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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十二巻 二日間の戦い
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二日間の戦い  反逆者 5

「貴様にこれをやろう」

 そう言うと、ルシファーは、ルドラの右肘を掴む。その先は失われているが、切断面に、ヴァルチャーを押し当てる。

「?」

 訝しげにされるがままにしていたが、突然ヴァルチャーが形を変え、うごめき出す。そして、奇っ怪な触手を伸ばして、ルドラの腕の切断面に無数の触手の先端を突き立てていく。

「グアッ!?グアアアアアアッッ!!」

 苦痛と、おぞましい不快感がルドラを襲う。

 触手が腕の切断面から侵入して、腕を這い上り、首元まで達する。

 触手の侵入はそこまでで止まった。五角形の装飾品は、それでピッタリと腕の切断面に固定される。

 一度ひとたび、苦痛と不快感が止まると、後は違和感が無い。

「こ、これは?」

 ルドラは右腕を振って見る。

「地上人には不向きな武器だが、貴様の目的には適っている」

 ルシファーが小さく笑う。

「さあ、右腕があると想像して見ろ」

 言われるままに、ルドラは自分の右腕を想像する。

「グゥ・・・・・・」

 得も言われぬ脱力感の後、腕の切断面から、何かが盛り上がってきて、見る間に右腕を形作る。

 生じた右腕は灰色である。

 指を動かしてみるが、思った通りに動かす事が出来るし、感覚もある。

「これは・・・・・・」

「分かるか?」

「分からんでも無い・・・・・・」

 言うなり、ルドラは右腕を一振るいする。すると、腕の形が変わり、肘から先が灰色の剣となる。

「それは貴様の骨で出来ている」

 ルシファーが説明する。

「形も大きさも、好きに出来るが、余り大きい物を作ると、貴様の命を削る」

「脆くは無いのか?」

 ルドラの懸念はそこだ。カシムの剣に負けるようでは意味が無い。

「堅さなど、貴様の精神力次第だ。折られたり斬られたりするとしたら、それは貴様の精神力が足りぬという事になる。それに、折られようが斬られようが、何度でも生やせば良い。無論、強度を上げるのも、再生させるのも、貴様の命を削るがな。それが気に入らぬのであれば、ただの腕として使用すれば良いだけだ」

 ルシファーは突き放すように言い捨てる。

「・・・・・・充分だ。感謝する」

 ルシファーは満足そうに頷くと、さっさと部屋から出て行く。

「まあ、うまく生きて帰る事が出来たならば、存分に遊べよ」

 ルドラは慌てて部屋から飛び出す。すんでの所で部屋の鍵が閉まる。

 見ると、ルシファーは吹き抜けを飛び降りて出口に向かう。このままでは閉じ込められてしまうし、次はあの塔の番人も、ルドラを見過ごしたりはしないだろう。

 まずはここから生きて出なければならない。そして、魔界から脱出して、地上界に戻る。

 それが出来なくては話にならないと言う事である。

 ルドラは躊躇せず、底の見えない吹き抜けに身を躍らせる。





「それで、命からがら手に入れてきたのが、そのおかしな腕なんですか、ルドラ師よ」

 馬車の中の、正面の席に座る男がルドラに尋ねる。

 上品な巻き毛の金髪をした、美しい顔立ちをした男である。身なりも良く、貴族なのは一目で分かる。

「美しくないですなぁ~」

 他の地獄教の信徒は、ルドラを前に、こんな軽口は叩かない。皆、ルドラを恐れている。

 この男は、他の地獄教徒と違い、おかしな教義も魔王も信仰していない。

「美しさなど不要だ」

 ルドラが吐き捨てる。

「そうはおっしゃいましても、私が差し上げたあの二振りの魔聖剣はお気に召していたでしょう?あれらは美しかった」

 言われてルドラは不機嫌そうに男を睨みつける。この男の言う通り、確かにあの魔聖剣は美しく、気に入っていた。

「だが、押し斬られるようでは意味が無い」

 ルドラがムッツリして言う。

「いけませんなぁ、剣のせいにされましては。腕のせいなのではありませんか?」

 またしても痛い所を突く。それもまた、ルドラの考えていた所である。

 あの時点でのカシムとの腕の差は、明らかにルドラが勝っていたはずである。だが、押し斬られた。真に腕があるのであれば、決してそんな事にはならなかったはずである。

 今も敬愛するジーンであれば、カシムの剣が如何に優れていようと、ただの鉄剣で切り結べたはずである。

『腐っても兄弟子だ』

 カシムの力を、ルドラは知っていた。だから武器にもこだわったのだ。せめて互角の武器がなければ、フェアとは言えない。

 だが、男に対してはこう答えた。

「おかげで俺はまた強くなった」

 ルシファーとの戦闘体験は、「天才メイグリフ」の力を、確実に数段高めたのだ。


「まあ、私はどっちでも良いのです。あなたが生きようが死のうが。地獄教が魔王を呼び出そうと失敗しようと」

 男は上品な笑みを浮かべながら、流れるように言葉を繋ぐ。

「私はね。人が死ぬのを見るのが大好きなんですよ。だから、私の目の前で、沢山の人が死ぬのが観られれば、それで満足なんです」

 男はルドラに笑いかける。

「ですが、誤解しないで下さい。私は地獄教徒共がする、拷問とか、儀式とかには興味がありません。苦痛を与えて殺すだけなんて、ちっとも美しくありません。命と命がぶつかり合って、互いにその輝きを散らす様が観たいのです。すなわち戦争ですよ。私は壮大な戦争が見たいのです。グラーダ条約などが出来る前に生まれていれば良かったとつくづく思う。壮大な戦争を特等席で眺めるのが私の夢なんです。ですから、あなたには期待していますよ。」

 2人を乗せた馬車は、大街道メルロー街道を北上して行く。



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