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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十四巻 二日間の戦い
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二日間の戦い  花園館《ノール・ベル・ベルン》 5

 リラとエレナは拍子抜けした様子で、互いに顔を見やる。

 そこに、ゆっくりとドアの陰から出て来て、ゴブリンロードが首を傾げる。

「それで、今度はわたくしから質問してもよろしいでしょうか?」

 リラは頷く。

「その素晴らしく美しい精霊は、もしやそちらのお嬢様の精霊でしょうか?」

 ゴブリンロードは手のひらを上にして、手全体で、エリューネを指し示す。指を差すなどと言った、不躾なマネはしない。

 リラは、エリューネを誉められたので、悪い気がしなかった。

「そうです。ハイエルフに頂いた風の精霊です」

 リラが答えると、ゴブリンロードは、またしても演技がかった大仰な身振りで驚きと感動を表す。

「素晴らしい!実に素晴らしい事です!人間族が精霊を使役していらっしゃる。しかも、こんなに美しく生き生きと成長させるなどと言う事は、実に驚きです!お嬢様は、類い希なる感受性の持ち主なのでしょう。心の美しさが、その精霊を見れば理解出来ます!」

 リラは、自分が誉められると、少しいたたまれない気分になる。そんなにたいした人物では無い。ただの田舎者だという自覚がある。

「・・・・・・その、『お嬢様』はやめて下さい。私はリラ。そして、こっちの子はエレナです」

 リラは素っ気ない態度で告げる。

「承知つかまつりました。リラ様。エレナ様」

 ゴブリンロードはうやうやしくお辞儀をする。


「それで、あなたは何ていう名前なのですか?」

 ゴブリンロードに敵意が無い事を知ったリラは、警戒とエリューネの防御を解くと尋ねる。

 すると道化の仮面の頭を傾げる。

「はて。皆様はわたくしめを『ゴミ』とか、『ウジ虫』とか『くさいの』とか呼んで下さっておりますが、そもそも名前などございません。お二人もそのようにお呼び下さい」

「え~~。『呼んで下さってる』って、あんた、それ悪口だよ」

 エレナが呆れたように言う。

「しかし、わたくしは卑しいゴブリン風情なので、充分に勿体ない呼称かと思っております」

 ゴブリンロードはしかつめらしく答える。一切不快な感情を抱いていないのは、その口調から分かる。

「・・・・・・そう。でも、私は不愉快だし、そんな呼び方をしたくないです。ですから、適当な名前を付けますが良いですか?」

 リラが言うと、ゴブリンロードは戸惑った様に首を傾げる。

「・・・・・・いや、しかし。わたくしはゴブリンですから、名前など不要ですし、勿体ない」

 リラは、ゴブリンロードの卑屈な物言いに、次第にイライラして来た。

「いいから!あなたの名前は今から『ニーチェ』!少なくとも私はそう呼びます!」

 リラはビシッと指を差して宣言する。

「そ、そんなぁ!そんな立派な名前を頂けるとなると、まるで仲良くなったみたいで、紫竜様に叱られます!!」

 ニーチェと名付けられたゴブリンロードは哀れそうに床に崩れ落ちる。

「嫌なら、『アレクサンドル』って名前にしますよ!?」

 リラは容赦しない。「ニーチェ」は哲学者。「アレクサンドル」は征服王だったか。

「ああ!そんな大それた名前を選ばれるとは、リラ様も罪深い・・・・・・」

 ニーチェはブツブツ言いながら、床から起き上がる。

「分かりました。けれど、皆様の手前、余り大きな声で呼ばないでくださいまし・・・・・・」

 渋々といった風に、ニーチェが仮面越しにチラリとリラを見る。

「まあ、名前があった方が呼びやすいんだから、あんたも良かったじゃないですか」

