赤い目 紫七輪山 3
村長からの、なかなかに重い話を聞いて、俺たちは村長の元から辞する。
「はぁ~~~あ」
ファーンが盛大にため息を吐く。
「やるせないけど、まあ、それでもここに住んでいるんだから仕方ねぇよな」
その言葉に、俺は頷く。
「嫌なら余所に住めば良い。それだけだからな」
それより、リラさんの様子が気になる。
「リラさん。どうかしましたか?」
俺が問いかけると、リラさんはようやくハッとしたように、顔を上げる。
「は、はい?何でしたっけ?私、全然話聞いていませんでした・・・・・・」
あれ?リラさんなら、この手の話は、むしろ積極的に聞きたいだろうに、単に心ここにあらずだったのか?珍しい。
「あれだよね~」
ミルが訳知り顔にリラの背中を叩く。すると、リラさんはミルを一睨みしてから、赤くなって頷く。
「あの、ほら・・・・・・。カシム君のさっきの戦い・・・・・・。あれかっこよくって・・・・・・、じゃない。あの技、どうやったのかと思って!!」
「あの技?」
俺が首を傾げると、ファーンも叫ぶ。
「そうだよ、それ!!お前、いつからあんな事出来たんだ!?普通に圧蹴、白銀の騎士並に使っていただろうが!?」
ああ~。そういえば光ってたんだっけ、俺?自覚無いけど・・・・・・。
確かに、圧蹴は、今何歩が限界なのかわからない。速度も今までよりも段違いに速くなっている。
「あれは、多分この間のゴブリン襲撃に駆けつけた時からだと思う・・・・・・」
特に言う必要ないと思っていたんだが・・・・・・。
「おいおいおいおい!オレのデータを大幅に書き直さなきゃいけない事案だぜ、それ!」
ファーンが手帳を出してきて、俺の胸元を手帳でバンバン叩きながら文句を言う。
「いや、悪い」
勢い謝ってしまう。
「悪いじゃねーよ!光ってたんだぜ!?何で光るんだよ!結局あれはどうやってるんだよ!!」
仕方が無いので、感覚的に、圧蹴をどうやっているのか説明する。
「はあ?それマジか?重力と星の核?壮大すぎてわからねぇ」
やっぱりそうだよな。俺もよくわからん。
「ただ、光る理由は、地面を強く蹴るからだと思う。じいちゃんの圧蹴の跡って、実は掘ってみると、宝石が出てくるんだ。つまり、砂や石を宝石に変える瞬間に光るんじゃ無いかと思うんだよ」
「宝石!?」
これにはアール以外の全員が叫ぶ。
「いや。多分大して価値のある石じゃ無いよ」
慌てて俺は言う。
「ええ~。でも、なんかロマンチックな技だよね~」
ミルがうっとりした様子で言う。
「じゃあ、そんな無骨な技名じゃ無くて、もっとかっこいい名前にしよーぜ」
またファーンが適当な事を言う。俺にその手のセンスは無い。
「王子様ダッシュ!」
王子じゃねぇし、かっこ悪いし。
「ダイヤモンドキック!」
キックじゃねぇし、ダイヤモンドなんて出来ないし。
「もう、技名は良いでしょ!?それより、体に負担は無いんですか?」
ふざけるミルとファーンを余所に、リラさんが気遣わしげに尋ねてくる。
「ありがとうございます。今のところは全然大丈夫です。むしろ今までより楽に技が出せるようになっています」
これは事実だ。いろんな歯車が合って行っているような感覚が今俺の中で生じている。力も早さも、技も。何もかもが凄まじい速度で成長している感じがする。
「兄様、兄様」
そんな俺の袖を、アールが遠慮がちに引っ張る。
「ん?」
「兄様。あの事も話した方が良いんじゃ無いですか?」
「あの事ぉ!?」
アールの言葉に、ファーンが素早く反応する。
俺にはアールの言わんとしていることがわかったので、頷いて肩をすくめる。
「闘気の剣だ」
俺たちはそのまま宿には戻らず、門番がもうすぐ閉門だという中、断って一度村の外に出る。
村の外の、ある程度開けた所まで行くと、そこで俺は竜牙剣を引き抜いた。
「『闘気』はわかるよな?」
俺がファーンに言うと、ファーンは頷く。
「ベテランの冒険者が見せる技だろ?剣の切れ味や攻撃力を上げるやつ。剣撃を飛ばしたりするやつ」
ファーンの言葉に俺は頷く。
「そうだな。ミルの『大円斬』も闘気の攻撃で、攻撃範囲を延長している」
俺が言うと、ミルは自覚無かったのか、首を傾げる。
ミルの望月丸は、刀身が22センチの短刀だ。にもかかわらず、胴回り4メートルを超えるトロルの胴体を真っ二つに出来る。これはまさに「闘気」の技である。
「俺はこれまでは多少攻撃力を上げる程度にしか使えてこなかった。まあ、『火事場の馬鹿力』的な瞬間芸だ。だけど、つい最近から、闘気を操れるようになっている」
そう言って、俺は剣を構えて、一気に横一閃する。
うっすら光って、俺の剣撃が飛翔し、数メートル先の草を切る。
「おお!?すげぇ!?高レベル冒険者みたいだ!!」
ファーンが感心して言うが、一応俺もレベル30超えているのだから高レベル冒険者だ。
まだ、数メートルしか飛ばず、攻撃力も離れるほど弱くなる。それでも使い勝手はかなり良い。
「あ、あの~」
それまで黙ってみていたリラさんが怖ず怖ずと俺に声をかける。
「何ですか?」
俺が尋ねると、リラさんが、上気したような赤い頬を押さえながら言う。
「その、『闘気』って、もしかしたら『エーテル』なんじゃないですか?」




