旅の仲間 悪魔の鎧 1
「この悪魔の鎧を大量に作ったら、そうだな。シニスカを攻めに行こう。まあ、個人的な恨みもあるしね」
おお。本格的な悪ですな。わかりやすくていい。
「だが、その前に、エルフの大森林に行く必要があるな」
「エルフの大森林?!正気か?」
「もちろん正気だ。私自身が行く必要がないのだからな。この鎧が行けばいいだけだ。そこで、ハイエルフを捕まえてくる」
「捕まえる?」
ゼアルが嬉しそうに言う。
「そうだよ。これまで何人もの人間を掠ってきてはこの鎧に閉じ込めて実験したけど、みんなほとんど動かす事が出来なくて死んでしまう。でも、先日ハイエルフの子どもがこの塔に来てね。他の連中と違って掠ったりしたわけじゃない。たまたまだよ。その子どもを悪魔の鎧に入れてみたところ、悪魔の鎧が動き出した」
ゼアルはクスクスとおかしそうに笑う。だが、今の言葉は聞き逃せない。
「・・・・・・って事は、今この鎧の中にハイエルフの子どもが閉じ込められてるというのか?」
「その通りだよ。色々調整していて、さっき終わったところだ。うん。実に良い気分だ。その子どもの命はどの位保つかな?そこらはまだわからんから、君たちに実験に付き合ってもらう。君たちのレベルはいくつかな?楽しませてもらえると有り難いんだけどね」
ああ。これで逃げる訳にはいかなくなった。ハイエルフの子どもを助け出さなければいけない。
「そこまで聞いて、黙って引き下がれるわけにはいかねぇ~なぁ!おい!!」
ファーンが怒鳴る。俺と同じ考えらしい。心強いな。
「おし!行け、カシム。鎧をぶっ倒せ!!」
お?おお・・・・・・。
「じゃあ、魔法使いはお前に頼む感じだな?」
俺が戦闘前にお互いの役割を確認する。
「バカかお前!鎧を倒したら、魔法使いもお前が倒すんだよ!」
「なんでだよ!お前は何するんだよ!!」
「何度も言わすな!オレは『探究者』なの!お前が戦うのを見るのがオレの仕事なの!」
「はあああ!?それマジだったの??」
「さいしょっからマジだっつーの!!」
そう言うと、ファーンはウエストバッグから手帳を取り出し鉛筆を構える。
「前!!」
ファーンが怒鳴ったので、文句を言ってやろうと思っていたのだが、あわてて前を向く。悪魔の鎧が剣を振りかぶって目前に迫っていた。
俺はとっさに、剣を左手に持ち、右手で腰の後ろに装備している剣鉈を抜く。あの攻撃に剣1本では折られてしまいかねない。剣鉈なら俺の剣より分厚く丈夫だ。剣鉈を前に、剣と交差して構えて悪魔の鎧の攻撃を防御する。剣鉈の峰部分で攻撃を受ける。
ギィィィィンッ!!
「っっっっっ!!!???」
十字で受けたのに、俺はたやすく吹き飛ばされて、すごい勢いで床に叩きつけられた。
「ぐああっ!!」
3メートルは吹っ飛んだんじゃないか!?腕の骨が折れそうな衝撃と、叩きつけられた背中の痛みで、すぐには立ち上がれない。
「くっ・・・・・・」
「何やってる!すぐ来るぞ!」
遠くでファーンが怒鳴る。そう、遠くで・・・・・・。あいつあんなに端っこまで逃げてやがる。逃げ足速いよな~。
「教えてくれて、ありがとよ!!」
俺は毒付きながらも、突撃してきた悪魔の鎧の上段からの切り下ろしを、かろうじて立ち上がって、横っ飛びに逃げる。
が、悪魔の鎧は切り返して横凪で俺を追撃する。俺は今度も十字で受ける。
ギイィィィンッ!!
簡単に腕が跳ね上げられ、俺は吹き飛ばされて床をゴロゴロ転がされる。
「ぐぅぅぅぅ・・・・・・」
たった2撃受けただけなのに、もう全身が痛い。剣鉈が折れなかったのは、ガトーが良い仕事をしてくれていたおかげだ。だが、そう何度も受け続けられない。
幸い、悪魔の鎧の動きは単純で、速さがそこまででもないから対応は出来る。落ち着けば攻撃が当たる事は無いだろう。少し余裕が出てきた。
「おい、ファーン!お前も戦えよ!!」
俺が怒鳴る。俺1人ではこの鎧止められそうもない。
「断る!」
ファーンの即答。
っと!鎧が連続して剣を振る。受けたら身が保たないので、とにかく避ける。思いっきり振りかぶっての攻撃なので、難無く避けられる。
「ふざけるなって!お前の2本の剣は何だよ!!」
すると、また本気であきれた様子のファーンが言う。
「カシムってマジでバカなのか?!今までオレの話し聞いてたか?昨日オレ教えたよな、お前に!!」
「何をだよ!?」
また剣を避ける。
「装備は冒険者の身分証代わりだって!」
「おう・・・・・・。つまり?」
「つまり・・・・・・飾りだ!!!」
言い切りやがった!
「バカはお前だ!!役立たずがっ!!」
ああ。もうコイツはあてにならない。俺は諦めて迫って来る悪魔の鎧に集中する事にする。
しかし、実際どうしたら良いのだろうか?
普通フルプレートなら、鎧の隙間を狙って攻撃するのだが、鎧の中にハイエルフの子どもが捕らわれている。2メートルを超える巨大な鎧の何処にどんな体勢で捕らわれているのかわからない。
関節部分を突いて、そこに捕らわれた子どもの体があったら目も当てられない。しかし、攻撃しないと助ける事も出来そうもない。
「くっそう!厄介だなぁ!」
俺は試しに鎧の胸部装甲を試しに叩いてみる事にする。
剣を思いっきり叩きつける。
ギィイイン!!
金属のこすれる嫌な音が響く。
硬い!剣を持った手がしびれる。これは防御力が相当高い鎧だ。普通に攻撃したんじゃ、俺ではどうにもならない。
反撃が来る。鎧の上段からの切り下げ。当たれば剣で受けても大ダメージ必至だが難なく躱す、と思ったが、振り降ろしの途中で剣の軌道が不自然に曲がる。鎧の剣が、振り下ろしから横薙ぎに変化し、俺の左肩に迫る。
ギャリリイイインッッ!!
「っっっっっ!!??」
ぎりぎりで剣鉈を鎧の剣と俺の体の間に滑り込ませる事に成功したものの、俺は思いっきり吹っ飛ばされる。
「うわああああああっっ!?」
空中を何回転もしながら飛ばされてしまった。しかも斬撃が届いていて、肩から鮮血が飛び散る。もう一つついでに、剣鉈を持っていた手のひらの骨にヒビが入ったようだ。肩の傷は深くはないが、両手とも、充分に力が入らない。
悪魔の鎧。とんでもない力だ。




