右目の義眼による物だろう。

 問題は「なぜ?」の方である。

 「愛する人の現在を見たり、会いに行く事ができる」という、謎な性能を持っている義眼だが、過去には一度だけ、アクシスの危機を見て、助ける事が出来た。

 それは良かったのだが、なぜアクシスだったのか?今回も、アクシスの元に、突然転移してしまった。

 俺が愛しているのって、実はアクシスだったのか?!

 奇妙なショックが俺を襲う。

 違うはずだ。俺にとって、アクシスは妹のような存在でしか無い。それが「愛」だというなら、家族愛と同じ物だ。

 

 俺に押しのけられたアクシスは、「お預け」をくらった子犬のように、情けない顔をしてソワソワしている。

「お、お兄様?そんなにわたくしの事を見つめて、どうされました?」

 頬を赤く染めて言う。それから、ハッとしたようになり、目をつむって口を尖らせる。

「いや。チューしようとしている訳じゃないぞ・・・・・・」

 そう返すと、アクシスは目を見開いて叫ぶ。

「どういう事ですの?!今の感じ、いけそうな雰囲気でしたのに!ビアンカーーー!!」

 相変わらずだな。俺は呆れて、さっきのショックが和らいでいく。

「あ、そうでした。ビアンカはいないんでしたわ」

 アクシスがブツブツ言う。


 そこで、俺は気になった事を尋ねた。

「アクシス。どうしてそんな恰好をしているんだ?」

 俺の問いに、アクシスは、ニッコリ微笑んで、クルリと優雅にその場で回転して、お辞儀してみせる。こうした仕草は、流石に王女だけあって、見事としか言いようがない。

「これはメイド服ですの。今はわたくし『ヨーメイ』という名前で身分を隠しておりますので、大きな声で『アクシス』とは呼ばないで下さいませ」

「ヨ、ヨーメイ?なんで偽名なんか使ってるんだ?何かあったのか?!」

 俺は周囲の気配を探り、身構える。

 以前はアクシスの危機に義眼が反応した。ならば、今回もアクシスは危機に瀕しているのかも知れない。

 

「お兄様?」

 アクシスは俺の反応にキョトンとしている。

 景色は、立派な館で、恐らく3階に位置するこの場所の窓から見える景色も、田舎ののどかな風景だ。実に平和そうだ。

「・・・・・・何があったんだ?ここはどこだ?」

 明らかに言える事は、ここはグラーダ国の王都メルスィンではないと言う事だ。アクシスが王都から、それどころか、王城からも外に出る事など滅多に無いはずだ。

 それだけに、確実に異常事態である。

 だが、アクシスは平然としている。

 俺は頭が混乱してくるのを感じる。いや、すでに大事な事が一度に吹っ飛ぶくらいには混乱していた。

「ここはペンダートン領のペンダートン家の御館おやかたですわ」

「は?ペンダートン領?!」

 ペンダートン領は、グラーダ国の南東の外れにある田舎の領地だ。俺も産まれてから数えるほどしか来た事がない。

「なんで?」

「理由は分かりませんが、秘密の休暇らしいですわ。ギルバートが手配してくれました。それで、ここでは身分を隠した客として来たのです」

 アクシスは首を傾げながら答える。

「きゃ、客なら何でメイド姿で雑用してるんだ?」

 それが分からない。ペンダートン家の者も、客に雑用などやらせる訳が無いのだ。人員は充分に足りているはずだ。

「わたくしがお手伝いをしたいと言い出したんです。嫁になるのだから、ここでアピールしないといけませんから!」

 アクシスが胸を張って言う。何を言うか、この爆弾娘は。この事がグラーダ国王に知れたら、これまた大変な事になりそうだ・・・・・・。

「花嫁修業を兼ねておりますの!!」

 だから、やめろって・・・・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