 エレナは深く考えずに言うと、遠慮無くニーチェの肩をバンバン叩く。


「さあ、それじゃあ、ニーチェ。この館を案内してくれますか?」

「はい。喜んで」


 ニーチェが先に立って、廊下を進む。

 館の中は、どこもかしこも豪華で、明るく、塵一つ落ちていない清潔な物だった。

 リラが驚いたのは、何人もの女性にすれ違うが、その年齢は様々で、20代から、老女までいる。

 種族は人間族が多いが、中にはドワーフ、エルフ、センス・シア、獣人、リザードマンなどの特化人スピニアンもいた。

 ほとんどの女性が思い思いに着飾っていて、贅沢な宝石を身につけ、肌つやも良く、体格も良い。

 そして、ニーチェに連れられて歩くリラとエレナをジロジロと不躾に見てくる。品定めしている様子が分かる。

 そして、ニーチェを見ると、口元を歪めて不快そうに眉をひそめるのも目立った。

 

 サロンとなっている大きな窓のある広間に行くと、小さい精霊たちが、お盆を持って、酒やつまみを運んでいるのを見た。

「精霊?」

 リラは驚きの声を上げる。そして、エレナの方を見ると、エレナにも精霊は見える様で頷く。

「ああ。あれらは確かに精霊ですが、リラ様の精霊のように感情を持ち合わせておりません。紫竜様が、この館の管理用に作った物です。それぞれに役割を持って動いていますが、ただそれだけでございます」

 ニーチェが説明する。

 リラがフワフワ浮かびながらお盆を運ぶ精霊をジッと見つめる。

 サロンでは、その精霊の運ぶ酒やつまみを受け取り、女性たちが笑いながら飲食している。

 1人の女性が、リラに気付くと、ニヤリと笑って、酒の入ったグラスを床に落とす。

「あ」

 エレナが声を漏らす。

 即座に精霊がこぼれた酒もグラスも片付ける。

 女性はゆっくり立ち上がると、気取った足取りでリラたちの方にやってくる。

「『臭いの』。下がりなさい」

 女性はニーチェに侮蔑の表情を浮かべるとそう告げた。ニーチェは女性に対して、恭しくお辞儀をすると、壁際に下がる。

 女性はそれに一瞥もくれずにリラとエレナを上から下まで見回す。

 女性は人間族で恐らくは40代後半だろう。

「あなた、新入りね?つい先日も新入りが入ったばかりだというのに、運の悪い事ね」

 女性は気の毒そうにリラとエレナを見つめる。

 リラはハッとする。その女性の言葉で思い出す。ジト村で生け贄にされたリーザも、やはり生きていて、この花園館ノール・ベル・ベルンにいるのだ。と、言う事は、助けて逃げ出す事が出来るかも知れないのだ。

 壁際に下がったニーチェをチラリと見る。恐らく、ニーチェは尋ねたら隠す事無く教えてくれそうだ。

「まあ、ここは外に出られない以外は、とっても過ごしやすい所よ。困った事があったら、私たちで力になるわよ」

 そう言うと、談笑していた一団の元に戻る。

 言葉とは裏腹に、みな、ニヤニヤと含みのある笑みを浮かべている。


「ふんふん。新人いびりの様子見ってところですね。どこへ行ってもああいう連中はいますね」

 エレナは、呆れたようにリラに耳打ちする。

 女性ばかりのこの館でも、エレナは少しも嬉しそうにはしていない。

 一つに年齢的な守備範囲が有り、一つに、香水のにおい、化粧のにおいに辟易していたのだ。

 エレナの基準では、20歳以下の清潔感のあるナチュラルな女性が良いらしい。

 エレナは少しも臆していないが、周囲の女性をよく見ると、明らかに元冒険者らしい雰囲気を持った人もいる。獣人などは、エレナの動きから、どの位出来る奴なのか、品定めしている様がはっきりと見て取れた。

 リラは、軽く肩をすくめる。

「まあ、気にせず、この館の事をしっかり探りましょう」

 そして、ニーチェを伴い、更に探索をするのであった。

 

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