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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十三巻 赤い目
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赤い目  紫の邪竜 2

「毒性ってどれぐらいの物なんでしょうか?」

 リラが尋ねる。

 それにもカシムが応える。

「一般的には、紫炎山の火山性ガスじゃないかって言われている」

「くさい奴か?」

 ファーンが尋ねる。

「ああ。それもあるだろうけど、火山性ガスは一つじゃ無い。無臭で透明のガスもある。一呼吸で死ぬような恐ろしい物も普通にある」

「げげ!?それはやばいな・・・・・・」

「そうだ。やばいんだ」

 カシムの言葉に、ミルはチラリとリラを見る。

「エリューネでなんとかなる?」

 風の精霊で、真空の層を沢山作って、外界と遮断する空気の結界を、リラは作れる。

「う~ん。みんなで一塊ならともかく、戦闘にでもなったら1人1人に作らなきゃいけなきゃだから、そこまではちょっと無理ね。それに、エリューネで結界を作ったら、そこだけ靄が晴れるから、すぐに竜たちに見つかってしまうわね」

 リラが肩をすくめる。

「じゃあ、カシムさんの案で行くしか無いですねぇ~」

 エレナはため息をつく。飛んで行ったら、竜種の格好の餌食になってしまう。

「毒ガスはさすがにミルも無効化できないからね~」

 ハイエルフといえども万能では無い。が、カシムたちは少し意外そうな顔をする。

「・・・・・・もう!水の中でも息が出来るとか思っていたし、ハイエルフってそんな怪物じゃ無いよぉ!!」

「いや。オレらからすれば、十分怪物だっての」

 頬を膨らますミルに、「ヒヒヒ」と笑ってファーンが言う。


「兄様。中央の山に入った後の事はどうしますか?」

 アールが控えめな質問をする。

「中央の山は小さくてほとんどが空洞。中の様子は分からないけど、地下に続いているらしい」

 山頂から中央の山を見るが、確かに遙か眼下に山頂が見える。だが、はっきりとは視認できない。黒いもやが山全体を覆っているのだ。その靄もおそらくは強い毒で、毒による結界になって中央の山を守っているのだろう。

 疑問があるとすれば、なぜ無敵の創世竜の棲み家が、ここまで厳重に守られているのかと言う事だ。

 あるいは、紫竜にとっては毒の中が居心地が良いのかも知れない。確か黄金竜の棲む島も、島中が毒の空気に汚染されているという話だった。


「中に入って様子を確認してから決めるつもりだが、紫竜に遭遇する前に、俺はみんなと別れる。みんながいた方が今回は話がこじれると思うから、そこは了承してほしい」

 そういうカシムに、エレナ以外の心配する視線が注がれる。

「ああ。もちろん、無理しないし、いざとなればさっさと逃げるよ。最悪なのは、竜騎士として認める代わりに、みんなを差し出せとか要求された場合だからな」

 カシムが苦笑しながら言う。

「それに、俺は紫竜の炎は効かないんだ」

「それ、本当なんですか?」

 リラが不安そうに尋ねる。

「少なくともコッ・・・・・・黒竜と白竜は保証してくれました」

 赤竜の鱗については、カシムは未だに内緒にしている。魔剣を使えていた理由が赤竜の鱗のおかげだった事を打ち明ける事が出来ずにいたからだ。今は竜牙剣があるから、見栄を張るつもりは無いのだが、なんとなくタイミングを逸していた。

 が、むしろ打ち明けるなら今、このタイミングなのだが・・・・・・。

「ま、結局は出たとこ勝負だな」

 ファーンが「ヒヒヒ」と笑って話をまとめる。




 翌朝から、竜の団一行は尾根沿いに紫鱗山に向かう。セイルディーン山脈の起点となる紫七輪山だが、険しい山では無い。尾根も紫牙山、紫剣山こそ切り立っている物の、他は丸みを帯びて歩きやすい。

 ただし、高低差はあるので、一度少し下ってからまた登る必要がある。


 また、尾根沿いは目立つので、マントを保護色にしてはいるが、一度ワイバーン1体に見つかってしまった。

 ワイバーンは群れで行動するので、仲間に知らされる前に、カシムの竜牙剣投擲と、ミルの忍術で手早く倒し、それからは紫輪山の外側斜面を進むようにした。その為、想定したよりも手間を掛けて紫鱗山の山頂にたどり着いたのは、正午過ぎだった。


「ここからなら火口もよく見えるな」

 紫炎山は、七輪山の中では一番標高の高い山だが、その火口は山頂では無く、七輪山の内側の山頂よりやや低い位置に口を開けていた。斜面にえぐれたような大きな火口の窪地がある。その中央のぽっかりと開いた穴からは、白い煙が立ち上っている。

 恐らくその火口から火山性のガス、硫化水素や二酸化硫黄が七輪山の内側に流れ落ちていっているのだろう。


「くさいですねぇ」

 エレナが鼻をつまむ。

「オレはこの匂いで温泉を思い浮かべるけどな~」

 ファーンが嬉しそうに言う。

「そういえば、これが終わったら温泉宿でしたよね!!」

 途端にエレナがうっとりした表情で言う。

「楽しみだよな~。でも、エレナは風呂入るとすぐのぼせるからな~。それは心配だぞ」

 カシムと違う感想を女性陣は持っている。

「いえいえ!確かにのぼせますけど、お風呂は滅茶苦茶好きですよ!!特に大浴場とか最高じゃ無いですか!!」

「おうおう!そうだよな~!露天風呂とかも最高だぜ!!」

 ファーンとエレナが盛り上がる。

「ミルはお兄ちゃんと入りたいな~」

「ダメです!」

 ミルの言葉に、すかさずリラが反対する。

「え~~?でもまたみんなで一緒に入ろうよ~」

「は?!って事は、前に皆さんと一緒に風呂に入った事があるんですか、カシムさん!?そこまで見下げ果てた変態スケベ男だったんですか?!」

 エレナが素早く食いついて、カシムに罵詈雑言を投げかける。

 カシムはうるさそうにして何も答えない。その横で、アールが赤い顔をして、心配そうにカシムを見つめている。



 そんなやりとりをしながら、カシムたちは休憩できる場所を探し、昼食にする。


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